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ダイバーシティ&インクルージョン ― 経営の効果と推進への10のポイント

「はたらく」とは、どのようなことなのでしょうか。人によってさまざまな考え方があると思いますが、私たちWork in Life Labo.(ワークインライフラボ) ※1では、これからの「はたらく」について「働き方改革」「ダイバーシティ」の2つをテーマのもとに研究を行っています。今回は2019年4月に発行した調査研究をまとめた活動レポートの中から、「ダイバーシティ」に関しての調査結果をお伝えします。

 

※1 Work in Life Labo.はオカムラの「はたらく」を共に考え描く活動「WORK MILL」から生まれた共創プロジェクトです。Work in Lifeに関連したテーマを調査・分析・発信していく研究会として活動しています。

 

ダイバーシティには主に2タイプあり、インクルージョンによって意味を成す

いま多くの企業がダイバーシティ経営を目標として掲げ、政府も取り組みを始めました。そんな中で「ダイバーシティ」と聞いた時に、皆さんはどのようなことを想像しますか?女性活躍、男性の育児休暇、LGBT……人それぞれ、自分の状況に引き寄せつつさまざまな想いを持っていると思います。
私は「ダイバーシティ=多様であること」と捉えるならば、ダイバーシティが高い世界こそが自然な状態ではないのかと思います。全員が同じ属性、性格、価値観……になるのは逆に怖いと感じてしまいます。とはいえ、ダイバーシティを語る時には感情的にならずに現状を見極めることも重要だと思います。そこで、既往研究なども交えながら、まずはダイバーシティとはどのようなことなのかを見ていきたいと思います。

  

ダイバーシティには、主に2つのタイプがあると言われています。属性や社会のカテゴリーなど、外見や身辺から認識することのできる「表層的なダイバーシティ」。これは例えて言うならば、性別や年齢、人種、民族などになります。でも、人はそれらの目に見える特徴からだけで個人を形成しているわけではありません。もうひとつは、価値観や能力など外部からは認識しにくい「深層的なダイバーシティ」です。パーソナリティ、価値観、嗜好、信条などが挙げられます。本来ダイバーシティとは、表層的なものと深層的なものの双方が切っても切れない関係にあるものなのです。

 

 

では次に「インクルージョン」とは何なのでしょうか。「ダイバーシティ」単体は、単に組織に多様な人材がいる程度を指す言葉ですが、組織に多様な人材がいるだけでは、プラスにはなりません。ここで「インクルージョン」が大きな役目を果たします。インクルージョンは、具体的な内容までは議論が収束していないものの、「多様な人々が互いに認められ活かされる状態」を指すといわれています。だからこそ、ダイバーシティに加えてインクルージョンが合わさって初めて意味がある、という意図で「ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion、以下D&I)」とセットで語られることが増えてきたことにも納得できます。

  

「インクルージョンが重要なことはわかったけれど、実際はどうやって実現すれば良いの!?」と思われる方も多いと思います。Work in Life Labo.でも、それが大きなリサーチクエスチョンになっています。誰もが個性や能力を活かしていきいきと働くために、D&I どうしたら実現できるのか?私たちの研究グループでは探り始めました。

  

ダイバーシティを活かすためにはステップがある?

ダイバーシティを活かすためには、何から取り組めば良いのでしょうか。これまでの研究 ※2から、ダイバーシティを活かすためには3つのステップがあると言われています。

 

このステップに当てはめて考えてみると、日本はまだ第1段階の発想の企業が多いのが現状ではないでしょうか。もちろん、まずは差別をなくすこと、多様な人材を雇用することから始めなければならないため、制度を新しくつくったり、変更したりする必要があります。しかしその次には、管理職のマネジメントの変化などが必須です。

 

※2:Cox, T., and Blake, H. S. (1991) “Managing Cultural Diversity: Implications for Organizational Competitiveness”, Academy of Management Executive, vol. 5, No.3
Thomas., R. R-Jr. (1990) “From Affirmative Action to Managing Diversity”, Harvard Business Review, pp.107-117.

