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「ローカル×お店」は働き方、生き方を拡張させる ― 「やってこ!シンカイ」徳谷柿次郎さん、ナカノヒトミさん

 

東京から新幹線で1時間弱、長野市は善光寺のおひざ元、門前町の趣きと生活感が同居す る静かな一画。2018年の春、都心からの移住者が、この地の風景に溶け込んだ古い建物を 利用して、新しいお店を誕生させました。その名も「やってこ!シンカイ」です。

 

オープン当初から、現代に即したサステナブルなお店の在り方や、ローカルでの豊かな働 き方、コミュニティの広がりを求めて、さまざまな試行錯誤を行なってきたシンカイ。成功 も失敗もあった社会的実験の繰り返しの中で、どのような学びや気づきが蓄積されていった のでしょうか。オーナーの徳谷柿次郎さんと、店長のナカノヒトミさんにお話を伺いまし た。

 

後編では、ローカルコミュニティづくりのリアルな所感から、「自社メディア」として生 かす店舗の在り方、ローカルでお店を持つことによって生まれる働き方や生き方の「拡張 性」など、お二人の実体験に基づく発見について、さらに詳しく赤裸々に話を掘り下げてい きました。

 

・前編_主体性のある働き方のハブを目指す「やってこ!シンカイ」の試行錯誤 ― ローカルでの店づくり、場づくりのリアル

 

「コミュニティ」なんてものは、意図的につくれない?

 

WORK MILL:「やってこ!シンカイ」は、「地域活性のハブになる」といったコミュニティ志向を持って始められていましたね。オープンから1年が経って、現状ではどんなコミュニティができているように感じていますか。

 

徳谷:学生インターンが入ってからは、「何か面白いことをやりたい」と思っている地元の大学生たちがよく集まる場になってきたかなと思います。ただ、正直に話すと、現状では「コミュニティができてます」と言えるほどのものは、まだできてないんじゃないかと。

 

そもそもコミュニティって、定義が難しいですよね。いまや流行語のようになっていて、「猫も杓子もコミュニティ!」みたいな感じになってますけど(笑)。でも、よくよく考えてみると、そんなに意図的に仕掛けてつくれるようなものじゃない気もしていて。

 

WORK MILL:と言うと?

 

ー徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)
1982年生まれ。大阪府出身。東京と長野の二拠点生活中。全国47都道府県のローカル領域を編集しているギルドチーム「Huuuu inc.」の代表取締役。どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長、海の豊かさを守ろう「Gyoppy!」の監修、TBS系列のニュース番組「Dooo」の司会、長野市善光寺近くでお店「やってこ!シンカイ」のオーナー、雑誌「ソトコト」でも毎月コラムを連載。趣味は「ヒップホップ」と「民俗学」。シンカイショップ @kakijiro

 

徳谷:新宿ゴールデン街でお店をやっている友人が言っていてハッとしたんです。たとえば「地域コミュニティ」なんて言葉がありますけど、それって誰かが「つくるぞ!」って意気込んで生み出したものじゃないですよね。昔はお隣さん同士、協力し合った方が暮らしやすかったから、むしろ協力しないと生きていけないような背景があったから、必然としてご近所付き合いが生まれていたんだなぁと。

 

頑張って場づくりをすれば、一時的なコミュニティはつくれると思います。ただそれも、人が極端に集中してる都会…もっと言えば、東京だからこそ可能な話だったりする。そして、誰かが頑張り続けないと維持できない。そんなコミュニティ、めちゃくちゃしんどいですよね。

 

だから、「コミュニティづくりがんばろう!」みたいな意識は、あんまり持たないようにしていて。この地にあるお店として、顧客であるご近所さんのニーズに寄り添っていったら、ここに集まる人たちとのコミュニケーションが増えていって、いつか自然発生的にできるんちゃうかなと。そういうプロセスでできて、初めて意味のあるというか、機能するコミュニティになるような気がします。

