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【クジラの眼 – 字引編】第7話 SDGs

働く環境、働き方の調査・研究を30年以上続ける業界のレジェンド、鯨井による連載コラム「クジラの眼 – 字引編(じびきあみ)」。働く場や働き方に関する多彩なキーワードについて毎月取り上げ、鯨井のまなざしを通してこれからの「はたらく」を考えます。

 

 

今月のキーワード:SDGs

 

はじめに

人間は何らかの組織に属し多くの人と共に生きています。大勢で暮らしていると利害が一致しない事態が往々にして勃発します。そんなとき私たちの賢い祖先は、話し合うことで必要以上に事を荒立てないように解決策を探る術を獲得し、集団の存続をはかってきたのです。

 

現代のわれわれも、子供の頃からそうしたやり方を受け継いで集団生活を過ごしています。例えば、学生時代の生徒会。私の学校では生徒会で「制帽を廃止する」という当時の難題を見事クリアしましたっけ…。大人になって就職すると、たいがいの企業には働く環境を改善するために会社側と交渉する労働組合があります。

 

また、ある規模以上のオフィスでは部署の代表者で構成される自治会を設けて、パブリックな空間の使い方などオフィスの多くの入居者に関わる課題を協議し、解決策をひねり出したりしています。集団を構成するメンバーの価値観の違いや経済状況などが違えば違うほど課題解決は難しいものになります。もちろん課題そのものの難易度が高ければ簡単に話はまとまりません。決定されたことを長く継続していくのも骨の折れる話です。

 

今回取り上げる「SDGs」は課題解決に向けた究極の取り組みです。なにせ課題解決の対象は全人類。誰一人取り残すことなく、今までよりも幸せにしようとする世界をあげての活動です。

                                            

 SDGsとは                      

SDGs【エス・ディー・ジーズ】

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のこと。

 

SDGsの概要

SDGs(持続可能な開発目標)は、地球で暮らすすべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための取り組みで、貧困や飢餓、気候変動、平和的社会など、私たちが直面しているグローバルな課題の解決を目指すものです。このSDGsは、2015年に国連本部の「国連持続可能な開発サミット」で、成果文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」として国連に加盟しているすべての国の賛同を得て採択されました。

 

普遍性(先進国を含め、すべての国が行動する)、包括性(人間の安全保障の理念を反映し、誰一人取り残さない)、参画型(すべてのステークホルダーが役割を持つ)、統合性(社会・経済・環境に統合的に取り込む)、透明性(定期的にフォローアップする)という5つの基軸となる考え方の下で取り組まれるSDGsは、地球上の誰一人として取り残すことなく、持続可能な社会の実現を目指すもので、以下にあげる17の国際目標(その下に169の具体策と232の指標で構成される)が掲げられ、世界各国で推進されています。

 

 

 
17の国際目標

1.貧困をなくそう
あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ。 

 

2.飢餓をゼロに
飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する。

 

3.すべての人に健康と福祉を
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する。

 

4.質の高い教育をみんなに
すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する。

 

5.ジェンダー平等を実現しよう
ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る。

 

6.安全な水とトイレを世界中に
すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する。

 

7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに
すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する。

 

8.働きがいも世界成長も
すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する。

 

9.産業と技術革新の基盤をつくろう
レジリエントなインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る。

 

10.人や国の不平等をなくそう
国内および国家間の不平等を是正する。

 

11.住み続けられるまちづくりを
都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする。

 

12.つくる責任 つかう責任
持続可能な消費と生産のパターンを確保する。

 

13.気候変動に具体的な対策を
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る。

 

14.海の豊かさを守ろう
海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する。

 

15.陸の豊かさも守ろう
陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る。

 

16.平和と公正をすべての人に
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する。

 

17.パートナーシップで目標を達成しよう
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。

 

 

 

 

日本政府の取り組みとビジネスの展開

日本政府は2016年にSDGs推進本部を立ち上げ様々な施策を推進しています。2018年に取りまとめられたアクションプランには、SDGsを原動力とする地方創生やSDGsの担い手として若い人たちや女性の活力を高めること、そしてビジネスの世界に対しては、企業の経営戦略へのSDGsの組み込みを推進することなどが盛り込まれています。

 

製品やサービスを提供することを通じて企業は人の生活に大きな影響を及ぼしています。SDGsの視座で見たときビジネスが果たす役割、果たすべき役割はとても重要だと考えられます。政府の青写真に沿ってSDGsに取り組む企業・団体は年々増えていて、企業経営の中にSDGsを取り入れる動きも出てきています。従来の社会貢献活動として捉えるのではなく、利益を追求するビジネスとして持続可能性や地球温暖化対策などを自社の経営戦略や中長期計画に取り入れ、「本業」としてSDGsを展開しようとする動きが徐々に広まっているのです。

 

うまくビジネスチャンスにつなげている企業はどのようにSDGsに取り込んでいるのでしょうか。SDGs達成に資する優れた取組を行っている企業・団体等を,政府のSDGs推進本部が表彰する「ジャパンSDGsアワード」を受賞した事例を見てみましょう。

