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WORK MILL

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テレワーク効果 ― 導入企業のリアルから探る、成功の秘訣

「はたらく」とはどのようなことでしょうか。
人によってさまざまな考え方や定義があると思いますが、私たちWork in Life Labo.(ワークインライフラボ) ※1では、これからの「はたらく」について「働き方改革」「ダイバーシティ」の2つをテーマのもとに研究を行っています。今回は2019年4月に発行した調査研究をまとめた活動レポートの中から、前回の「ダイバーシティ」に関しての調査結果に続き、「働き方改革」に関しての調査結果をお伝えします。

※1 Work in Life Labo.はオカムラの「はたらく」を共に考え描く活動「WORK MILL」から生まれた共創プロジェクトです。Work in Lifeに関連したテーマを調査・分析・発信していく研究会として活動しています。

いきいきと働くために必要なものとは

いきいきと働くためには、何が必要でしょうか。
私たちは昨年度、いきいきと働くためには「働き方の自由度」が必要だと考え、「働く時間」「働く場所」「副業・兼業」について調査を実施しました(昨年度のレポート記事参照)。今年度は昨年の調査結果をもとに、複数の場所・環境で仕事をする「テレワーク」と「副業・複業」に注目しました。今回のレポートでは、「テレワーク」の調査結果についてお伝えします。

テレワーク導入企業5社に聞いたー上手くいくための工夫

いきいきと働くためには、複数の場所・環境で仕事をする「テレワーク」が一つの手段だと私たちは考えています。しかし、私たちのアンケート調査では「テレワークの経験」について調査をしたところ約半数が経験者、半数は未経験者でした。また、総務省の平成29年通信利用動向調査によると、日本企業におけるテレワークの導入率は13.9%といった状態で、まだまだ多くの企業が導入している制度とは言えない状態です。

Work in Life Labo.働き方改革 アンケート調査より

私たちは、企業におけるテレワークの導入が進まない理由を、「生産性」「評価」「労働時間」「進捗管理」などの懸念があるからではないかと考えました。そこで、テレワークを可能にする制度を先進的に導入している企業5社の方々に「どのような特徴や工夫があるのか」「どのような効果が見られたのか」などのインタビュー調査を実施しました。インタビューしたのは、経営・人事担当や現場の上司・部下の方々です。

すると、導入企業すべてにおいて私たちが予測していた「生産性」や「評価」はテレワーク導入時、大きな懸念事項とされていませんでした。そのほか、「労働時間」に関しては、PCのログオン・ログオフで管理、「進捗管理」に関しては定期的な報告を求めるなど、様々な工夫を行い、懸念事項をなるべく少なくして導入に至っている様子がうかがえました。
また、懸念がない理由としては、導入にあたる環境整備や、場合によっては利用対象者を制限するなどして導入に踏み切っている企業が多くありました。

今回のインタビューの中で特に印象的だったのは、「生産性」についてです。「テレワーク≒生産性向上?」というようなイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。しかし、実際には移動時間が削減されるなどの時間的な効果は見られるかと思いますが、目に見えるほど(集中して仕事ができた、といった体感はありますが)・数値で測れるような生産性の向上にはなかなか繋がらないと、私自身テレワークを実施して感じています。実際に導入している企業でも、生産性に関しては大きな期待は持っておらず、最終的に下がらなければよい(導入当初はむしろ下がる可能性もあり)といった捉え方で、良い意味でテレワークに対する過剰な期待を持っていない印象でした。

働き方に「メリハリ」が生まれ、「セルフマネジメント力」が向上

テレワーク導入後の効果についてうかがったところ、「セルフマネジメント力の向上」「メリハリのある働き方になった」というような効果がみられたとのことです。企業にとっても、組織にとっても利点が感じられる効果ではないかと思います。具体的な効果は、下記の図のとおりです。

テレワークを導入していない企業では、導入の懸念点として「ワーカーの状況が把握できないので困る」といったことを聞きます。しかし、実際に導入している企業では、逆の効果が表れています。

また、インタビューしたそれぞれの企業では、「すぐに状況が把握できなかったとしても、時間内に仕事が終わっていれば問題がない」といった声や、テレワークを導入していても基本は週1回などの規定があるため「週1回テレワークになったところで、大きな変化はない」と話していました。確かに、普段仕事をする中で外出や出張で1日オフィスを不在にすることと、大きく変わらないなと感じました。

今回のインタビュー先で共通していたのは、上司が社員の方を信頼して、性善説で動いているということ。それによって、制度が意味を成し、社員に対してより働きやすい環境に繋がっていくのではないかと思います。