 

WORK MILL:なるほど。

 

ーナカノヒトミ(なかの・ひとみ)
1990年長野県佐久市出身。2017年よりフリーライターとして活動を始めた。どこでも地元メディア「ジモコロ」などウェブメディアを中心に執筆を行う。2018年4月に「やってこ!シンカイ」の店長になり、佐久市から長野市に引っ越す。シンカイで自分の子供を育てることが目下の目標。@jimonakano

 

ナカノ:この場所を起点に生まれるコミュニケーションは、少しずつ増えてきているなと実感しています。私も最近は、近所に住んでるおじいちゃんおばあちゃん、インターンの子の知り合いの学生さんと、よくお店でおしゃべりしますね。

 

WORK MILL:どんなお話をされるんですか?

 

ナカノ:結構、悩み相談が多いです。「いま、こういうことをやろうと思っているんですけど」とか、「会社辞めようかなと考えてて」とか。あんまり悩んでない人は、いい顔をしてそのまま店の前を通り過ぎていく気がします(笑)。でも、少し前に店に来て話し込んでた人が、颯爽と通り過ぎていったりしてくれると、なんだかちょっと安心したりして。

 

なんでそういう話が多いのかなって考えてみたんですが、多分、これから何かやろうとしていたり、新しい一歩を踏み出そうとしていたりする人が、多く訪ねてきてくるからかなと。私は悩みに対して具体的なアドバイスをできるわけじゃないけど、シンカイが「ここに来たら何かチャレンジできそう!」と認識され始めているのは、うれしいことですね。

 

自社メディアとしての「ローカルなお店」の価値

WORK MILL:ローカルにお店という場所を持つことに対して、現状どんなメリットを感じられていますか。

 

徳谷:まず、ローカルに限った話ではないんですけど、お店の経営を経験することでいろんな人と共通言語を持てるようになって、より深いコミュニケーションが取れるようになりました。相手と同じ土俵に立つことで初めて生まれる会話もあって、人間関係や仕事の幅は確実に広がりましたね。

 

また、僕自身が「ローカル×編集」という文脈を仕事の主戦場としているので、シンカイでの試行錯誤はそのまま本業にも生かせています。編集という行為を拡張して、ここでやっていることは「リアルな場の編集」と捉えているので、シンカイは僕にとって自社メディアに近い存在なんです。

 

ぶっちゃげると、シンカイは開店からずっと赤字です(笑)。ただ、たとえば月10万円の赤字だったとしても、それを広告費として考えたら、「赤字でも続けることで生まれる価値はある」とも言えます。

 

 

WORK MILL:お店に複合的な視点、目的を持たせることで、コスト以上の価値を引き出しているのですね。

 

徳谷:ただ、これはオーナー目線の話なので、現場を回すナカノちゃんが感じているメリットとは、少し感覚が違うとは思うんですけど。

 

ナカノ:私は特別な目的もなく「なんか面白そう!」って直感だけで始めているので、メリットとか聞かれると焦りますね…。ただ、苦労しながらも続いていて、これからも続けたいと思えているので、確かなやりがいは感じているんだろうなと。

 

徳谷:ナカノちゃんって、めっちゃ狩猟マインドなんですよ。性格診断とかやっても、絶対に狩猟感のある結果が出てくる。たぶん、あんまりというか、先のことなんも考えてないでしょ?(笑)

 

 

ナカノ:えっ、そんなことな…くないですね、考えてないかも(笑)

 

徳谷:その代わり、目の前のことに対処したり、思い切って飛び込んでいったりする能力はめっちゃ高いんです。関心のある物事に対しての反射神経、行動力がずば抜けてる。そういう性質は、お店の仕事に向いている気がします。

 

