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「個」の時代、なぜチームで会社を結成するのか? AnyProjectsが考える新しい組織のカタチ

新しい働き方が模索され、語られる今の時代。IT業界を中心に登場しているのが、必要に応じて個や組織に変容する「ギルド」形態です。組織のあり方を模索する人々が現れるなか、従来の考え方には留まらない組織体は注目を集めています。

 

AnyProjectsも、ギルド形態をとる会社の一つ。異なる分野の第一線で活躍する5人が、共同で創業しました。「個」としても優秀なメンバーが、今、このタイミングで共同経営に踏み切ったのは一体なぜでしょうか。前編では、AnyProjectsの立ち上げのきっかけから、バックグラウンドの異なる5人が集まることの強みについてお話をうかがいました。

 

第一線で活躍してきて今がある。AnyProjectsメンバーのこれまで

WORK MILL:今回は、個の時代と言われる今、みなさんがあえて組織を作った背景についてうかがいたいと思っています。まずは、お一方ずつ経歴からお話いただけますか。

 

ー田中雅人(たなか・まさと)
国内外のデザイナー、クリエーター、アーティスト、研究者などのネットワークを生かしビジネスとデザインやクリエイティブをつないでいく事業に従事する。これからのデザインとアイデアが集結する日本の新たなクリエイティブの祭典「AnyTokyo」の総合プロデューサーとして活動。

 

田中:僕は、長い間、企業のブランディングやマーケティングに関わってきました。シンプルにいうと、インフルエンサーを“インフルエンス”する事業です。昔から国内外を問わず、デザイナーやクリエイター、研究者、起業家などをつなぎたいと考えていたんですね。2012年までは日本のデザインやプロダクトの展覧会を主催し、2013年以降はクリエイティブの祭典「AnyTokyo」をプロデュースしていました。

 

ー石川俊祐(いしかわ・しゅんすけ)
ロンドン芸術大学Central St.Martins卒業後、Panasonic Design Company、PDD Innovation UKのCreative Leadなどを経て、IDEO Tokyo立ち上げに従事。Design Directorとして数々のイノベーションプロジェクトに携わる。2017年に田中雅人とともにAny Projectsを設立。その後、BCG Digital Ventures Head of Designを経て、2019年3月よりAny Projectsを本格始動。近著に『HELLO, DESIGN 日本人とデザイン』(幻冬舎)。

 

石川:僕は工業デザインの分野に関わってきた人間です。大学からイギリスに渡り、向こうでデザインを仕事にして、帰国後には家電のデザイナーとして働いて。その後、再びイギリスに渡ってデザインコンサルティングを行うPDDで、世界中の企業のプロジェクトの推進に携わっていましたね。帰国後は「IDEO Tokyo」の立ち上げメンバーとして、企業のイノベーションプロジェクトに数多く関わってきました。

 

ー九法崇雄(くのり・たかお)
一橋大学商学部卒業後、NTTコミュニケーションズを経て、編集者としてのキャリアをスタート。「PRESIDENT」副編集長、「Forbes JAPAN」編集次長兼Web編集長などを歴任し、国内外の起業家やクリエイターの取材を行う。現在、「WORK MILL with Forbes JAPAN」のエディトリアル・ディレクター、東京都が運営する「青山スタートアップアクセラレーションセンター」メンターなども務める。

 

九法:もともとライフスタイル誌の編集者になりたかったんですが、就職活動でうまくいかず、新卒でNTTコミュニケーションズに入社しました。その後、やっぱり編集者への夢が捨てきれず、プレジデント社に入り、ビジネス誌の編集に携わっていました。その中で、僕は大企業の社長やビジネスマンよりも起業家やクリエイターたちの考えや熱量に惹かれることが多かった。彼らのことをもっと世の中に届けたいと考えるようになり、Forbes JAPANに転職しました。15年ほど、メディア業界でコンテンツをつくってきたんですが、そのうちにただ情報を伝えるだけでなく、自分自身でも新しい価値をつくりたいと考えるようになったんです。

 

ー高橋真人(たかはし・まさと)
2005年、英国・ロンドンRoyal College of Art修士課程卒業。2005-2011年、スイス・バーゼルの国際的設計事務所Herzog & de Meuronに勤務。世界各地で建築、都市デザインのプロジェクトを手がける。帰国後は建築設計から、都市、インフラ分野へと活動領域を拡張、 様々な分野の企業・機関と恊働しながら、国内外の地域開発プロジェクトにおけるデザインアドバイザリも行う。

