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「ズルい街」京都を通して考える、これからの働き方

2015年12月、京都に新たなコワーキングスペースとして誕生した「MTRL KYOTO(マテリアル京都、以下MTRL KYOTO)」。築110年の三階建物件をリノベーションしたこの施設は、コワーキングやイベントのために来る人、カフェ用途で訪れる人、特に用事もなくふらっと立ち寄る人で、日々賑わいを見せています。

 

前編の記事では、運営元のクリエイティブ・エージェンシーである株式会社ロフトワークの森内章さん、牧貴士さんに「MTRL KYOTO」の設立背景やコンセプトについてなど、「働く場所」にまつわるお話をうかがいました。後編となる今回は、テーマを「働く場所」から「働く街」へと移し、「京都で働くこと」によって得られた気付きや意識について、お二人に語っていただきました。

 

・記事前編_「MTRL KYOTO」がもたらす、「働く場所」の柔軟性と多様性

 

予定を詰めない、京都の時間感覚

WORK MILL:お二人とも、東京で数年間働いていた経験がありますが、東京と京都では働き方に何か違いは感じられますか。

 

ー牧貴士(株式会社ロフトワーク、クリエイティブディレクター)
滋賀県出身。立命館大学卒業後、大阪の営業会社に入社。2005年に独立し、Webサービス制作や新規事業開発、スクール事業などを展開。2014年地域おこし協力隊として飛騨市に移住、商品開発プロデューサーとして、地域活性の為の事業立ち上げを支援したのち、2015年ロフトワークに入社。

 

牧:やっぱり、東京って異次元だったなと(笑)。東京にいた時は押し詰めの満員電車も、人でごった返したスクランブル交差点も、なんてことのない日常でした。僕は実家が滋賀にあって、今は滋賀から電車で京都のオフィスに通っています。こちらの電車は通勤の時間帯でもそこまで混むことはありませんし、街で歩きにくさを感じることもほとんどありません。そういう生活になって、「東京って、いろいろとストレスフルだったんだな」とはじめて気づきました。生まれが滋賀なので、関西弁の環境にいると落ち着くんですよね。関西に帰ってきて、いい意味で楽に働けているなと感じています。

 

ー森内章(株式会社ロフトワーク)
「MTRL KYOTO 含むロフトワーク京都」の事業責任者。リクルートグループにてWebエンジニアとしてキャリアをスタートさせた後、ディレクターに転身。以降一貫してWebサイトやサービス、アプリの企画・設計・運用に携わってきたWebディレクター10年選手。東京で体験した震災を機にローカル志向のキャリアプランに目覚め、2013年ロフトワーク京都にジョイン。

 

森内:個人的には「京都と東京で働き方は違う」と単純に断定するべきではないと思っています。もともとオンライン化が進んでいたITやWeb開発であれば、地方だから仕事の仕方が大きく変わるということはありません。それに、京都にある会社でも「クライアントはほとんど東京」という所も結構あるんです。

 

WORK MILL:森内さんの感覚としては、「東京とは違った京都ならではの働き方」があるわけではない、ということですね。

 

森内:そうですね。ただ、働く周辺の意識について言えば、ちょっとした文化差があります。たとえば、「時間」に対する意識です。予定をガチガチに詰め込むのではなくて、「1日雑談で終わる日もあっていいよね」みたいな余裕を持たせています。

 

牧:東京にいた頃は、分刻みでスケジュールが入ることも当たり前でしたけどね。今じゃ考えられない。

 

森内:京都の人って、打ち合わせのおしりをあんまり決めないんですよ。だから、分刻みの予定は入れられないです。今では職人さんをはじめ、違う業種の方と話す機会も多いです。そういう人たちに「今日のミーティングは30分でアジェンダはこれです」みたいなの、通用しないじゃないですか。「予定に縛られるのが無粋」って意識が、結構強いと思います。

 

東京は、街がモードを切り替える「仕切り」になる

 

WORK MILL:「無粋」という意識は、なかなか京都らしいものなのかなと感じます。ほかにも、物事への意識について「京都らしさ」を感じられるポイントはありますか。

