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「場づくり」だけにとどまらない。富士通が育むコミュニティと共創空間

新たなビジネスの萌芽や革新的なアイデアを生む仕組みとして、注目されているオープンイノベーション。WORK MILLではさまざまな共創空間を取材し、先行事例を紹介しています。今回新たに取材したのは富士通。
2014年9月に「HAB-YU platform(以下、HAB-YU)」、2016年5月に「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY(以下、PLY)」というふたつの共創空間を開設しました。富士通といえば、従業員数は16万人近くにものぼり、世界各国に拠点を持つ巨大企業。大手ICTベンダーとして、大手企業や官公庁など多くの基幹システムを構築しており、まさに日本の根幹を支えています。

 

そんな富士通が、六本木にあるHAB-YU(ハブユー)と蒲田にあるPLY(プライ)というふたつの共創空間を立ち上げたのには、どんな背景があったのでしょうか。それぞれの目的や狙い、そしてそれらがうまく機能する秘訣は……? 企画・運営に携わる柴崎辰彦さんと高嶋大介さんにお話を伺いました。

 

共創空間と自社メディアが激動の時代を生き抜く術

WORK MILL:高嶋さんはHAB-YU、柴崎さんはPLYを担当されているとのことですが、もともとはどういった仕事に携わってこられたのでしょうか。

 

—柴崎辰彦(しばさき・たつひこ)富士通株式会社 ビジネスマネジメント本部 戦略企画統括部長 あしたのコミュニティーラボ代表(2017年2月時点)。
1987年入社。テレカンファレンスビジネスなど数々の新規ビジネスの立ち上げに従事。CRMビジネスでの経験を踏まえ、2009年からサービスサイエンスの研究と検証を実践。2012年にコミュニケーション創発サイト「あしたのコミュニティーラボ」を設立。

 

柴崎:富士通はFMVやARROWS、スーパーコンピュータ「京」などメーカーとしてのイメージが強いのでしょうが、90年代以降、SEによる「サービスビジネス」を本格的にはじめました。今では収益のかなりの部分を全国約3万人のSEが稼いでいて、民間企業や官公庁などのシステム構築や運用に携わっています。私自身は2000年からSEサービスのコンサルティングに携わった後、現在は事業戦略を考えています。

—高嶋大介(たかしま・だいすけ)富士通株式会社 総合デザインセンター チーフデザイナー 富士通総研 実践知研究センター 研究員。
大手ゼネコンにて現場管理や設計に従事後、2005年富士通入社。ワークプレイスやショールームデザインを経て、現在では企業のワークスタイル変革や自治体の将来ビジョン、地方創生のデザインコンサルティングなどを担当。共創の場であるHAB-YUを軸に人と地域をつなげる研究と実践を行う。

 

高嶋:僕は統合マーケティング本部の総合デザインセンターに所属していて、マーケティング部門のデザイナーとして、お客さまのワークスタイルのコンサルティングを行ってきました。

 

WORK MILL:それぞれ広くコンサルティングに携わってこられたようですが、HAB-YUとPLYという二つの共創空間が生まれた背景には、昨今のビジネス環境の変化が関係しているのでしょうか。

 

高嶋:僕らの課題意識として、これからはお客さまとの共創型モデルへ移行していかなくてはならないというのがありました。やはり受託型だと「お客さまにお伺いを立てる」ような形になってしまう。真の意味でお客さまの課題を捉えきれないまま、予算に合わせた提案しかできない状態になってしまいます。マーケティング部門として、その関係性を変えていかなければならないと、5年ほど前からお客さまとの対話の場として、共創空間の必要性を訴えてきたんです。

 

柴崎:我々のようなITベンダーは、ニーズの高いものを商品化し、既存の技術を効率化するような、いわゆるマーケットリスクと実現・実行リスクの比較的低いフィールドで戦ってきたわけですけれども、それは競合も多く、価格競争に陥りやすい。「VUCAワールド」と言われるように予測困難な時代のなかで、これまでのような受託型サービスは頭打ちとなってしまうのでは、という危機感がありました。これからは、市場もまだ顕在化していないようなところを切り拓き、まったく新しい技術を開発して新たなプロダクトを生み出していかなくてはなりません。そのためにはオープンイノベーションを取り入れ、共創型のサービスモデルに転換することが必要なんです。

※VUCAワールド:Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧)の頭文字を使った造語。もともとはアメリカの軍事用語で、何が起こるか予測困難な時代背景を表す。

 

