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世界を惹きつける「新しい日本らしさ」とは ー 星野リゾート代表 星野佳路さん

2019年10月3日(木)発売予定のペーパーマガジン「WORK MILL with ForbesJAPAN ISSUE05」。テーマは、「ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道」です。創刊から2年間、私たちは日本人がまだ知らない最先端の働き方や経営思想をインストールしようと西欧諸国を回りました。ところが、行く先々で耳にしたのは、周囲との調和、品質重視、地域への還元など、馴染みのある言葉。それらは、多くの日本企業にとっての「当たり前」でした。世界はアジアを見ている、そして私たちはその価値を見過ごしているのでは。そんな問いから、今号では韓国、台湾、日本の企業を訪ね、「資本主義のその次」を見据えたオルタナティブな経営哲学や働き方を探りました。

 

今回は、ISSUE05のCOVER STORYに掲載している星野リゾート代表 星野佳路さんの記事の一部をご紹介します。

 

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グローバル化が進むなか、世界に通用するブランドには何が必要か。観光業界の異端児の答えは、「日本人に本物と認められること」だった。

 

 日本の目利き層に評価される「新しい日本らしさ」こそが重要

「進化と“はずす”は紙一重。日本の会社としてやっていることが、日本人の目に『ウケを狙った偽物』と映るのが最悪の状態です。だから、日本の目利き層に評価される『新しい日本らしさ』を重視しています」

 

星野リゾート代表、星野佳路。長野・軽井沢の老舗温泉旅館に生を受け、1991年に31歳の若さで家業を承継した「リゾート界の異端児」だ。2001年以降は山梨県にある「リゾナーレ」や「アルツ磐梯」などの経営再建で手腕を発揮し、注目を集めた。現在は高級リゾートの「星のや」を筆頭に、温泉旅館の「界」、都市観光用ホテルの「OMO」など4ブランド、計38の施設を手がける。

 

西洋式の標準化されたホテルが乱立するなか、星野が手がける施設はどれも異彩を放つ。日本の文化を現代風にアレンジし、その土地の魅力と掛け合わせることで、そこにしかない非日常空間を生み出す。それでいて、現代の旅行者が求める利便性や快適さも備えている。これが星野リゾートの最大の特長であり、強みでもある。

 

「日本の旅館出身ですし、日本らしさは外資との差別化ポイントです。でも、単に伝統を守るだけではダメ。現代のニーズに合わせることが重要なのです」

 

とはいえ、この「日本らしさ」のさじ加減が難しい。そこで星野が判断基準に据えるのが、日本文化や伝統への造詣が深く、海外渡航の経験も豊富な日本人客からの評価だ。

 

「日本文化の進化の先にあるホテルのあり方を模索し、日本人に本物であると認められながら、世界に出て行く。そうすると、海外の人からオーセンティック、つまり正統な日本のホテルとして見てもらえる。世界に誇れる日本発のリゾートを作るには、これしかないと思っています」

 

その言葉は、星野が手がけるリゾート施設のありように裏付けされる。たとえば、16年7月に東京駅徒歩10分の立地、大手町に開業した「星のや東京」。庭に平家木造という伝統的な日本旅館の仕様を廃し、地下2階、地上17階の縦の空間に旅館の要素を組み込んだ「塔の日本旅館」だ。宿泊者は入り口で靴を脱ぎ、畳の感触を味わう。客室にはジャージ素材の着物を用意。一般的な着物より気軽に羽織ることができて、着たまま周辺エリアの散策や買い物にも行ける。こうした日本文化を現代風にアレンジした仕掛けが随所に見られる。

 

海外リゾートでも日本らしさが光る。19年6月に台湾・台中に開業した「星のやグーグァン」。全客室に源泉掛け流しの半露天風呂を配し、食事処ではチョウザメの南蛮漬けなど、台湾の食材と日本料理の技法を掛け合わせた独創的な食事を楽しめる。

 

施設やサービス面だけではない。現場スタッフの働き方にも「日本旅館式メソッド」を取り入れている。日本旅館では女将が滞在客をもてなす習わしがあるが、この伝統をベースに現場スタッフの多能化を徹底している。