 

高橋:東京の大学に通って、大学院からロンドンに渡って建築を学んでいました。スイスの建築に影響を受けて、設計事務所のHerzog & de Meuron(ヘルツォーク&ド・ムーロン)に就職して、ホテルや商業施設、ラグジュアリーブランドの空間など、さまざまなジャンルの建築を担当していましたね。帰国後は、都市デザインや地域開発の専門家として、国内外の企業や研究機関との協同プロジェクトを進めていました。

 

ー野田臣吾(のだ・しんご)
慶應義塾大学総合政策学部(SFC)卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)、モルガン・スタンレー証券を経て、2006年、フォートラベル株式会社社長就任。2010年以降、グルーポン・ジャパンCOO、mixiを経てトンズ・キャピタルを設立。取締役や顧問として約30社のベンチャー企業等の支援を行う。2018年よりBCG Digital VenturesにてVenture Architect Directorを務めたのち、AnyProjectsに参画。

 

野田:僕は大学を卒業して、日本興業銀行(現在はみずほフィナンシャルグループ)に入行しました。学生時代から日本の産業を興していく事業に携わりたいと考えていたんです。その後、モルガン・スタンレー、フォートラベルに移り、フォートラベルでは代表も務めさせていただきました。そして、前職であるBCG(ボストンコンサルティンググループ)デジタルベンチャーズの在籍時に石川と出会い、一緒にやろうと意気投合しました。

 

バックグラウンドの違うメンバーが抱いた「共通」の課題感

 

WORK MILL:みなさん、各業界の第一線で活躍していらっしゃいますよね。独立して活動していてもおかしくはないかと思うのですが…。働く中でなにか課題感のようなものがあったのでしょうか?

 

田中:僕は当時、「AnyTokyo」で日本の良質なデザインやプロダクトを広めて、より良い形で多くの人に届けたいと考えていました。5人それぞれが、課題感を抱いていて、各々出会って、つながった感じですね。

 

石川:僕と雅人(田中さん)は、共通の知り合いを通じて、10数年前に出会っています。でも、しっかり話す機会はなかなかなかった。たまたま僕が「IDEO Tokyo」を立ち上げた頃に「AnyTokyo」の話を雅人から聞く機会があって、すごく驚いたんですよ。「日本に、自分と同じ課題を抱えている人がいる」と思って。

 

WORK MILL:その課題感とは具体的にどのような?

 

石川:「自分たちはなんのためにデザインしているのだろう」の問いへの解が見つからなかったことです。僕自身、海外で多くのクリエイティブに触れていたのですが、日本は目的や本質を見失ったデザインが溢れてしまっているように感じていました。否定的な意味合いではなく、もっと人間の欲求に触れたエネルギーのあるデザインを追い求めてみたかったんですよね。

 

 

九法:僕も、雑誌やWebの編集に長く携わるなかで、そもそもこの情報って何のためにあるんだっけ、と疑問に持つことが増えてきて、自分でも何か価値を生み出したいと感じていました。ただ、一人だけではなかなか難しくて。そんなときに出会ったのが雅人くん(田中さん)や俊さん(石川さん)だったんです。彼らのようなプロフェッショナルと組むことができたら、本質的な問いを立てて、世の中に広く届けられるものが作れるだろうと思いました。

 

高橋:僕もすごく似ています。建築って、自分たちが造りたい建造物を造る仕事ではないので、クライアントワークに留まってしまうんですね。帰国してから、ずっとそこに疑問を抱いていたんですよ。もっと建築の観点から新しい価値を創造することはできないのだろうかと。そんなとき、僕も俊さんと話す機会をもらって。じっくり話を聞いてみたら、同じことを考えていた(笑)

 

野田:見え方は違えど、僕も抱いた課題は似たようなものでした。これからのスタートアップは資金力や多様性などが事業成長のキーワードになると思っていました。つまり、世の中の課題を解決するための取り組みは、ひとりではなくさまざまな人材の相互価値提供によって生まれる、と。そこで、AnyProjectsの取り組みを通して、世の中にインパクトを残してみたいと感じました。

 

AnyProjectsのスタートは、箱根温泉合宿から!?

