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現場発だから、現場の人の背中を押せる ― 働く当事者が主導する「Work in Life Labo.」の研究意義とは?

皆さんは、仕事をしていて疑問や気になることが見つかった時、どうしていますか?

 

日々の業務で忙しくしていると、「こんなところでは立ち止まっていられない」と、そうした違和感は流してしまうことも少なくないと思います。しかし、今よりもよい働き方を目指していこうと考えれば、小さいながらも身近で手触りのある問題について、ひとつずつじっくり向き合うことこそが、着実な職場の改善につながっていくのかもしれません。

 

よりよく楽しく働くため、生きるために、働く中で気になったことを研究しよう―そんなシンプルな思いから始まったのが、WORK MILLの共創プロジェクト「Work in Life Labo.(通称WILL)」です。彼らは「研究」というアプローチを通して、ワークとライフにどのような気づきをもたらそうとしているのでしょうか。WILL所長の薄良子さん、メンバーの皆さんにお話を聞きました。

 

・記事前編_どう生きるか、その中でどう働くか、みんなで研究する ― 「Work in Life Labo.」の実践

 

後編では「共創の場」としてメンバーの自主性を引き出すチームの在り方、学術とは異なる「働く現場発の研究」の意義などについて、話を掘り下げていきます。

 

自走する共創プロジェクト、動力は「シェアードリーダーシップ」

WORK MILL:WILLはWORK MILLの共創プロジェクトとして立ち上がっていますが、メンバーの皆さんのモチベーションの高さやコミットメントについて伺っていると、文字通り“共創”の場として機能しているように感じます。

 

薄:私も構想の時から「WILLはみんなで一緒につくり上げるプロジェクトにしよう」と強く意識してきたので、いま実際にそういった場になっているなと感じられることは、とてもうれしいです。

 

ー薄良子(うすき・りょうこ) WORK MILL・Work in Life Labo.所長
広告コンサルティング営業、研修プログラム企画・開発のプロジェクトマネジメントなどの職歴を経て、2015年にオカムラに入社。社内働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン推進、社外との共創活動を中心に、組織開発のプロジェクトに従事する。筑波大学大学院経営学修士(MBA)。CDAキャリアカウンセラー。

 

WORK MILL:共創の場づくりを目指す上で、何かポイントになったことはありますか。

 

薄:こればっかりは、私が上手くやったという話ではなくて、本当にメンバーの皆さんに助けていただいたというか…。実は私、WILLを立ち上げてからほどなくして産休に入ってしまって、初年度の活動は不在にしていることが多かったんです。

 

塚本:研究テーマが決まってきて「さあ、これから本格的に調査だ!」というタイミングだったので、初めて聞いた時はビックリしましたよ(笑)

 

ー塚本恭之(つかもと・やすゆき) ナレッジワーカーズインスティテュート株式会社 代表取締役
一般社団法人企業間フューチャーセンター代表理事
Work in Life Labo.メンバー

 

藤澤:それが、かえってメンバーの自主性を高めた側面もあるかもしれませんね。「私たちは誰かに命令されているわけではなく、自分の意志でここに来ているんだ」という意識が、リーダーの不在をきっかけにさらに強まりました。

 

ー藤澤理恵(ふじさわ・りえ)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所研究員
Work in Life Labo.メンバー

 

藤澤:WILLは「新しい、よりよい働き方」を模索する場ですよね。そういう意味でいうと、「リーダーに頼りすぎない、プロジェクト型のチームで成果を出していく」ということ自体が、これからの働き方を考えていく上でのひとつの実験だったなと感じています。

 

塚本:まさに「シェアードリーダーシップ」の実践ですね。誰かがトップダウンで指示を出して全体を動かすのではなく、メンバーそれぞれが自分なりに発揮できるリーダーシップを持ち寄って、みんなでチームを動かしていく。ダイバーシティを生かす組織運営において、大切にしたい考え方ですね。

 

 

薄:塚本さんはワークショップのデザインがご専門で、チームビルディングについての知見もたくさん持っていて。チームづくりやテーマを掘り下げていく際はいつも助けていただいています。藤澤さんは企業文脈での研究のトレンドや調査手法に詳しくて、MTGの際はいつも的確なアドバイスをしてくださいます。また行動力と実践力でチームをぐいぐい引っ張ってくれています。

 

藤澤:でも、WILLのメンバーがモチベーション高く動けているのは、薄さんがWILLの目的や目指す方向性を、しっかりと共有してくれているからだと思いますよ。WILLのビジョンには解釈の余地があって、活動の自由度も高い分、メンバーは「これができる、これがやりたい」という自分との接点を見出せないと、本業もある中でなかなかコミットできないはずです。