 

森内:時間の話も含まれますが、根底に「流れに身を任せる」という意識があるように感じています。京都ではどんなに偉くて忙しい人でも、せかせかした素振りは見せません。皆さん余裕があるし、物腰も柔らかいです。ありがちな推論に落としたくはないですけど、京都創業のメーカーやゲーム会社が本社を東京に移転しないのは、じっくり腰を据えてものづくりに取り組むのに合っているから……という側面はあるのかなと思います。

 

牧:流れに身を任せていると、仕事とプライベートの境目も曖昧になってきますね。個人的な知り合いが、仕事中によく訪ねてきますし。

 

森内:そう、いろんなものの境目がどんどん曖昧になってきている。僕たちは「MTRL KYOTO」でトイレ掃除もするし、ご飯も作るし、町内会費も納めに行くし、近辺に住んでるおばちゃんとのご近所付き合いもあるし。「プライベート」というよりは、「生活」と仕事の距離感がすごく近いような気がしています。

 

WORK MILL:仕事と生活の境目がなくなっていくと、コントロールが難しそうですね。

 

森内:コントロール、できませんね(笑)。そのへん、東京は便利だなと思います。駅をひとつふたつ動いたら、街の雰囲気がガラッと変わったりするから。「渋谷は仕事モードだけど、代々木は生活圏内」って感じで。

 

牧:街の単位が仕切りになりますね。それで切り替えができる。一方で、京都は「京都市内」という広い範囲がひとつの街の単位になっている印象があります。

 

森内:街の中に細かい境目がないから、東京よりも仕事と生活の境目が曖昧になってくる。だからか、「MTRL KYOTO」にもすごく出入りがしやすい雰囲気が生まれていて、そこから思いがけないワクワクが起こるんですよね。この間は「地図の開発をしています」という方と打合せをしたのですが、最初は「売り込みの人かな」と思いながら話を聞いていたら、よくよく話を聞いてみたらすごい技術と面白い活動をしていて。思わず話が弾んだ末に、その場で「今度マップハッカソンをやりましょう!」ってイベントが決まったんです。

 

WORK MILL:ふらっと訪ねてきた方と話がそこまで弾むのも、さまざまな境目がシームレスになっているからだと。

 

森内:そうですね。予定の境目、公私の境目が曖昧になって、なおかつ流れに身を任せていたら、楽しい偶然が舞い込んできます。このマインドに慣れてくると、東京のIT業界のイベントが「いつも同じ人たちが、同じようなコミュニティで話しているなぁ」と、少し滑稽(こっけい)に見えてくることもあるんです。いや、ほんとはうらやましかったりもするんですが(笑)

 

京都は「ズルい街」であり、「実験場」

 

WORK MILL:これから「MTRL KYOTO」は、「京都」というひとつの街の単位の中で、どのような機能を持つのが理想的だと考えていますか。

 

森内:正直に言うと、あんまり「街づくりにアプローチしよう」って考えはないんです。街づくりに寄りすぎると、視野が狭くなってしまうから。だから、「MTRL KYOTO」では「常連よりも行き交う人のフローを増やそう」って意識を共有しています。

 

WORK MILL:固定客を増やした方が運営は安定すると思いますが、あえて「フローを増やす」という方向性にしているのはなぜですか。

 

森内:毎日来てくれる常連さんの存在は、もちろんありがたいです。けれども、固定客が多くなると、その人たちのカラーで「MTRL KYOTO」の雰囲気が決まり、たこつぼ化してしまう恐れがあります。また京都にはそういう場所はすでにいろいろあるんです。それは、ロフトワークの目指す場所ではなくて。僕らはもっと関西全域にロフトワークの仕事を広げていきたいし、グローバルな目線も常に持っていたいと思っています。

 

牧:僕も、京都だけに留まっているつもりはありません。ゆくゆくは、「MTRL KYOTO」みたいなクリエイティブのハブになる場所を、地元の滋賀にも作って大きなムーブメントを起こせたらいいなと考えています。そのために、まずは京都でいろいろと実験ができたらいいなと。

 

