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理想で終わらせず、実現できることを証明する ― PRと映画監督の副業 ・兼業はいかにして叶えられたか

ケイト・スペード ニューヨークのPRとして働きながら、映画監督としても活躍する穐山茉由さん。同作は第31回東京国際映画祭に出品されるなど、話題となっています。

 

映画で結果を出し始めてからも、PRの仕事は辞めず続けていくことを決めた穐山さん。どちらか一方の仕事ではなく、並行してどちらも続けていこうと決めたのには、どんな理由があるのでしょうか。また、会社からの理解や協力は、どのように得たのでしょうか。

 

これまでの働き方と映画制作について伺った前編を踏まえ、今回は本格的に映画制作の道に進むために変えた現在の働き方について伺います。

 

・前編記事_「二足のわらじを履くのは中途半端」はもう終わり ― 会社やチームの理解が豊かな兼業の形を作る

 

今までのキャリアを活かしながら、週4日勤務に

 

WORK MILL:最近、会社での肩書きが変わったと伺いました。

 

穐山:そうなんです。これまではマネージャー職だったんですけど、会社と相談して今年の1月から契約形態を変えてもらいました。今は週4日勤務の契約社員で、ケイト・スペード ニューヨークのPRとして働いています。

 

―穐山茉由(あきやま・まゆ) ケイト・スペード ニューヨーク マーケティング PR
1982年生まれ、東京都出身。大妻女子大学の被服学科を卒業後、OEMメーカーに就職。当時ケイト・スペード ニューヨークを取り扱っていたサンエーインターナショナルに転職後、ケイト・スペード ニューヨークのPRアシスタントとして勤務。30歳の時に映画美学校のフィクションコースに夜間と土日を使って通い始め、映画監督に。修了制作『ギャルソンヌ -2つの性を持つ女-』が若手の登竜門と呼ばれる田辺・弁慶映画祭に入選。初長編『月極オトコトモダチ』が第31回東京国際映画祭(TIFF)日本映画スプラッシュ部門に正式出品される。

 

WORK MILL:週4日勤務でPR、というのはどんな流れで決まったのでしょうか。

 

穐山:与えられたポジションで出さなければならない成果は会社としてあるし、映画監督としての活動とのバランスを考えたとき、会社に迷惑をかけてしまう気がしたんですよね。劇場公開にあたって打ち合わせが入って、会社を休まなきゃならなかったりとか。正直予測しきれないこともあるし、精神的な負担が自分にもかかると思って。

 

だったら責任のレベルをあらかじめ少し下げてもらって、かつ今までのキャリアも活かしつつ働ける状態にしてもらえないかと人事に相談したんです。それで週4日勤務でPRという形に落ち着きました。

 

WORK MILL:じゃあ週4日で働く契約を結ぶこと自体が会社は初めてになるんですか。

 

 

穐山:そうですね。会社としても初めて…だと思います。なかなかないみたいで。でもちゃんと言っておいた方が私も楽だなって。映画やっている人たちの中には、(映画の活動を)仕事として会社に言えないという人も結構いるんですよ。

 

自主制作で作る分にはできると思うので、それが大きく広がっていったときにどう決断するかというところですね。そこまでのことにはならない程度に隠しながらやるとか、他の人から見たら趣味と思われるようなレベルでやり続けるという方法もありですけど、できるだけ仕事としてもやりたいという気持ちがあるので、私はそういう方法をとりました。

 

WORK MILL:契約形態を変えたことで仕事の関わり方とか、上司同僚とのやりとりというか、業務範囲の切り分け方ってどう変わりました?

 

穐山:今は、スタイリストさんへの貸し出しやコミュニケーションをとるリース業務を担当しているんですけど、リース担当者が退職したタイミングだったので、私がそれを引き継いで、マネージャー職には代わりの人に入ってもらった形ですね。

 

他にも仕事はあるんですけど、会社としても私が今までやってきた仕事を週4日勤務で活かす認識なので、私はそういった意味合いではとても気持ちが楽になりました。時間が比較的読みやすい業務ですし。最初はやっぱり不安になりましたけどね。

 

WORK MILL:具体的には、不安だったのってどんな点でしょう。

 

 

穐山:そうは言っても映画でまだ何も稼いでいないしなあ、とか(笑)。あとは、今まで10年以上週5日勤務で働いてきたから、1日減ってそんなに変わるかな…って思っていたんですが、1日空くだけでかなり違う実感はあって。5日間のうちの1日って、結構有効に使えるんです。シナリオを書いたり企画を考えたりといったことに充てているんですけど、今まで「時間が足りないな」って思っていた部分が1日でかなり解消できた。これは発見でしたね。

 

「人生のヒロインとして生きる」を体現し、発信していきたい

 

WORK MILL:業務負担が軽くなったわけですが、積んできたキャリアもあるじゃないですか。ちょっとそれに対する物足りなさとかって感じますか?