 

 
SDGsの実施事例

・株式会社伊藤園

主力事業の緑茶事業などで「茶畑から茶殻まで」の一貫した生産体制を構築し、 SDGsの目標12「持続可能な生産と消費」などに貢献しています。  特に①代表的な事業である茶産地育成事業、②茶殻リサイクルシステム、③健康配慮商品、④厚生労働省認定のティーテイスター社内検定(働きがいを向上)、⑤お~いお茶新俳句大賞などの取組みなどにより、調達から製造・物流、商品企画・開発,営業・販売の一貫体制で価値創造をすることでSDGsに取り組んでいます。

 

・パルシステム生活協同組合連合会

グループ理念である「心豊かな共生の社会を創ります」に基づき、「『ほんもの実感!』くらしづくりアクション」を実行。持続可能性を追求し、社会のあり方や環境影響、パートナーシップを考慮した商品や生産から消費、廃棄までを含めた消費行動のことを 「ほんもの」と表現し、社会に行動を呼びかけています。具体的には、①商品や背景を理解し、価格だけではない社会性や環境面の価値によって商品を選択、②生産者やメーカーと直接触れ合える機会を増やし、作り手の思いを共有する、③作られた商品を感謝の気持ちで無駄なく消費し、食料廃棄を減らすといった活動を展開しています。

 

・株式会社LIXIL

トイレの未整備によりもたらされる社会・衛生環境問題の解決を目指し、安価で高品質なトイレを途上国に提供しています。より持続的に、より多くの人々へ届けるため「現地に根差したソーシャルビジネス」というアプローチを採択。トイレの設置にあたってはインフラ整備・衛生意識改革も不可欠のため、国際機関やNGOとパートナーシップを組んで活動を行っています。 同社のトイレ1台購入につき、簡易式トイレ1台を途上国へ寄附する「みんなにトイレプロジェクト」を実施し、ビジネスを通じた課題解決に貢献しています。

 

・滋賀銀行

2017年11月に「しがぎんSDGs宣言」を表明。地方銀行として初めてSDGsに貢献する新規事業に対し、金利を優遇した融資商品を提供。ニュービジネス奨励金として「SDGs賞」を新設。社会的課題解決を基点とするビジネスモデルを後押しています。SDGs私募債の取扱いや、私募債発行企業に「SDGs賛同書」を提出してもらうことでSDGsを普及啓発。私募債発行額の一部を銀行が拠出して、社会的課題解決を目指NPOへの寄付や学校への物品寄贈等に活用するなど、地域金融の拠点として早くからSDGsを経営に取り込んでいます。

 

 

 

おわりに

どんなビジネスも必ず何らかの社会問題を解決しており、それが社会貢献につながっているはずです。その活動に対して適切な対価を得られるようなビジネスモデルが確立されているとしたら、すでにどんなビジネスでも持続可能な仕組みが備わっていると言っていいのではないでしょうか。貢献の大きさ、影響を及ぼす範囲、そしてもちろんその内容を問わないのであれば、うまく回っているビジネスはすべてSDGsの要件をクリアしていると言ってもいいのかもしれません。

 

SDGsに取り組んでいると標榜している企業にこの場を借りてお願いしたい。どのような人の生活をどのくらい改善できたのか。どのような人の心をどのくらい豊かにできたのか。そして、どのような人をどのくらい幸せにできたのか。これらについて対外的にアピールするだけでなく、同じことを社内で働く人たちにもきちんと知らしめてくれることを。

 

日本人の自社に対するエンゲージメントは諸外国と比べとても低いと言われています。その原因はいくつかあるのでしょうが、今やっている自分の仕事がどのくらい世の中に貢献しているのかを実感できていないことも原因の一つだと思われます。SDGsによって社会貢献した成果、すなわち世の中の人を幸せにした結果を社内に周知することは、従業員のエンゲージメントを高め、従業員をも幸せにするに違いありません。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回お会いする日までごきげんよう。さようなら!

 

 

 

■著者プロフィール

ー鯨井康志(くじらい・やすし)
オフィスにかかわるすべての人を幸せにするために、はたらく環境のあり方はいかにあるべきかを研究し、それを構築するための方法論やツールを開発する業務に従事。オフィスというきわめて学際的な対象を扱うために、常に広範囲な知見を積極的に獲得するよう30年以上努めている。主な著書は『オフィス事典』、『オフィス環境プランニング総覧』、『経営革新とオフィス環境』、『オフィス進化論』など。

 

■働くを考えるシリーズ(字引編) 過去掲載記事
第1話 チェンジマネジメント
第2話 WELL認証
第3話 コラボレーション
第4話 コミュニティマネジメント
第5話 CMF
第6話 セレンディピティ

 

2019年10月17日更新

テキスト:鯨井 康志
写真:岩本 良介
イラスト:
(メインビジュアル)Saigetsu
(文中図版)KAORI
参考文献:
「持続可能な開発目標(SDGs)報告 2018」国際連合広報センター
「ジャパンSDGsアワード受賞団体」外務省

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