柴崎:そこでまずイノベーションプラットフォームとして2012年に立ち上げたのが「あしたのコミュニティーラボ(以下、あしたラボ)」という社外向けメディアサイトです。そこでは個人と企業、公共というそれぞれの観点から社会課題を検討し、その垣根を越えて解決していくための先行事例やそれに取り組んでいる人々などを紹介しています。
従来のSEは「依頼されたものを言われた通りにつくる」ことには慣れているけれど、お客さまと一緒にワークショップをしながら課題を共有したり、仮説を立てて検証し、答えを導き出したりするようなデザイン思考には慣れていないわけです。ですから、あしたラボでさまざまな事例を学びつつ、リアルに実践できる場としていろんな場所で「他流試合」というか、ワークショップやアイデアソン、ハッカソンを開催していったんです。
あしたラボを立ち上げたころ、高嶋さんや、その上司の平野(隆・チーフデザインディレクター)さんとも知り合って、「ちょうど共創空間を立ち上げようとしているところだから、ゆくゆくは連携しましょう」と話していたんですけど……それからHAB-YUができるまで結構かかりましたね。

 

高嶋:社内調整に時間がかかってしまって(笑)。他の場所での開設を模索していたのですが、(アークヒルズサウスタワーを運営する)森ビルさんと共同運営する形で実現して、2014年9月にこのHAB-YUを開設しました。

 

WORK MILL:着想からすぐに開設、とならなかったのは、何か社内で抵抗感のようなものがあったのでしょうか。

 

高嶋:当時は社内でもICTやハードウェアのデザインが重視されていて、共創型はまだまだマイノリティだったんです。それこそUX・UIデザインの効果や価値が浸透してきたのもつい最近じゃないですか。ただ、僕らデザイナーは現場の最前線でお客さまと対話して、一緒に価値を生み出していかなくてはならないと認識していました。このHAB-YUではお客さまとの対話やワークショップを主とした共創を目的として、基本的には必ずデザイナーが立ち会うことにしています。はじめのうちはここを会議室のようなものだと勘違いしていた方も多かったのですが、少しずつその意図が浸透してきましたね。

ー取材当日もワークショップが開かれていたHAB-YU

 

柴崎:富士通のブランドプロミスといえば「shaping tomorrow with you」です。この「with you」がポイントで、これまでは納入先に合わせた「for you」型のビジネスだったんです。それが「with you」になったことで、企業単位だったのが社会や地域など、より広い枠組みで捉えながら、並走型で考えていくビジネスになりました。そのなかで活躍できる新しいSE像として掲げたのが「SE4.0」。これからはクライアントとの相互作用で、今までにない価値を生み出す「Synergy Engineer」、新しいビジネスの種を蒔く「Seed Engineer」となってほしい。そのためには、そういった人材を育成する仕組みが必要だなと考えたんです。その仕組みのひとつがあしたラボであり、その姉妹メディアサイトの「Digital Innovation Lab(以下、DIL)」。これらの社外向けメディアはそれぞれに社内向けメディアがあって、計4つのメディアを運営しています。

 

WORK MILL:4つのメディアはそれぞれ位置付けが異なるものなのでしょうか。

 

柴崎:あしたラボは先ほどお話しした通り、ソーシャルイノベーションや社会課題を考えるメディアで、DILは最新のデジタルテクノロジーやビジネスについて考えるメディアです。これらのメディアはプロのライターが記事を書くのではなく、SEが自分たちでテーマを決めて、リサーチしたり取材したりしたことを記事化するんです。たとえば、オープンデータで有名な福井県鯖江市や予防医療に取り組む歯科など、社会課題と向き合う現場に行って、追体験して、それを社内外にフィードバックします。

鯖江の移住事業から見えた、オープンイノベーションの起こし方 ——福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト(前編)
(出典:あしたのコミュニティーラボ 撮影:川本聖哉)

 

柴崎:あしたラボ立ち上げ当初から社内外でも評判になって、社内版をつくることになったのですが、社内版はそれぞれのメディアと対になる形になっています。全16万人の社員が見られるようになっていて、それぞれの記事にSNSのようにコメントや「いいね!」でレスポンスが返せるんです。極端なことを言えば、社長が書いたコメントに対して新入社員が質問することも可能です。そうやって、社内メディアを社内のイノベーターの発掘とイノベーションを生み出す土壌の形成に活用して、そのリアルな場としてイベントやワークショップ、アイデアソンなどを開催するようになりました。「ハッカソン戦士求む!」と募集をかけて、社外のハッカソンに参加する人材も発掘しています。イベント等は2014年にHAB-YUができてからはここをホームグラウンド的に使いつつ、さらに2016年にPLYを作ったことで、さらに活発に開催できるようになりました。