 

 

穐山:正直なところ不安はあったんですけど、でもそれも全てシミュレーションした上で決断したことだったので、物足りなさはないですね。精神的なもので言うと、この先映画監督としてもやっていけるという部分で、これまでの積んできたキャリアとの気持ちのバランスがとれているというか。

 

一方を諦めてとかじゃなく、自分の現実的なキャパシティを考えて何をとるかというところで、両方を選ばせてくれる環境だったのがまずありがたいですよね。

 

WORK MILL:穐山さんのその決断を受け入れて、体制としても整えた会社もまたすごいですよね。異例の業務転換じゃないですか?

 

 

穐山:PRチームや一緒に働いているマーケティングチームから、「せっかく映画をやっていく道で評価されてきたのだから、ぜひ続けてほしい」と後押ししてもらったこともあって…ありがたいです。あと、ケイト・スペード ニューヨークとしても「女性たちが彼女の人生のヒロインとして生きることを称賛する」っていうのを掲げていて。

 

WORK MILL:すごくいいテーマですよね。

 

穐山:興味深い人生を送る女性、そういう人たちにインスピレーションを与えるブランドでありたいという元々の方針があって。そういった働き方の部分で私が少しでも発信できたらいいなとも思いますし、そもそもの社内での働き方としてもそうであってほしいというのも会社としてはあるので、理想だけじゃなくて実現できるってことを証明するためにきちんと考えてくれたのかなって思います。

 

理想の働き方を実現するのって、「そうは言ってもなかなか難しい」ってなりがちじゃないですか。でも、実現できるバランスを探る事って大事だと思いますし、それを会社が一緒に探してくれたという感じですね。まだ今後も変わっていくことがあるかもしれないですけど、今のところ私は、1日時間が出来た事でも色々と発見がありました。

 

「二足のわらじを履く」のもかっこいいと思う

 

WORK MILL:現在の働き方になったのはつい最近かもしれないですけど、実際に両立していくなかで、ご自身の考え方やスタンスに何か変化はありましたか?

 

 

穐山:「人にこう思われるかもしれないから…」みたいなことは気にしない、というのを意識するようになりましたね。やっぱりそれが今まで妨げになってくることがあったので。そこに引っ張られずに自分のやりたいことを実現していく考え方、心の持ち方は意識しています。

 

WORK MILL:「こうあらねばならない」みたいな。本当に無意識的に自分の行動を制約していることってありますよね。それはすごくあります。

 

穐山:それこそ「女性監督」として求められることはあるし、見えない戦いみたいなものはあるんですけど(笑)。あまりそういったことを気にせず、私はただ本当に作品が作りたいとか、会社での仕事と両立しながらやっていきたいとかなんで。

 

やりたいことって、ただシンプルなんですよね。そのシンプルなことを、どこまで信じられるか。そういう気持ちは元々あったんですけど、なかなかその一歩は踏み出せない。でも踏み出しちゃったら、やるしかないですから(笑)。

 

WORK MILL:確かに、始めちゃったらやるしかないですよね(笑)。そうして始めてみて、好きなことを諦めずに両立するための考え方というか、マインドセットみたいなのって何か見えてきたものはありますか?

 

 

穐山:それこそ「二足のわらじを履く」って、悪く捉えられがちじゃないですか。「どっちかに集中した方がいい」とか、「そっちを専門的にやった方がかっこいい」とか。私も何か一つを専門的に貫ける人を羨ましいなと思うこともありますけど、「二足のわらじを履く」のもかっこいいと思うんですよね。

 

あと私は、自分のことを冷静に分析すると、両立を目指すほうが向いているなと思うんです。いろんなことを広く見ている方がヒントになるものをキャッチしやすいし、結構いろんなものに興味を持つタイプなので。

 

WORK MILL:元々は音楽や写真もやっていたんですよね。

 

