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大切なのは戦略より「思いつき」の最大化 ― GENTLE MONSTER

2019年10月3日(木)発売したペーパーマガジン「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE05」。テーマは、「ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道」です。創刊から2年間、私たちは日本人がまだ知らない最先端の働き方や経営思想をインストールしようと西欧諸国を回りました。ところが、行く先々で耳にしたのは、周囲との調和、品質重視、地域への還元など、馴染みのある言葉。それらは、多くの日本企業にとっての「当たり前」でした。世界はアジアを見ている、そして私たちはその価値を見過ごしているのでは。そんな問いから、今号では韓国、台湾、日本の企業を訪ね、「資本主義のその次」を見据えたオルタナティブな経営哲学や働き方を探りました。

 

今回は、ISSUE05の【PART1】BE PLAYFUL CASE 道草試行 のCASE1に掲載しているGENTLE MONSTERの記事をご紹介します。

 

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商品のない店舗に、変わり続ける内装。世界中の有名ブランドからラブコールが絶えない独自ストーリーはどうやって生まれるのか?

 

提案したいのは商品ではなく、新しい体験

ソウルの南側にある、カロスキルというストリート。感度の高いアパレルやコスメブランドが軒を連ねるこの通りの裏手にGENTLEMONSTER(ジェントル・モンスター)の旗艦店がある。

 

およそ1 年前、初めて同店を訪れた時の内装コンセプトは「カラスの国への宇宙人侵略」だった。各フロアにはカラスや宇宙人、宇宙船などのモニュメントが設置され、地下には一フロアを丸々使ったコンセプトルームが用意されていた。真っ暗な室内に入るとドアが閉められる。突然爆音とともにミラーボールが点滅し、鏡張りの室内で無数のカラスが踊りだしたのだ。数分間の演出を経験し、アイウェアの印象よりも鮮明に、体験自体に恐怖にも近い感覚を抱いたことを覚えている。

 

1年ぶりに訪れた同店の内装は全く違うものになっていた。美術展でもなくこれだけ内装を変更し、記憶に残せる店舗は珍しい。日本のアイウェア、アパレルブランドを見渡しても、これだけ頻繁に内装を変え、記憶に残るようなデザインを仕掛けるブランドは他にないだろう。ジェントル・モンスターは2011年の設立以来、シーズン・コンセプトに合わせて大胆に変わる内装と商品の陳列を極端に減らした斬新な店舗が話題を呼び、今や世界中にファンを持つまでに成長した。

 

―カロスキルにある旗艦店の1階。商品を置かず、世界観の表現に特化しているため、入店を戸惑う客も多い。

 

店舗の独自性について、案内してくれた本社メンバーはこう語る。「ジェントル・モンスターが提案したいのは商品ではなく、新しい体験。大げさだと言われるほどの世界観づくりは戦略ではなく、すべて思いつきから生まれるものですが、結果としてブランドイメージを固める効果的な要因となりました」

 

世界観を生む特殊チーム

ジェントル・モンスターを特徴付ける空間づくりと過剰なまでの演出。こうした世界観を生み出す背景には、特殊な組織構造がある。330人程度の社員のうち、実に50~60人もの空間デザイナーがいるのだ。バックグラウンドはさまざまで、建築家やペインター、インテリアデザイナー、ファッションデザイナー、ロボットクリエイターなど。これとは別に3Dイメージを作るクリエイターやカメラマン、さらにはカフェメニューを考案するためのパティシエとバリスタ、店舗の香りを担当する調香師まで在籍しているという。その理由を聞くと、メンバーは「最初は全て外注していたのですが、アイデアやコンセプトを完全には理解してもらえず、指示するだけで作ってもらうには限界があったんです。だから、最初から会社の理念や哲学を理解している者に任せるほうがやりやすかったんです」と説明する。

 

この特殊な組織を束ね、アイデアを生み出し続けるのがCEOのハンコック・キムだ。具体的なプロジェクトはすべて、CEOのビジョンをキーワードとして空間デザイナーに渡すところからスタートする。抽象的なキムの頭の中のアイデアを具現化すべく空間デザイナーが協議をして、ビジョンを内装イメージやオブジェへと落とし込んでゆく。世界中を飛び回り全ての進捗をキム自身がチェックする。彼のOKが出なければどんなプロジェクトも進められない。新店舗がオープン直前でやり直しのために振り出しに戻る、なんてことも日常茶飯事だ。

 

金融業界を経て「社会に大きなインパクトを与えたい」という思いからブランドを創業したキムには、当然ファッションやアイウェアの経験はない。キムのアイデアは「インスピレーションがいきなり降りてくる」そうで、その突発的なアイデアソースは社員にもつかみきれないという。グローバルで統一された現在の店舗コンセプトは「13」だが、これも唐突に「1年が13の月になるとどうなるんだろう」というアイデアをキムが投げかけたことから始まったもの。

 

突発的に変わり続けるCEOのアイデアを具現化する作業はつらくないのだろうか。本社メンバーに聞くと、「みな予測不能なことをするのが好きなんです。社員だって、いきなり変わる指示を楽しんでいますよ。たとえば半年先のプロジェクトが、当初のまま進行するとは誰も思っていないですし、そういうメンバーじゃないとやっていけないでしょうね」と笑う。

