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WORK MILL

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チームの活動を加速させる

この記事は、“はたらく”にまつわる研究データをまとめた冊子「WORK MILL RESEARCH ISSUE02 はたらき方のニューノーマル」(2020年11月発行)からの転載です。


コロナ禍の経験によってリモートで働けるようになった現在、集まって働くからこそできる「チームワークを高める場」は、どのようなものなのでしょうか。

オフィスに必要とされていること

今回のコロナ禍を体験し、これまであたりまえのように毎日オフィスに通っていたという習慣について、「なぜオフィスに通うのか、集まるのか」と、改めて考えさせられる状況が訪れました。

ニューノーマルにおいてオフィスに求めるものは、組織のありたい姿や業種、個人の状況や考え方によって、これまでより多様になります。

ワーカーに対して「ニューノーマルでオフィスに求められる役割」を聞いてみたところ、「チームワークを高める場」「社員どうしがコミュニケーションをとるための場」「重要な意思決定を行う場」などの回答が上位にあがりました。個人ではなくチームとして連携して行う作業や、相手の意思を読みとる場合などにはオフィスが重要になると考えられます。

さらに、「リモートで働くことによってチームの一体感に変化があったか」も聞いてみました。回答としては「変化しない」が半数を占めますが、「非常に低下した」「やや低下した」人も3割強いました。ニューノーマルになり働き方・働く場所が柔軟になる中で、チームワークや一体感に対する配慮が求められています。

チームワークを高めるための手法「アジャイル」

「アジャイル型組織」「アジャイル開発」という言葉を聞いたことはないでしょうか。

もともとはソフトウェア開発などで使われていた言葉で、「機敏な」という意味の通り、「Plan(考える)」「Develop(作る)」「Test(試す)」というサイクルをスピーディに回す開発手法をあらわす言葉です。

そこでオカムラは「アジャイル」をチームの活動を加速させるための仕掛けと定義し、正木郁太郎氏(東京大学)と共同で秋保亮太助教(大阪大学)のアドバイスも受けながら、実態を探ることにしました。

チームワークに関する研究はこれまでも多く行われていますが、「アジャイル」のような「スピード感」に注目したものはあまりありませんでした。そこでこの研究では仮説として、①メンバーがフラットな関係である、②実践を重視する、③スピード感がある、の3つの条件が満たされているチームを「アジャイルな働き方のチーム」と設定しました。

チームワークを捉えるためのフレーム

チームワークの状況を把握するために、ワーカー515名を対象にWEBアンケートを実施しました。

アンケートの質問項目は、既住研究で多く用いられているチームに関わる尺度と、アジャイルの特徴をより反映する独自の項目から構成しました(合計22項目)。

アンケートの22項目は、回答傾向を分析した結果5つのカテゴリーに分けられました。「心理的安全性」「情報共有」「試行錯誤」「迅速さ」「進捗優先」です。

ありのままの発言ができる「心理的安全性」はチームのメンバーのフラットさのことです。「情報共有」は互いのアドバイスのしやすさなどを指し、一般的にチームワークで大切とされている行動です。「試行錯誤」は実践を重視しながら繰り返すというアジャイルの特徴を表しています。その他に、チームで目的が共有された上でスピードをもって行う「迅速さ」、全体の目的よりも短期的な問題解決を優先する「進捗優先」というカテゴリーがあらわれました。

ワーカーが感じているチームのもつ力

それではワーカーが、自分の所属するチームのチームワークをどのように評価しているのか見ていきましょう。前頁でわかった5つのカテゴリーにおいて、代表的な質問ごとに回答傾向を分析しました(図5)。

主な結果を抜粋すると、考えの自由な表明(心理的安全性)や、懸念事項をすぐに解決する(迅速さ)は、約半数の人が肯定的な回答をしていました。一方で、さまざまな手段を試す(試行錯誤)は、35% ほどしか肯定的な回答がみられず、違いがあらわれました。定型業務に確実に取り組むなど試行錯誤を求めない仕事もあるため、試行錯誤をしながら課題を解決していくようなチームワークを実体験しているワーカーは少ないのかもしれません。

チームワークの特徴と成果の関係の強さ

アジャイルな働き方のチームであることは成果につながるのでしょうか。生産性について数値で把握することは困難なため、今回は自分自身のパフォーマンスについて評価してもらう「主観的パフォーマンス」と「ワーク・エンゲイジメント」の2つを指標として設定しました。これらと先にあげたチームワークの5つのカテゴリーとの関係の強さを調べたところ、以下の結果があらわれました。

  1. 主観的パフォーマンスにプラスの効果があるのは、「心理的安全性」「情報共有」「迅速さ」の3項目
  2. ワーク・エンゲイジメントと特に関係があるのは「試行錯誤」の1項目

このように、アジャイルな働き方のチームが持つ特徴は基本的には成果に良い影響を与えるといえます。特に「迅速さ」は重要です。しかし目的よりも目の前の課題解決が優先されてしまう「進捗優先」についてはあまり良い影響を与えないこともわかりました。アジャイルな働き方のチームはスピードを優先しがちですが、それを重視するあまり、目的の共有がおろそかにならないよう配慮が求められます。

チームワークと環境の関係の強さ

最後に、働く環境を充実させることとチームワークの間には関係があるのか、アンケート結果からわかった特徴を見てみましょう。

家具が自分の使いやすいように動かせる(可変性が高い)と、特に「試行錯誤」がしやすくなるという結果がでています。

閉塞感が高い環境はあまりアジャイルな働き方のチームの特徴とはフィットしないようです。アジャイルで重要となるフラットさやスピード感に関する指標は閉塞感があると下がる傾向があるため、オープンな環境のほうがアジャイルな働き方のチームには適していると言えそうです。

*今回のコロナ禍では働き方や働く場に大きな制限がありました。アンケートでは通常時のチームワークを測定するためコロナ禍以前について聞いています。

*ワークエンゲイジメント:ワーカーの心の健康状態を示す概念のひとつ。仕事に対して「誇り(やりがい)を感じ」「熱心に取り組み」「活力を得ていきいきと働く」という3つの要素が揃って、充実している心理状態を指します。(出典:職場のポジティブメンタルヘルス/島津明人/2015年)

「アジャイル」のまとめ

これからのチームワークには「フラットさ」「実践重視」「スピード感」が重要になります。迅速に、かつ試行錯誤をしながら働くことはやりがいにもつながりますが、短期的な成果だけにとらわれず、チーム内で目的を明確にして課題に取り組むことで、チームの力はより一層発揮できるようになります。それをサポートする家具や環境を設えることも成果の向上には欠かせないといえるでしょう。

2020年12月2日更新