穐山:そうなんです。浅く広く=浅いって思われてしまうこともあると思うんですけど、そこに負けないというか、「私はそうなんです」と開き直るというか(笑)。今の仕事もやっていて自分のためになるし、映画も撮っていきたいし、両方やっていいじゃないかって思ってます。ただ、どちらもきちんと「本物」でありたい、という事は意識していますが。

 

そういった思いに共感してくれる人もいるので、その人たちへ届けばいいなと思うのもあって映画を作っているところもあります。映画も、すべての人に理解してもらうのはなかなか難しいし、みんなに面白いと思ってもらうのは無理だと思うので、ここは広く浅くするよりも届けたい人のために具体的に落とし込みたい。

 

WORK MILL:映画でそれを表現すると。

 

(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

 

穐山:そうです。今回の映画『月極オトコトモダチ』も、私の同僚や友人に観てもらって、何か感じてもらえる映画にしたいと思ったんですよね。自主制作映画ってもの自体、観るハードルが高いと思うんですよ。でも映画を作る側の世界にいると、それが分からなくなってくる。周りは観ているし、観ない人もいるって感覚で終わっちゃうんです。

 

でもそこで、「普段インディーズ映画を観ない人でも興味を持つのってどんな作品だろう」とか、何かきっかけにならないかと思って、今回はそこを意識して作っている。もちろん狭いところに届けるためにまずは広めないといけないところはあるんですけど、最終的には狭くて深いところに届けていきたいです。

 

周りから「励みになる」と言われ、それが自分の励みにもなる

 

WORK MILL:映画の制作でやってきたことが、今やっているPR業務にプラスに働くことって何かあるんですか?

 

 

穐山:そうですね。結構いろいろあって…普段スタイリストさんと貸出のときに話していると、映画監督をしているっていうのを面白がってくれることはやっぱり多くて。女優さんの衣装貸し出しもあるので、映画に出てくれた女優さんのスタイリングをしてたり、マネージャーさんが一緒だったり、不思議なつながりがありますね。その結果、ケイト・スペード ニューヨークに興味をもってもらうこともあって。

 

WORK MILL:思ってもみなかったところでつながるんですね。

 

穐山:映画とファッションの不思議な橋渡しというか。それも面白いなと思います。あと、作り手の気持ちって大きなブランドでも小さな自主映画でも一緒だと思いますし、「作品」に対する理解とリスペクトの気持ちは常に持っています。

 

WORK MILL:今回の映画『月極オトコトモダチ』の中でケイト・スペード ニューヨークの服って使っているんですか?

 

穐山:映画の中ではあんまり使っていないです。作品に関してはもうちょっと一般的というか、主人公を普通の29歳の女の子にしたので、華やかすぎずキャラクター像に合わせて服を着せていて。だから、必要なら使うけど必要なかったら使わない(笑)。でも、やっぱりファッションが好きなので、服に意味を持たせることはしたいんですよ。それで、そこに注目してくれる方とかもいて。

 

WORK MILL:こんなに着替えるの…みたいな(笑)。

 

 

穐山:そうなんです。(着替えの回数が)結構な回数だったんですよね(笑)。やっぱり主人公の女の子にはいろいろ着替えてほしいというか、ファッションがころころ変わっていく楽しさも映画に取り入れたかったので。スタッフからはすごく嫌がられましたけど(笑)。「これどうするの、車に乗せられないよ」「自主制作映画でこんなに替えないでしょ」「着回しとかしてくれよ」とか言われたんですけど、「いや全部違う服で!」ってゴリ押しして…。

 

WORK MILL:そう考えると、本当にいろんなことに興味があるのが全部ひっくるめてつながって仕事に活きているんですね。ちなみに、社内の方々の反応はどうですか?

 

穐山:結構、「励みになる」って言ってくれる人もいるんですよ。社内でそんな言葉が出てくることに結構びっくりして。みんなそれぞれ自分のやりたいことがあると思うんです。それを副業という形ではないかもしれないですし、趣味としてやっている人たちもいると思うんですけど、複数のやりたいことを諦めずに堂々とやっている人が近くにいるということが励みになるみたいで。そして、そう言ってもらえるのは私も励みになります(笑)。

 

2019年4月23日更新
取材月:2019年2月

テキスト:鈴木梢
写真:飯本貴子
イラスト:野中 聡紀
撮影協力:ケイト・スペード ジャパン

映画「月極オトコトモダチ」

6月8日(土)より、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、イオンシネマ板橋ほかにて全国順次公開
https://tsukigimefriend.com/

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