―ジェントル・モンスターらしい世界観を追求したオフィスエントランス。店舗で実現できなかったコンセプトを実験的に導入。

―オフィス1階のエントランスでは、店頭のコンセプトに沿って作成したイメージムービーが上映されていた。

この「思いつき」がもっとも実験的に具現化されたのが同社のオフィスだ。内装を丸ごと自社でディレクションしたというオフィス1階は広々としたミーティングスペースになっており、そこには大量のベッドが並ぶ。ここでは、店舗で実現できなかったコンセプトを実験的に再現しているのだ。

 

オフィスは7階建て。2階以上には執務スペースや工房などがあって、工房では職人がアイウェア制作とパッケージデザインに打ち込んでいた。一番驚いたのは2階の社員用会議室だ。部屋自体が可動式になっており、建物から外に向かって動くのだという。エントランスはもちろんのこと、こうした遊び心から生まれたアイデアにきちんとお金をかけて全力で実現してしまうところに、ジェントル・モンスターのクリエイティブに対するこだわりが表れている。

 

「思いつき」を具現化できる背景には「遊び心」を重要視するという同社の社風も影響している。韓国でも日本同様に長時間労働が大きな社会問題になっているが、ジェントル・モンスターでは19 時以降の残業が禁止。仕事以外の時間を大いに趣味に使ってほしいためだ。社員はそれぞれ趣味の時間で金属工作やお菓子作りなど、それらが直接仕事に結びつくことはなくても、仕事とは全く関係のないプライベートに大いに時間をつぎ込んでいる。

 

「多様なメンバーがいるからこそ、組織力を求めるというよりも、個人のライフスタイルを尊重する風潮があります。CEO自身も、一人ひとりが人生を楽しんでいなければ、いい結果は生まれないと考えています」

 

外に広がる世界観づくり

アイウェアから始まったジェントル・モンスターだが、17 年9月には子会社としてスキンケアブランドのTAMBURINS(タンバリンズ)をスタートした。カロスキルにある旗艦店では、2階建てにもかかわらず、置いてある商品がわずか3種類。ここでも世界観づくりを徹底している。このほか、今年秋にははじめて自社ブランド以外のプロジェクトにも本格挑戦。中国にある「SKP」というショッピングモールの空間ディレクションを手がける計画だ。ジェントル・モンスターが得意とするのは、訪れた人を小説の中に引き込むような空間づくり。その世界観は、韓国の外にも広がりつつある。

 

―限定でオープンしたカフェ兼ショールーム。連日大勢の女性ファンが詰めかけ、フォトジェニックな空間をインスタグラムに投稿していた。

 

ストーリーづくりに共感したファッションブランドからのコラボの打診も後を絶たない。アメリカの有名コレクションブランドALEXANDER WANG(アレキサンダー ワン)や東京発のデザイナーズブランドAMBUSH(アンブッシュ)をはじめ、今年はFENDI(フェンディ)とのコラボが大きな話題になった。このコラボについてもフェンディから打診があったそうで、クラシカルなブランドと若い顧客を多く持つジェントル・モンスターが融合することで、両者のファンに新しいイメージ訴求ができると考えて快諾をした。コラボ商品自体はアイウェア2型のみだが、その世界観の表現のため、カロスキルの旗艦店のはす向かいにあった自社物件を活用して、トロピカルをテーマにした特設のコラボカフェをオープン。イタリアのジェラートブランドSteccoleccoとコラボしたアイスキャンディーがファンの話題を呼び、連日ウェイティングができるほど人気を博した。

 

今後、ジェントル・モンスターが目指すのは「世界的に有名なブランドになること」だ。そのためには、何が必要なのか。本社メンバーはこう答える。「ヨーロッパでは攻撃的なマーケティングが必ずしも効果的とはかぎりません。大事なことは打ち出すコンセプトが時代・地域にマッチしているかどうか。その時代・その地域の中でいかに見たことのない世界を見せられるかです。だからブランドの世界観を一方的に訴求するのではなく、地域ごとの特徴をつかみつつブランドの個性を出し、認知してもらえるように焦らず世界観を表現し続けます」

 

全力で遊び、CEOのアイデアをメンバーのバックグラウンドを生かしながら具現化、ストーリーを構築していく。そこに細かな戦略などはなく「思いつき」をいかに実現するかがすべてだ。販売効率だけで考えれば、店舗の商品数を減らすことやシーズンごとに内装を変えることは合理的でない。しかし、一見その無駄とも思える施策によってファンやコラボ先は着実に増え、毎年右肩上がりの成長を実現しているのだ。

 

2019年10月10日更新
取材月:2019年7月

 

テキスト:角田貴広
写真:Donggyu Kim(Nakasa&Partners)
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05 ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道』より転載

 

10月3日(木)発売の『WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE05』では、編集部が取材してきた企業事例や経営者へのインタビューを他にも多数掲載しています。詳細はこちらをご確認ください。

 

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