※SE4.0=富士通が掲げる新しいSE像。System Engineer(クライアントのシステムを正確に運営するプロフェッショナル)、Solution Engineer(クライアントに解決方法を提案できる)、Synergy Engineer(クライアントとの相互作用で、今までにない価値を生み出す)、Seed Engineer(新しいビジネスの種を蒔く)

 

共創空間と自社メディアでリアルとバーチャルを行き来する

WORK MILL:HAB-YUとPLYはそれぞれどのように使い分けられているのでしょうか。

 

 

柴崎:PLYはSEが多く在籍する蒲田の富士通ソリューションスクエア内にあります。ここはセキュリティゲートを通らなくてもいいオープンなイノベーションスペースで、競合ベンダー各社の方々もお忍びで来られるくらい(笑)。
「機密情報を取り扱っているすぐそばで、そんなオープンなスペースがあっていいのか」という声もありましたが、それが気になる人は使わなくてもいい。要は、「SEの道場」のような位置付けなんです。共創型の開発をやったことがないSEをいきなり実地に放り込んでもできるわけがないですよね。ワークショップのやり方やプロトタイプの作り方を体験できる機会と場を提供しているんです。たとえば、あしたラボの社内版でイノベーション講座を連載して、そのリアル版の講座をPLYで開催したり、社内外のアイデアソン・ハッカソンの参加者やビジネスコンテストの審査員を募集したり、実際にアイデアソンやハッカソンをPLYで開催したりしています。

 

高嶋:HAB-YUの場合はお客さまと一緒に考えたり、社内の事業戦略を検討したり、ビジネス的な要素があるので、「オープンイノベーション」と言いつつ、わりとクローズドな部分もあるんですよね。ただ、最初に考えていたのは極力「富士通」という名前を出さず、ある程度匿名性を保とうということ。「富士通」というと、何か「ICTにしなければ」という制約になってしまうんじゃないか、って。そういう枠組みからも離れて、まずはビジネスを根本から考えて、変えていこうという意味で。その一方で、柴崎さんのあしたラボなどとも連動して、イベントを開催したり、人が集まったり、ソーシャルな活動の拠点にしてもらったことで、刺激をもらっています。今だから偉そうに言ってますけど、場を運営すること自体未経験でしたから、イベントのやり方もわからなかったんですよね。今はHAB-YUとPLY、それぞれの特性を使い分けながら、バランスが取れてきているんじゃないかと思います。

 

柴崎:リアルの場もだんだん多様化が進んできて、浜松町にはもともとショールームがあった場所に「FUJITSU Digital Transformation Center」というお客様との共創ワークショップ空間を開設し、アークヒルズには会員制のDIY工房「TechShop Tokyo(以下、TechShop) 」があるんですけど、PLYやHAB-YUは利用目的が異なります。

 

高嶋:おそらく、富士通の製品に行き着く以前の部分ですね。これまでのように受託型ビジネスで、「要件が出てきてから作る」じゃなくて、もっと上流で「お客さまと何をしていきたいか」とか、「要件そのものを作る」みたいなところからやっているんです。ですからHAB-YUの役割は、お客さまとの関係作り。そこからビジネスになるような種や環境を作るのが、この場所の役目なんです。まずはお互いが何者かを知って貰うんですね。もっと言えば、そこから生まれる関係性もある。それから具体的なサービスやソリューションに落としていくのが、PLYなのかなぁ、と。

 

柴崎:そう、あしたラボやDILはエントリー的なものですよね。そこでオープンイノベーションの先行事例や最新のテクノロジーを学びつつ、HAB-YUでワークショップやアイデア・テーマ出しをやったあとに、PLYでハッカソンをやったり、SEとともにサービスのプロトタイプを作ったり……TechShopではモノづくりだってできる。そうやって、共創空間と複数のメディアで、リアルとバーチャルを行き来するっていうのは意識しています。

 

高嶋:それだけ「場」を持っているというのは、富士通の強みだと思うんですよね。

 

コミュニティの起爆剤となりうる共創空間を

WORK MILL:社内/社外メディアを立ち上げてマインドセットを共有し、社内SNSでコミュニティを生み出し、共創空間というリアルな場でワークショップやハッカソンを行う……。まさに理想的なバーチャルとリアルの循環が生まれているんですね。けれどもそれを真似しようと思っても、なかなかそうはいかないような気がするのですが、なぜうまく機能しているのでしょうか。