森内:ロフトワーク京都のメンバーは意外と、京都出身者はいません。僕も福井の出身で、いつか福井を元気にするような活動ができたら……とは思っていて。「京都でいろいろ実験したい」というのは、牧と同じ気持ちです。京都でうまくいかないことは、きっと福井でもうまくいかないだろうから。未来のためにも、ここで成功事例をたくさん作っていきたいですね。

 

WORK MILL:「京都でうまくいかないことは、きっと福井でもうまくいかない」と考えるのは、やはり京都が文化的に恵まれている土地だからでしょうか。

 

牧:ホントにズルいです。しっかり利用させてもらわないと。

 

森内:滋賀も福井も京都には隣接していますから、うまく接点を作っていきたいですね。だからこそ、これからも「MTRL KYOTO」はフローのある開かれた場所として、運営していきます。

 

新しい働き方の「ものさし」を差し出せる場所に

 

WORK MILL:京都で仕事をしていく中で、対比的に見えてきた「東京の良さ」はありますか。

 

牧:日本の中心ですから「大きな成功を収めるには東京」という流れは、数年前も今も変わらず存在していると思います。そうすると、必然的に面白いチャレンジャーが集まってくる。東京にいると、そういった気鋭の才能たちにいくらでも会えるチャンスがあります。イベントもどこかで毎日のようにやってますしね。

 

森内:ちょっと抽象的な話になりますが、一度東京で働くと自分の中に「ものさし」ができるんです。どんなサービスが今の業界的にトレンドなのか、どんなスキルが高く評価されるのか……そういったひとつひとつの価値観が積み重なって、「ものさし」が生まれます。それを持って地方に戻ってくると、世界の見え方って変わってくるんですよね。悔しいですが京都にはまだ、IT・Web業界に携わる人間として、必要だと考えるモチベーションや視座を得るための土壌は、育ちきっていないように感じています。

 

WORK MILL:やはりキャリアにおいて「東京で働く」ことの意味は、とても大きいんですね。

 

森内:そうですね。ただ、これからの時代が進めば、東京を経由しなくても十分に勝負できる世界は、少しずつ広がってくるとも思っています。ソフトウェアの分野では東京が圧倒的に進歩していますが、IoTの開発などは地場産業と結びついていけば、地方からでも画期的なプロダクトを生み出せる可能性は、大いにあるはずですから。

 

WORK MILL:最後に、お二人が「MTRL KYOTO」で働きながら目指す、将来的な到達点を聞かせてください。

 

牧:ロフトワークのディレクターとしては、関西のクライアントに向けて、たくさんの新しいチャレンジを提案していきたいですね。「MTRL KYOTO」には、3Dプリンタやレーザーカッターなど、ものづくりに関連するさまざまなツールがあります。それらと、普段クリエイティブとは縁遠いような普通の企業との接点を、積極的に作っていきたいです。そうやって京都の企業の人たちに「新しいものづくりの文化」をインストールしていけば、京都の文化背景とあいまって、面白いムーブメントが沸き起こってくるんじゃないかな……って思うんです。個人としては、地元の滋賀にクリエイティブの文化を根付かせていきたいですね。時間はかかると思いますが、根気強くアプローチしていきたいです。

 

森内:僕はそもそも、東京での働き方にいろいろと疑問を抱いて関西に帰ってきたんですよね。それとは別の働き方、許されていい働き方があるんじゃないかって。なので、「MTRL KYOTO」を「たくさんの人の働き方をアップデートする媒介」にしていけたらなと思っています。ここに来ることで働き方が変わるきっかけを得られるような、実験が行われている場所に。そのために必要なのは、多様なイベントかもしれないし、新しいコワーキングスペースの利用プランかもしれないし、もしかしたら「夜にめっちゃ美味しいご飯が出ること」かもしれない。いろいろと試行錯誤しながら、働き方の新しい「ものさし」を差し出せることができる機会を、一つでも多く作っていきたいですね。

 

テキスト: 西山 武志
写真:映像家族yucca 成東 匡祐
   ※MTRL KYOTO外観のみloftwork提供
イラスト:野中 聡紀

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