WORK MILL:一人ひとりが別の環境で同じ課題を抱いて…ってすごく新しいですよね。知り合い同士がつながった縁でAnyProjectsが生まれたと思うのですが、実際に組織として走り出すまでにはどんなストーリーがあったのでしょうか。

 

 

石川:グラデーションって感じでしたよ。「よし、会社を立ち上げよう!」と、トントン拍子に決まっていた感覚ではないです。今のメンバーの数名が「AnyTokyo」のプロジェクトに少し関わっていたのですが、外部でのプロジェクトを作ってみたいと話して。そこで、AnyProjectsが生まれました。

 

田中:5人で集まることはそれまでなかったけれど、知り合いだった2人ずつがよく課題感を共有していて、一緒にプロジェクトをやりたい…といった具合で発展していたような気がします。

 

九法:たしか、昨年の6月に、5人で集まって箱根で合宿をしたんですよね。みんなが関わり合うことで生まれる可能性を考えよう、みたいな。1時間ずつ自己紹介したり、できることやできないことをブレストしたり。そのときが、組織として走り出すってタイミングだったような記憶です。

 

 

WORK MILL:そもそも、みなさんの働き方の違いって気になってはいなかったのですね。

 

高橋:どうでしょうね。「会社のために働く」っていう意識はないかもしれないです。仕事に対して、みんな本質的に考えるタイプだからかもしれませんね。「そもそもどうして仕事を?」「その仕事に意味はある?」「どれだけの人を幸せにできている?」など、働き方ではなく、スタンスにAnyProjectsらしさが表れている気がします。

 

九法:たしかにそうかも。僕も、Webの世界だと基本的には情報が流れていくんだけど、そもそも本当に必要な情報ってなんだろうかとばかり考えていましたし。

 

 

野田:「AnyProjectsらしさ」って言葉がありましたけれど、本当にその言葉が当てはまるような気がしますね。明確に何かを求めて集まったのではなく、自分の世界は自分で作れるような人たちが、あえてAnyにいる。それは、自分以外のメンバーが関わることでどんな価値が生まれるのかと、ワクワクしている証なのだと思います。言い方を変えると、ほかの4人への憧れってことでもあるんです。

 

AnyProjectsらしさはそれぞれの中にあるし、まだ見つかっていない

WORK MILL:まだまだ始まったばかりだとは思うのですが、実際に5人で組織を作る良さって見えてきていますか?

 

 

田中:見えてきているどころか、メンバーがいるだけでシナジーが生まれていますよ。今って個の時代と言われていますよね。これからはその個が集まってチームを作る時代になるはずです。そのときに必要なのは、チームに所属する個も、頭を使って考え続けること。だからこそ、強い個が集ってできるチームは何倍も強いんです。AnyProjectsのメンバーは、みんなが違ったノウハウを持っているから、集まることで生まれる魅力も大きいんです。常にAnyProjectsのフィールドではシナジーが生まれていますね。

 

九法:たとえば、今僕らが手がけているホテルの開発プロジェクトがあるんです。真人くん(高橋さん)は建築的な視点での居心地の良さを考えるし、俊さん(石川さん)はデザイン思考のプロセスを通じて、プロジェクトメンバーやクライアントを含めた組織をデザインしていく。臣吾ちゃん(野田さん)はビジネスインパクトと収益性を組み立てて、思想全体を捉えてモチベーションを保つのが田中です。僕はどうやって世の中に届けていくのか設計している。どれが必要、なのではなく、どれも必要な視点なんですよね。一人ひとりが強度の高いパフォーマンスを出せるから、総合的にも強度の高い価値が生まれているのだと思います。

 

 

石川:僕自身、これまではギルドのようにコラボレーションが生まれる会社にもいたし、人材の多様性に溢れた会社にもいたことがあるんです。それでも、ここまで視座の高いアウトプットには出会ったことがない。なにかの価値を生むための組織のあり方を考え直す場所だし、ある意味、ものすごくしんどい環境でもある。AnyProjectsがどんな組織なのか、まだ僕らは言語化するに至っていないんですけれど、各々の中にぼんやりと価値が見え始めてきているのかもしれません。

 

 

***
前編はここまで。後編では、個の強い組織だからこその課題意識や、個と組織を両立するために必要なことについても話を広げていきます。

 

・記事後編_背景を活かすために、統一感を無視する − 個の時代における組織の作り方

 

2019年6月18日更新
取材月:2019年4月

 

テキスト:鈴木 しの
写真  :黒羽 政士
イラスト:野中 聡紀

 

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