ナカノ:確かにそうかもしれません。お店に来るお客さんは毎日違うし、現場でぶち当たる課題も本当にさまざまで。想定外ばかりで、苦手なことも多いんですけど、それを楽しめている自分がいて。柿次郎さんも外からどんどん新しい風を入れてくれるし、1年間同じ場所にいても、日々のワクワク感が色あせることはないですね。

  

徳谷:僕はどちらかと言うと、長い目で考えて企画したり仕掛けたりするのが好きなので、ナカノちゃんと一緒にシンカイをやってるのは、案外バランスが取れてるのかなと感じます。

 

賃貸はリスク? オーナーシップを握る重要性

WORK MILL:昨今、地方の空き家活用に注目が集まってきていて、これからローカルでお店を開いたり、場づくりをしようと考える人は増えてくると思います。そういった方々に、経験者としてアドバイスするとしたら、どんなことが言えそうでしょうか。

 

 

徳谷:ローカルに根差した場づくりをするなら、短期的に成果を急がず、長い目で見て地元の人たちと関係値をつくっていく必要があります。ただ、そこで留意すべきなのが、土地や建物のオーナーシップについてです。

 

WORK MILL:オーナーシップ?

 

徳谷:たとえば、シンカイは僕が賃貸契約でこの建物を借りています。今の家賃は月3万円で、この安さがあってこそ、多少の赤字で運営を継続できている。ただ、3年かけてシンカイがいい感じの場に育っても、その時点で家主の考え方が変わったりしたら、そのまま借り続けることができなくなってしまう可能性もあるんですよね。

 

ローカルで安く物件を借りてゲストハウスを始め、人気が出て軌道に乗ってきたところで、地主の意向が変わって家賃が急に高くなったり。また、やむを得ない事情で物件の管理者が元のオーナーさんからそのご家族に移って、取り壊しが決まって退去を迫られたり…話を聞いてみると、そういう事例は少なくないようです。

 

WORK MILL:つまり、自分たちが土地や建物のオーナーシップを握っていないと、仮に場づくり自体はうまくいったとしても、持続可能性が担保できないと。

 

 

徳谷:そうなんですよ。権利者の都合には、どうしたって逆らえません。それは長い目で見ると、大きなリスクとして捉えられます。

 

本業としてローカルに入ってお店をやるならば、場に対するオーナーシップを握ってしまうのがベストでしょうね。実例として大きく成功しているローカルのプレイヤーは、そのほとんどが最初にリスクをとって土地や建物を買い取り、場所の権利を自分のものにした人たちだったりもしますし。

 

WORK MILL:なるほど。

 

徳谷:僕やナカノちゃんのように複業的に取り組んだり、数年間のお試しでやったりする分には、そうしたリスクは許容できるかもしれません。ただ、移住して本格的に本業にしていくつもりなら、賃貸ではなく腹をくくって買い取ってしまった方がいい気がしますね。

 

その際には、地元の銀行で融資を受けるのも手だと思います。地方での地銀の影響力は健在なので、ちゃんと貸し借りの履歴を積み重ねていけば、広くその土地での信用を得ることにつながっていきますから。

 

WORK MILL:徳谷さんからは店のオーナー目線でのお話をしていただきましたが、日々の実運営に携わるナカノさんからは、どうでしょうか。

 

 

ナカノ:これからローカルでお店を始める人へのアドバイスですよね? そうだな…自分のモチベーションの管理をいかに上手にするか、かな。やっぱり、思い通りにうまくいくことばかりではないので。

 

冬の店番は、結構つらかったです。寒いし、お客さんが一人も来ない日もあったりして。そういう時に、積極的にできることを見つけて、自分の気持ちを盛り上げていくのは、大事だことだなと思います。

 

WORK MILL:お店をつくったからといって、そこに勝手に人が集まってくるわけではない、と。

 

ナカノ:ローカルであればあるほど、集客は難しくなりますね。オープンしたての頃は知り合いがわっと集まってくれましたが、それも長くは続きません。いかにこの土地の日常に寄り添っていけるかが重要なんだなと、日々の業務や発信を通じて痛感しています。

