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Work in Life Labo. フューチャーセッション ーFacebook Japan株式会社に学ぶこれからのワークスタイルー

ワークインライフ ※1を調査発信する研究会「Work in Life Labo.(ワークインライフラボ) ※2」。2019年8月26日、ワークインライフラボ主催でFacebook Japan株式会社の働き方に学ぶイベントが開催されました。当日は、Facebook Japan株式会社の佐々木丈士氏による講演とあわせて、参加型のディスカッションやワークショップも実施。参加者を巻き込んだ活発なコミュニケーションの場となりました。

今回は佐々木氏の講演にフォーカスし、Facebook Japan株式会社の事例を通して、これからのワークスタイルを考えるヒントをお届けします。

※1 「ワーク」と「ライフ」という2つの要素を同列に捉えるのではなく、「ライフ(人生)には様々な要素があり、その中のひとつとしてワーク(仕事)がある」という考え方のこと。ライフを構成する要素としては、ワークのほかにファミリー(家族)、ホビー(趣味)、ラーニング(学び)、コミュニティ(組織・地域)などが考えられる。
※2 Work in Life Labo.はオカムラの「はたらく」を共に考え描く活動「WORK MILL」から生まれた共創プロジェクトです。Work in Lifeに関連したテーマを調査・分析・発信していく研究会として活動しています。

働き方改革  あまり語られない「評価」の重要性

―佐々木丈士(ささき・たけし) Facebook Japan株式会社 人事統括
フォード・ジャパン・リミテッド、フィリップ モリス ジャパンにおいて人事ビジネスパートナーとしてさまざまな事業部門の組織開発を担当。2015年6月よりフェイスブックに入社、日本、韓国、パートナー部門の人事戦略を担当。

佐々木:日本での働き方改革の議論で、重要なのにあまり語られていないと感じるのは評価の話です。例えば長時間労働。実は効率的に仕事をして早く帰宅することができにくい原因の一つは「見える忠誠心」の問題ではないかと。たとえハッキリとルール化されていなくても、「オフィスにいて、物理的に上司が見えている時間が評価に入っているのでは?」と社員が感じているのなら、なかなか帰れませんよね。どれだけ早く仕事をして家に帰っても、そのせいで評価を下げられたらたまりません! 日本の働き方改革の議論には、「何が評価の対象になるか」という問題が潜んでいるのかもしれません。

評価のベースとなる、Facebookの5つのバリュー

佐々木:Facebookの評価制度をご紹介する前に、その基軸となるミッションとバリューについてお話しておきます。2017年6月、Facebookは企業ミッションを変更しました。これまでの「世界をよりオープンでつながったものにする」を進化させ、現在は「Give people the power to build community and bring the world closer together(コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する)」をミッションにしています。単に人と人をつなぐだけではなく、つながることによって意味のあるコミュニティ、つまり、同じ興味や思いを共有するコミュニティづくりをサポートするということです。

このミッションを達成するための行動規範が、Facebookでは次の5つのバリューで示されています。

1.Build Social Value
私たちの持つプラットフォームを通して社会に貢献することを常に考えています。例えば、視覚に障がいのある方にSNSの体験をシェアするためのテキストリーディング機能「オルタナティブテキスト」も、この観点から開発・実装されました。

2.Move Fast
すばやく決断し、早く行動すること。そして、失敗したらそこから早く学びを得て次へ行くことを大切にしています。

3.Be Bold
大きなことを成し遂げるには、リスクを恐れず大胆に取り組む必要があります。

4.Be Open
できるだけ多くの情報をオープンにし、透明性を高めています。例えば、CEOのマーク・ザッカーバーグが、全世界の社員から募った質問にライブで答える「LIVE Q&A」を毎週行っていますが、これは「Be Open」のバリューに基づいた取り組みです。

5.Focus on Impact
「何が最も影響力があるか」を基準に優先順位をつけ、集中的に取り組むことで、より大きなインパクトを与えることを目指しています。

社員をモチベートする評価  3つのポイントとは

佐々木:昨今、様々な企業で評価の方法が議論されています。Facebookでも、評価制度に関する社内調査を行いました。社員一人ひとりに「期待値に対してどうか」というコミュニケーションをしたほうが、何もないよりもモチベートされるというのが、社内調査の結果でした。運用する上でいくつか特徴があります。

Feedback 360 & Transparent

1つ目の特徴は「Feedback」です。Facebookでは、上司、部下に加え、同僚からレビューをもらう360度フィードバックを導入しています。私はここで言う「360度フィードバック」を「360度評価」という言葉とは意図的に分けて使っています。フィードバックは必ずしも評価を意味しないからです。フィードバックは、あくまで一緒に仕事をしている者同士の観察のシェアであり、それ自体が最終評価を結論づけるものではありません。