 

塚本:メンバーの声かけや活動の初期の段階で、薄さんが組織のビジョンと個人のビジョンのすり合わせをやってきたことは、今のWILLのチームとしての強さにつながっていそうですね。

 

薄:そう言ってもらえるとうれしいです…!有志的な活動だからこそ、誰も置いていかずに、みんなが「ここに来てよかった」と思えるような場にしたかったんです。そのためにできることは、できる限り全部やろうと思っていました。

 

藤澤:目的ありきで活動を固定してしまうのではなく、丁寧にヒアリングをしながら、今いるメンバーに合わせて活動の方向性を調整していけることが大切ですね。一人ひとりのメンバーが活動を「自分事だ」と捉えられている状態をキープできると、共創の場として自然と盛り上がるのかなと思います。

 

現場発の研究、だからこそすくい取れるもの

WORK MILL:WILLは「深く知る」という“研究”にフォーカスした活動を行なっているのが、ひとつの大きな特徴ですね。研究アドバイザーである正木先生から見て、一般的な学術研究とWILLでの研究を比較した時に、何か違いや発見などはありましたか。

 

正木:まず前提として、研究とはごく簡単に表現すると「何か問題を見つけて、それに関するデータを集め、論理的に考察して、一定の結論を導き出す」という行為です。こうした基本的なプロセスやアウトプットの方法については、WILLの研究の妥当性を担保するために、学術における研究と同じになるようアドバイスをしてきました。

 

ー正木郁太郎(まさき・いくたろう) 東京大学 大学総合教育研究センター 特任研究員
Work in Life Labo.研究アドバイザー

 

正木:ただ、そんな中でも見えてきた違いはあって。学術研究は、問題提起のスタート地点が「いまの学会の中で、研究が足りていない領域はどこか」という要素であることが多いんですね。「現在出ている論文ではこの部分の検証が不十分だから、こういう調査をしてみたらどうか」と、既存の研究をベースにして、そこに研究者みんなで積み重ねていくイメージなんです。

 

一方WILLの研究は、ベースが論文、つまり他人の主張ではなく、「メンバーが日々どういう問題を感じているか」という、現場の課題意識や関心からスタートします。研究者とは視点がまったく違うので、その点はとても面白く、同時に実用性の高い研究になっているように感じています。

 

 

薄:世の中に発表されている学術の研究は、とても勉強になるものの、現場の人間からするとどうしても「取り入れるには少し難しいな…」と感じてしまう内容のものが多い気がしています。その点、WILLの研究はいままさに働いている人たちの手で組み立てられているので、現場の人のリアルな不安や細かい懸念にもアプローチできているのかもしれません。

 

藤澤:たとえば事例調査のインタビューをしに行くときに、私たちは現場の人間の感覚で「こういう施策をゼロから導入しようとしたら、ここは絶対に心配になるな」などと想定をして、そういう部分は念入りに話を聞こうと思って臨みます。けれども、実際に聞いてみると、懸念していた部分はまったくケアされていなくて、問題もほとんど起こっていないことがわかったりするんです。

 

塚本:そう、予想が外れて、むしろ全然違うところが問題になっていることが判明したりして、メンバーみんなで慌てるんですけど(笑)。ただ、「問題になりそうだと思いがちなことが、実はそこまで気にしなくてもよかった」とわかることも、とても価値のあることなんですよね。

 

 

藤澤:私もそう思います。真新しい施策の話って、一般的には「これをやるとこんなインパクトがありますよ」といった事後の効果にフォーカスされがちで、「これをやる上でここは気にしなくていい」という事前の導入障壁については、あまり着目されていないことが多くて。

 

薄:ポジティブな情報を参考に「うちの会社もやってみよう」となっても、「具体的に何からやればいいのか、これはやらなくていいんだろうか…」と出だしでつまずいて、導入に至らないケースは少なくないと思います。現実的な懸念をすくい取って発信し、現場の人間の背中を押してあげられるようなアプローチができることが、WILLらしい研究の在り方であり、強みなのかもしれませんね。

 

 

正木:どんな研究でも、自分の思った通りの成果が得られることは、ごくまれです。けれども、予想と違ったら違ったで、そこにも新たな発見がある。WILLのメンバーの皆さんは、そうした研究過程で生まれるフィードバックをひとつずつ大事にされていますね。「ここで得た知見を、どうやって職場に生かしていこうか」と常に意識している姿勢には、いつも刺激をもらっています。