 

「お店」というリアルな場が持つ引力と拡張性

 

徳谷:ちょっと重ための話をしちゃいましたけど、僕は単純に長野が好きで、皆にも来てほしくて。シンカイは、僕の友人たちが長野に来るきっかけになってくれたらいいなと。最初はクラウドファンディングで旗を振るために「お店2.0」みたいな構想を前面に押し出したりもしましたが、ここを続けてる根っこのモチベーションは、そういうトコにあるんやと思います。

 

この店をハブにして、さらに面白いところへ連れていきたいんですよね。たとえば、店に「田植え、5,000円」って書いた体験カードみたいなのを置いとく。それを買うと車が来て、そのまま近くの農家さんの家に行って田植え体験ができて、秋になったら5kgのお米が送られてくる、とか。ほかにも革職人さんとか、新しいワインづくりをやろうとしてる人とか、周りに面白いことをやってる知り合いがたくさんいて、そういうのも全部シンカイに巻き込んでいきたくて。

 

お店をやることで広がるつながりがあって、そのつながりをお店に生かしていく。「拡張」という言葉をキーワードに置くと、リアルなお店はすごい引力を発揮するんやなと実感しています。

 

WORK MILL:ECビジネスがどんどん一般化していく中で、これからの「お店」の概念も大きく変化していきそうですね。「お店=リアルに場を持つこと」という前提がなくなってきたからこそ、「リアルに場を持つこと」の意味が一層際立ってくるのかもしれません。

 

 

徳谷:そうですね。100%本業で店舗経営している人には少し失礼な表現になってしまうかもしれませんが、ローカルでお店を持つことは、めちゃくちゃ文化的で良質な「大人の遊び」やと思います。

 

空き家活用の文脈に乗れば、地域社会にも貢献できる。DIYの楽しみもあるし、ローカルだと周りの先輩たちが助けてくれて、その中で生涯付き合っていけるような仲間ができたりして。そういうのひっくるめて、リアルな場を持つことは「豊かに生きること」につながってくるようにも感じます。

 

もしかすると「ローカルに店を持つ」という行為は、現状の働き方や生き方を大きく拡張する上で、一番手っ取り早い手段なのかもしれません。どんな商売をするかにもよりますけど、しっかり場所を探して小さく始めようと思えば、固定費もおそらく10万円以下に抑えられますしね。

 

 

WORK MILL:今後のシンカイのビジョンとして、どのような未来予想図を描かれていますか。

 

徳谷:直近は僕とナカノちゃんで、楽しく続けていける体制をキープしていきたいなと。そのうち、全部ナカノちゃんに任せてもええんちゃうかなとも考えてます。彼女、最近ずっと「ここで子ども生んで育てたい」って言ってるんですよ。ご近所さんに助けてもらいつつ、ナカノちゃんがお母さんをしながらでも無理せずこのお店を回していけるのが、ひとつの理想像かな。

 

 

ナカノ:このあたり、ひとりで住んでるおばあちゃんも多くて。向かいもそうだし、お隣さんもそうで…だから、結構いけるんじゃないかと思ってるんです。他力本願すぎかもしれませんけど(笑)

 

徳谷:子どもという手に負えない存在を前にした時、真のナカノちゃんの人生が始まるんですよ。そこに救世主たる“乳母セブン”が現れて…みたいな(笑)。でも、ローカルって馴染んでくると「何があっても、なんとかなる」って気持ちが持てるんですよね。

 

どんな変化を遂げていくかは未知数ですけど、地元の人に愛される店であってほしいですね、シンカイは。そういう場所になるように、これからも焦らず気長にやっていきたいなと思います。

 

 

2019年7月9日更新
取材月:2019年4月

 

テキスト:西山武志
写真  :小林直博
イラスト:野中 聡紀

 

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