上司から部下、部下から上司へのフィードバックは、当然ながら本人へシェアされます。一方、同僚からのフィードバックは、本人にシェアするか、本人の上司にシェアするかをシステム上選択できます。それでも大多数の社員は本人にシェアしていますから、「Transparent」、透明性が高いと言える部分ですね。

Facebookの評価制度では、フィードバックをかなり活用しています。しかしながら本来フィードバックは、評価のプロセスを待っていてはいけないものです。上司部下の間でも、同僚同士でも、通年にわたって質の高いフィードバックがあれば、評価はそのおさらいに過ぎないため、あまり怖がることはないはずです。通念を通してのフィードバックについてはまだ向上する余地があると思っています。

Impact VS Expectation

2つ目の特徴は「Impact」、何を評価するのかという話です。Facebookでは、ただ単に業績順に並べてランク付けを行うのではなく、個人個人の業績を職務記述書に書かれている期待値モデルとの比較において評価します。例えば、「あなたは頑張りました。でも、他の9人のほうがさらに頑張っていたので、評価は最下位です」と言われるよりも、「あなたは頑張りました。期待値と比べるとここは良かったですが、ここは改善の余地がありますね」と言われるほうが、個人にとっての納得度は高くなると思います。

逆に、評価会議の中で評価項目にならないのは、例えば労働時間です。「イベントのためにめちゃくちゃ休日労働したんです!」「何日も徹夜したんです!」それはもちろんいいのですが、何を基準に頑張ったと言っているかというと、労働時間ですよね。Facebookでは、休日労働や徹夜、出張などをいくら行ったとしても、それだけで評価されることはありません。

Fairness in Process

3つ目の特徴は「Fairness」です。マネジャーが複数いれば、当然それぞれのマネジャーの間で評価の甘い辛いが出てきます。そこで、職務ごとの期待値に平準化して評価のレベル感を合わせるのが、私のような人事担当者の役割です。ここで何を注意する必要があるかというと、一言で言えばバイアスです。年次やジェンダー、出身などに変に影響されていないか、先入観のせいで評価がアンフェアになっていないかを注意深く見ていく必要があります。

これら3つの特徴の中で、特に働き方改革に関連しうるのは、2番目の「Impact=何を見て評価しているのか」です。労働時間や場所に関わらず、しっかりやるべきことをやっていればフェアに評価され安心できる環境かどうかが、とても大切になってきます。

根底にあるのは、社員への信頼

佐々木: Facebookのフレキシブルな働き方を可能にしているツールがあります。Facebookでは、社内コミュニケーションのツールとして、ビジネス用コミュニケーション・プラットフォームサービス「Workplace」を全社員が使っています。「Workplace」を使えば社内のメンバー全員とすぐに交流することができ、メールや社内報、チャット、イントラネットなどのあらゆるコミュニケーションツールがこれ一つで済んでしまいます。こうしたツールの活用が、いつでもどこでも働くことを可能にしているのです。

そもそも、Facebookで今回お話ししたようなフレキシブルな働き方が実現しているのは、根底に社員に対する信頼があるからです。「インパクトさえ出せば細かいやり方は問わない。ただし、信頼して任せるからには、しっかりとインパクトを出す責任がある」という考え方の会社だということです。社員への信頼に基づいて、働き方のベースとなる評価制度とツールが整備されていると言えます。

質疑応答

参加者:会社全体のミッションを、どのように個人の職務上の期待値まで落とし込むのでしょうか?

佐々木:個人の職務期待値という意味では、職務記述書を使います。職務記述書には、仕事の経験年数などとは別に、レベル別の期待値のマトリクスがあるので、それを基準に上司と部下の間で期待値をすり合わせます。ただし、このマトリクスはグローバルで共通のもので、あくまでスタート地点にすぎません。最終的には、部下とすり合わせたうえで、上司が責任をもって、この人のインパクトを何で測るか、どこまでが期待値なのかを決めていきます。

参加者:上司があまりにも高すぎる期待値を設定して、結局無理な働き方になってしまうことはないのでしょうか?

佐々木:そもそもFacebookという会社として求められるレベル感が非常に高いとは感じます。評価は半年に一回行いますが、その中間地点で進捗確認と見直しをすることで、期待値が離れすぎてしまうのを防いでいます。

―ディスカッション&ワークショップは、「ビジネス雑誌の編集部になりきって、エンゲイジメント特集を企画せよ!」とのお題。各所で熱のこもった話合いが繰り広げられました。

佐々木氏の講演を通してFacebook Japan株式会社の働き方のエッセンスを学ぶとともに、ディスカッション&ワークショップで参加者が主体的に「はたらく」を考えた本イベント。これからもワークインライフラボでは、「はたらく」にまつわる研究活動やディスカッションを積極的に行っていきたいと思います。

2019年10月8日更新

テキスト:前田英里 (株式会社オカムラ)
写真:WORK MILL編集部