 

企業横断型のチームが生み出す多様なつながり 

WORK MILL:藤澤さんと塚本さんは、立ち上げ当初からWILLに参加されてきました。2年間ほど活動されてきた中で、「WILLがあってよかった」と感じることはありますか。

 

 

塚本:利害関係を越えた人のつながりが生まれていること、かな。調査の中でさまざまな大学の先生、企業の方々に話を聞きにいくのですが、皆さん快く対応してくださるのが印象的で。一個人や一企業の人間がいきなり「話を聞かせてください!」って押しかけても、おそらくはなかなか相手にしてくれないと思うんですよね。WILLのように企業横断型のチームに所属しているからこそ話ができたり、そこからいい協力関係が築けたりするケースは多々あります。

 

藤澤:WILLの活動の趣旨を説明すると「そういう問題意識、大事ですね」と言ってくれる方が、本当に多くて。世の中、思っているより温かいなと実感しています(笑)

 

塚本:「研究」という口実があることが、効果的に働いている気もします。アポイントメントの時間って、営業であれば30分、よくて1時間じゃないですか。でも、研究という切り口で会いに行くと、2時間くらい語り合えたりすることもあって。話す内容も濃密で、得られるものがとても大きいです。

 

正木:「研究」という枠組みを持つことで、普段から無意識下で捉えていた課題意識が言語化されてくるから、結果として話が盛り上がるのかもしれませんね。

 

 

藤澤:1年目の調査でインタビューをさせてもらった方が、2年目にはメンバーとして活動に参加してくれる…なんてこともありました。活動の幅、仲間の輪が広がってきていて、「こういう地道な活動から、社会って少しずつ変わっていくのかもしれないな」と実感しています。

 

社会の変化は、1人の変化から

WORK MILL:共創プロジェクトとしてメンバーの皆さんで形づくってきたWILLの活動ですが、今後の方針はどのように見すえられていますか。

 

 

薄:1年目は「ワーク」、2年目は「ライフ」を研究の大テーマに設定しました。3年目となる今年度は「ワークインライフ」を大テーマとして、これまでの研究成果を生かしながら、より包括的な視点で研究を進めていこうと計画しています。それと並行して、私たちが研究を通して得た知見やエビデンスを皆さんに知ってもらうため、研究の過程や成果についての発信を強化していきたいと考えています。

 

また、これは中長期的なビジョンですが、研究成果に基づいた具体的なサービスなども、メンバーの皆さんと一緒に開発できたらいいなと模索中です。それがサーベイなのか、コンサルメニューのようなものになるのか、現時点ではまだまだ見当はついていません。ただ、形あるサービスにまで落とし込めれば、研究で得られた成果をより効率よく皆さんに還元できると思うので、そこまで目指していきたいですね。

 

藤澤:メンバーからもWILLとしてやりたいことのアイデアはたくさん出てきているので、今後の活動がますます楽しみです。

 

薄:WILLの働きかけが誰かの考え方を変えて、その誰かが組織がよくなるきっかけをつくって…そうした連鎖がつながっていけば、私たちの活動はきっと、日本社会の全体をよくすることにつながっていくと信じています。そのためにできることを、メンバーの皆さんと一緒に、着実に積み重ねていきたいなと思います。

 

WORK MILL:3年目の活動もこれから本格的になってくるかと思いますが、どんな人にWILLの活動に参加してもらいたいですか。

 

 

藤澤:「上司との関係性に悩んでいる」「もっといい仕事の進め方があるような気がする」など、現状に課題を感じている人には、ぜひ来てほしいです。具体的な課題感を持って研究していると、それに対して必ず何らかの気づきが得られるので、WILLの活動は実りの多いものになるはずです。

 

塚本:とくに「課題は感じているけど、何をすればいいかわからない」という人には勧めたいですね。WILLで一緒に、何からすればいいのか、考えていきましょう。

 

正木:まだ動き出せていない方もそうですが、「少し動いてみたけどうまくいかなくて立ち止まっている」といった方にも、参加してもらいたいですね。

 

薄:そうですね。ここは「なんとかしたい」という切実な思いを、みんなで一緒に「なんとかできる」という勇気に変えていける場所だと思っています。皆さんの悩みや知見を、ぜひWILLに来て、共有してもらえたらうれしいです。

 

 

2019年4月9日更新
取材月:2019年2月

テキスト:西山武志
写真:藤原 慶

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