 

企業にとって嬉しい、D&Iの効果

前述のステップを見ると、 D&I の実現は一筋縄ではいかないと気後れしがちです。企業の価値創造にとってメリットがないならば、あえて面倒なことに取り組む必要はないと感じてしまうかもしれません。しかし、既往研究 ※3では、ダイバーシティが活かされると企業にとって6つのメリットがあるのではないかと言われています。

 

・コストの削減:職務満足度低下による離職や欠勤のコスト
・人材確保:良い評判による採用への優位性
・マーケティング効果:広報・消費者行動の理解やそれへの対応
・創造性の増大:プロダクトやプロセスのイノベーション効果
・問題解決の進展:幅広い経験や考え方による問題解決の改善
・企業組織の柔軟性:複雑な状況への柔軟な対応や曖昧な業務の実行など、流動性や順応性の担保

 

どのメリットも、パフォーマンス向上や価値創造が重要視されるようになった現代社会では大きな意義があります。その一方、組織内でネガティブな状態を招く可能性も否定はできません。異なる考えをもつ人や集団間での感情的なコンフリクトが起こったり、そのコンフリクトを解決・とりまとめるための調整コストや混乱が発生したりする可能性もあります。さらに、異なるコミュニケーションスタイルの人や集団間のすれちがい・分離によるコミュニケーション障害などが起こることもありえます。

 

私はふとした時に D&I を自分自身のまわりの状況に置き換えて考えることがあります。自分一人では考えつかないことでも、多様な人がいるからこそ新しいアイデアが出る時もあります。でも、自分の考え方・価値観がまわりと異なることで、気持ちがモヤモヤしてしまう時ももちろんあります。これらはダイバーシティが高い企業や組織であれば、良くあることなのだと思います。違うのだからコンフリクトが起こるのは当たり前です。感情的にならずにその違いを受け入れようとする個々人の意識が重要なのではないかと感じます。 D&I が体現できる組織風土が醸成できれば、多様な個人が自然体で安心して自分自身の能力や個性を発揮できる社会・組織になるのだと期待しています。

 

※3:Cox, T., and Blake, H. S. (1991) “Managing Cultural Diversity: Implications for Organizational Competitiveness”, Academy of Management Executive, vol. 5, No.3
谷口真美,「ダイバシティ・マネジメント―多様性をいかす組織 」白桃書房, 2005.9

 

調査から見えてきたD&Iのための10のポイント

さてここまでは、既往研究などから見えてきた D&I について整理をしてみましたが、何をすれば D&I が実現できるのでしょうか。実際の企業の D&I はどうなっているのかをインタビュー調査から探りました。

 

インタビュー調査では、 D&I を推進しているとWEB等に記載している、取り組みが口コミなどで広がっている企業などに対して、インクルージョンのための共通点やユニークな取り組み事例を収集しました ※4。収集したデータから総合的に「共通点」「相違点」をキーワードとして抽出し、「企業」「上司」「チーム」「個人」「文化・風土」「環境」の階層において、どのような取り組みや特徴があるのかを分類していきました。その結果、 D&I の推進に積極的な企業には、10の共通するポイントがあることがわかりました。
 

※4:2018年10~11月計5社に対して実施。

 

そもそも、まず企業が置かれている環境に「ダイバーシティの必要性を感じる環境がある」ことがポイントとして挙げられます。企業としては「企業理念が明確で社員に浸透している」「企業理念と制度・取り組みに一貫性がある」「社員教育の理念と人事評価制度が整っている」「個人と企業理念のフィットを重視している」ことがあります。企業理念への社員の理解・共感は D&I のためにとても重要な要素であることがわかります。

 

インタビュー企業では、実際にどのように取り組んでいたのか例をご紹介します。まずは理念を共有するための教育。全社一斉に業務を休み研修に参加する企業が複数ありました。これによって企業としての本気度が感じられたという社員が多いようです。また、社員の評価や面談の際に企業理念に沿って評価をしていく仕組みもありました。