 

たとえば「星のや」の場合。朝6時に現場に入ったスタッフは全員、朝食の準備や提供、チェックアウト業務、客室の清掃などをマルチで手がける。人手が足りていない現場があれば、周囲のメンバーが自発的にヘルプに入る。そして15時に帰宅する。このメソッドを導入する狙いは、生産性の向上だ。

 

「世界のホテル運営市場はマリオット・インターナショナルやヒルトン・ホテルズ&リゾーツなど巨大なグローバルブランドが牛耳っています。運営会社には投資家が必要で、投資家が求めるのはリターンです。我々は後発なので、西洋ブランドと同じような運営をしていては通用しません。生産性も高い、リターンも大きい、投資にもなるとアピールするにはマルチタスク運営が不可欠であり、これぞまさに日本式の働き方だと思っています」

 

日本らしさをビジネスに生かす―。星野のホテル経営哲学の背景には、20代で経験した2つの衝撃的な出来事があった。

 

 

「なぜ日本人が」に答えないと失格

 ―星野 佳路(ほしの・よしはる)
1960年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。シカゴ市にてホテル開発プロジェクトを担当後、米国金融機関にて勤務。帰国後、91年に家業である星野温泉旅館(現在の星野リゾート)の4代目社長(現・代表)に就任。星のや軽井沢をはじめ山梨県リゾナーレやアルツ磐梯の経営再建で注目を集める。現時点で国内外に38施設を運営するリゾート会社に成長。

 

それは、星野が米国コーネル大学ホテル経営大学院に進学して1年目が終わるころのことだった。大学院生が主催者となり、業界のトップを招いてパーティが開かれた。フォーマルウェアで参加するようにとの連絡を受け、星野はスーツ姿で会場に向かった。するとどうだろう。普段はジーンズにTシャツの同級生たちは皆、自国の民族衣装を身に着けているではないか。

 

サリーを身にまとったインド出身の学生に、白い衣装の中東出身の同級生。彼らは星野を見て、笑いながらこう言った。「日本には長い歴史があると聞いていたのに、なぜお前はイギリス人の格好なんだ?」思わず言葉を失った。フォーマルといえばスーツだとばかり思っていたし、日本ではそれで正解だった。しかし、ここではスーツを着ているだけで笑われる。

 

「その瞬間、とても恥ずかしくなりました。日本文化は知名度が高く、エキゾチックであり、世界で評価されている。そして、良くも悪くも『お前は日本人だ』となった瞬間に、世界の人たちは自分に対して一定の日本らしさを期待する。その根本的なニーズに応えない限り失格なのだと知りました」

 

2つ目の事件は、日系のホテル運営会社の社員としてシカゴで開発に携わっていたときに起きた。ホテルの開業リリースを出した直後、現地の記者からこう質問を投げかけられたのだ。

 

「日本の運営会社がアメリカまで来て、なぜ西洋ホテルを運営するのか」返すべき言葉が見つからなかった。「日本の寿司職人がなぜ、わざわざニューヨークに来てフレンチレストランをやっているのか聞かれるのと同じことです。寿司職人なら寿司を握ればいいじゃないか、と」程なくして、星野が携わっていたホテルを含めた日本発のホテル運営会社は軒並み米国市場から撤退した。

 

「公にはバブル崩壊を言い訳にしていますが、海外進出のアプローチ方法がまずかったのだと私は思っています。日本企業が手がけて当然だと納得してもらえるパターンに持ち込まない限り、日本のホテル運営会社は世界に出ていけないと痛感しました」

 

星野が「世界に冠たる日本発のリゾートを作る」と決意した瞬間だった。

 

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ここから先は、10月3日(木)発売『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05 ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道』に掲載していますので、本誌をご覧ください。

 

2019年9月24日更新
取材月:2019年7月

 

テキスト:瀬戸久美子
写真:アーウィン・ウォン
※『WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 05 ALTERNATIVE WAY アジアの新・仕事道』』より転載

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