テレワークによるポジティブな変化―553人の回答より

このインタビュー調査から得られたキーワード「セルフマネジメント力」「メリハリのある働き方」について、先端的に導入している企業のみで起こった効果なのか、一般的にテレワークを導入している企業でもインタビュー調査で見られたような効果が得られるのかを確認するため、下記の仮説を立ててアンケート調査を実施しました。

■セルフマネジメント力
セルフマネジメント力が促進され、生産性・エンゲイジメントが高まり、企業はマネジメントをより行いやすくなるのではないか

■メリハリのある働き方
WorkとLifeの線引きがあいまいだかこそ、メリハリをつけて働こうとするのではないか

調査は、Work in Life Labo.調査メンバーのネットワークでインターネット上に作成したアンケートサイトに回答を依頼、正社員または直接雇用の契約社員の方(有効回答数553)にお答えいただきました。

テレワークをすることは仕事・生活環境、効率を上げるのか?

まずは、テレワーク環境下での仕事・生活環境の変化に関する予測についてです。テレワーク経験者・テレワーク未経験者の両者に聞いており、テレワーク経験者は、テレワークを経験した実感、テレワーク未経験者にはテレワークをした状態を推測して回答してもらうようにしました。

テレワーク経験者は、半数の人が仕事および生活環境の質が「上がる」と回答、「変わらない」という回答も多くありました。テレワーク未経験者に関しては、仕事環境の改善については予測が低く、生活環境の改善に期待が持たれているという状況でした。導入の際に心配されそうな「業務や作業の能率・効率」に関しても7割以上の人が「変わらない」「上がる」と回答しているため、仕事内容による傾向はあるかもしれませんが実際は心配するほど能率や効率が下がることはないのではないかと考えられます。

テレワークと幸福感・ワークエンゲイジメント・生産性の関係とは?

続いて、テレワーク利用と「ウェルビーイング」「ワークエンゲイジメント」「バーンアウト」「生産性(自己評価)」の関係について調査を行いました。テレワークを月1回以上利用している人の方が、「ウェルビーイング」「ワークエンゲイジメント」「主観的生産性」が高く「バーンアウト(情緒的消耗感)」が低いことから、メリハリのある働き方をしている可能性があります。

テレワークを行うと、セルフマネジメント力がつくのか?

最後に、テレワークとセルフマネジメントの関係についても調査を行いました。インタビュー調査の結果にも出ていましたが、月1回以上テレワークを利用している人はセルフマネジメント力に対する意識が高いという結果が得られました。意識的・無意識的かは分かりませんが、セルフマネジメントに対する意識が高まるということは企業にとってもはたらく個人にとっても、よい傾向ではないのかと考えられます。

アンケート調査の結果を「セルフマネジメント力」「メリハリのある働き方」の2点でまとめると下記のような結果となりました。

上記のような結果から、インタビュー調査から得られたテレワーク導入による効果「セルフマネジメント力」「メリハリのある働き方」は、先端的な導入企業だけではなく、一般的に導入されている企業の方々にも言えることだと考えられます。

ひとつの選択肢として、テレワークを取り入れるために

今回の調査の結果から、テレワークの導入は「セルフマネジメント力の向上」「メリハリのある働き方」につながることが分かりました。また、インタビュー調査からも、制度を導入する際に懸念を生み出さないためには、過度な心配をせず、チャレンジしていくことも重要だと考えられます。

また、インタビュー調査ではテレワークの導入は仕事だけでなく生活の面で、地域活動に参加しやすくなった、今まで有給休暇を子供のため・介護のために消化していたものが働く時間・場所の選択肢が増えたことにより調整が可能となり、自分のための休日として使えるようになった、といった声もうかがうことができました。仕事面だけでなく、生活面でもよい状況になったようです。

もちろん、すべての人が積極的にテレワークを活用する必要はないかもしれません。ただ、テレワークという選択肢があり、一度体験して実施していくことで自分自身のより良い働き方を模索するきっかけとなり、よりいきいきと働くための選択肢が一つ増えるのではないでしょうか。

セルフマネジメント力向上やメリハリのある働き方の実現には、日常的な会話や信頼関係を構築していく必要があります。日常的なコミュニケーション、信頼と、それを支える空間づくりができているかを考えて行動していくことが大切でないかと思います。

2019年8月8日更新

テキスト:谷口 美虎人 (株式会社オカムラ)
グラフ等参照資料元:
Work in Life Labo. 活動レポート Vol.01
Work in Life Labo. 活動レポート Vol.02