 

次に、個人としては「責任を持って自律的に働いている」こと、上司としては「全員がリーダー意識を持ち、部下を支援している」ことも共通点です。

 

またさまざまな階層に関わるポイントとして「個人とチームのバランスがとれている」「会話・対話を積極的に行っている」ことも挙げられます。個人の価値観や考え方が認められるのが D&I だとすると、個人のプライベートのことをあえて話す必要はないと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、インタビュー企業では自分は何が好きで何が嫌いか、家族やパートナーの状況、趣味などのプライベートのことも積極的に話すという企業が多かったのが印象的でした(もちろん強制ではありません)。
これは最後のポイント「誰とでも安心して話し、過ごせる環境がある」からこそ話せるのだと思います。自分のプライベートの話をしても、それによって不利益を被ることも、批判されることもないのです。

 

これらの10のポイントを実現するために、各企業は独自の具体的な取り組み・施策を実施していました。企業のもつ文化・風土ごとに最適な方法を模索しているようでした。

 

 

繰り返しになりますが、私たちは「インクルージョンはこれから必要なものだということは理解できても、何からすればよく分からない」というのが正直なところだと思います。ぜひこの10のポイントを手がかりに、皆さんの企業・組織・チームに合った施策を考えてみていただければと思います。

 

少し余談なのですが、今回インタビュー調査を実施するにあたって、多くの企業に調査へのご協力を申し込みました。外資系の企業は総じて自社の理念や取り組みに自信を持っているご様子で「自分たちは D&I をこう捉えて実践している」とご快諾いただく場合が多かったのに対して、今回の調査が偶然だったのかもしれませんが、日系の企業では「他の企業と比べれば我々の取組はまだまだ…」「お話できることは何も…」とご辞退いただく場合もあったのが印象的でした(活動レポートに掲載させていただいた日系企業は、その中でも自社の取組をポジティブにご紹介くださった素敵な企業でした!)。
日本ではまわりと同じこと、とびぬけないこと、同調することを美徳とする風潮があるのも事実ですが、日本の歴史を振り返ってみると本来は自分たちとは異なる文化を受け入れる寛容さがあったはずです。 D&I では同一ではなく、むしろ多様であること、個性を活かすことが重要です。日本で D&I を実現するためには、理想に向かう強い意志と自信が必要なのだと改めて感じました。

成功の秘訣は、真剣に考え取り組むこと

ここまで、Work in Life Labo.での調査結果をご紹介してきましたが、いかがでしたか。D&I を考える時、私たちは色々な疑問に直面します。D&I が実現できているから会話や信頼が安心してできるのか、会話や信頼が安心してできるようになったことでD&Iが実現できたのか…鶏が先か、卵が先かと同じように、その順序に答えはないのかもしれません。

 

また、企業理念の浸透が徹底した時、 D&I で個性が活かされて心理的安全性が高い企業になるか、ときに過酷とも取れる働き方を一律に強制してしまう企業になってしまうか、この違いはどこにあるのか……。そして、すべての企業にとって多様な個性が活かされることが本当にメリットとなるのか。業種によっては、特定の個性や能力のある人材が集まっている方が価値創造できる場合もあるかもしれません。

 

D&I は謎ばかりで、まだ唯一の正解はなさそうです。それぞれの企業がそれぞれの D&I の在り方を真剣に考えて、未来を信じて取り組んでいくこと以外に方法はないのかもしれません。Work in Life Labo.の研究成果から、皆さんにとって参考になる D&I のポイントをピックアップ、カスタマイズしていっていただきたいと思っています。

 

 

 

2019年7月12日更新

テキスト:森田 舞 (株式会社オカムラ)
グラフ等参照資料元:
Work in Life Labo. 活動レポート Vol.01
Work in Life Labo. 活動レポート Vol.02

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