 

 

柴崎:ひとつには、私の本業があくまでSEサービスのコンサルティングで、全国3万人のこれからの働き方を考えなければならない、ということがありますよね。PV数やいいね!数はあまり気にしません。純粋に人びとの信頼感や共感のみでつながっていて、何かを議論したり共有したりする場になっているんです。まだ「あしたラボ」だけだったころ、「知識経営(ナレッジマネジメント)」の提唱者で一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんに、アドバイスを受けたんです。野中先生の「メディアを使って『SECI(セキ)モデル』を実行してみたらいいんじゃないか。社外のメディアは機能しているから、社内版を作ってみてはどうか」と。そのアドバイス通りに、社内の議論を外に持っていって議論や発表をしたり、他のファブラボからキーパーソンを連れてきて、社内のモノづくり研究会とイベントを行ったり……そうすると社内外の行き来がうまく機能してきました。そこで、それまでのソーシャルイノベーション領域だけでなく、デジタルビジネル領域にも拡げて、HAB-YUやPLYが生まれて、TechShopがつながって……生み出される価値がどんどん大きくなってきたんです。

※「SECI(セキ)モデル」:野中郁次郎氏らが提唱した「知識経営」の根幹をなすフレームワークのこと。「共同化(暗黙知を共有し、新たな暗黙知を創造する)」「表出化(暗黙知を形式知へと洗い出す)」「結合化(洗い出した形式知をもとに新たな知識を創造する)」「内面化(新たな知識を広め、新たな暗黙知として習得する)」という4つのプロセスのサイクルを回す。

 

高嶋:HAB-YUがやっているのは、ある意味実験なんですよね。ここで行われたワークショップなどで生まれたアイデアを「アイデア・ノウハウカード」として蓄積していて、それを次に活かしていく。バーチャルとリアルって、それぞれ概念と実践のようなイメージですけれど、HAB-YUはちょうどその中間からバーチャル寄りというか、概念的なアイデアやシードを蓄積して、それをPLYなどに受け渡していくような感じです。あと、場という意味では、普通の会議室で行うミーティングやブレストよりも、参加者のモチベーションやアイデアの質が違うと思うんですよ。お客さまと一緒に物事を考えるとき、どれだけ良質なアウトプットを作れるかが大事じゃないですか。それが最終的な成果にも関わってくる。それはHAB-YUが生み出している価値だと思います。

 

WORK MILL:アイデア・ノウハウカードのほか、良質なアウトプットを生む工夫としてどういったものを用意されているのですか。

 

高嶋:「しゃべるカード」「インスピカード」というアイスブレイクやチームビルディング用のカードでアイデアを引き出したり、空間をUIデザインでデジタル化して、デバイス共有してより感覚的にアイデア出しを行ったりしています。ただ、これはあくまでハードでしかなくて、重要なのはソフト面、どういうプログラムがアレンジされているか、ということだと思うんです。来られた方に最適な場を用意し、一緒に考える環境を作る。そこをうまくやれるかどうかが、HAB-YUの存在意義だと思います。

 

柴崎:やっぱり、若手がHAB-YUのワークショップに参加すると、目をキラキラさせて帰ってくるんですよ(笑)。あと、「Innov8ers(イノベーターズ)」というプログラムがあるのですが、社内でイノベーションに取り組んでいる挑戦者をInnov8ersと呼んで、ピアメンタリング(同じ関心を持って活動している対応な立場の人同士で行う対話形式のメンタリング)を実施して、その様子をあしたラボの社内版で発信しています。上司や上の立場の人からメンタリングしても、なかなか聞き入れてもらえないじゃないですか(笑)。それよりは、目線の近い2、3歳上の先輩から「プロトタイプを作ってこんな提案をしたら、IoTを導入してもらえた」と経験を語ってもらったほうが、さまざまな気づきが得られる。共創空間はどうしても場を作って終わり、というふうになりがちですけど、まず先にメディアを軸としたコミュニティがあって、その活動をさらに活性化するために場ができた。ですから、あしたラボの立ち上げからHAB-YU、PLYの設立までには時間がかかりましたけど、結果的にはよかったんじゃないかと思うんです。

 

***
後編では、共創空間とメディアがもたらした社内変革について伺います。

 

・記事後編_人と情報の回遊が富士通に変革をもたらす

 

2017年4月11日更新
取材月:2017年2月

テキスト:大矢 幸世
写真:中込 涼
イラスト:野中 聡紀

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