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地方の大企業が挑戦する変革プロジェクト ― ワークプレイスは人のマインドを変える

2018年11月17日から7日間に渡って開催された「TOKYO WORK DESIGN WEEK 2018」。新しい働き方や未来志向の会社のモデルケースを共有し、新たな仕事観を考える参加型イベントとして開催され、2018年で6年目を迎えました。

 

11月21日、そのサテライトイベントとしてLoftwork COOOP10にて行われたのが、「ちょっと変わった、地方都市の大企業が挑戦するワークスタイルとワークプレイスのイイ関係づくり」。静岡県を拠点に物流や食品、航空などさまざまな事業を手がける鈴与株式会社とクリエイティブ・エージェンシーのロフトワークが新たにはじめたプロジェクトを手がかりに、地方におけるワークプレイスを軸とした価値創造の可能性を探りました。

 

今回は、鈴与株式会社代表取締役社長の鈴木健一郎さん、株式会社ロフトワークのLayout Unit. CLO(Chief Layout Officer)松井創さんとWORK MILL編集長山田雄介の3人が登壇したイベントの模様を振り返りながら、これからのワークスタイル・ワークプレイスのあり方を考えます。
 

 

 人・モノ・金を引きよせる「磁力」のある場所を

これからの時代に即したワークスタイルやワークプレイスとして、シェアオフィスやコワーキング、ABW(Activity Based Working)、リモートワークといった試みをさまざまな企業が取り入れつつあるなか、その事例の多くが東京をはじめ国内外の主要都市など、大都市に偏ってしまいがちなのも確かです。

 

「地方と都市の格差が広がるなか、地元・清水に育ててもらった会社の経営者として、人・モノ・金を引きよせるような磁力を帯びた……“マグネティックな場所”を清水につくることが、ミッションのひとつではないかと考えたのです」と話すのは、鈴与株式会社の代表取締役社長を務める鈴木健一郎さん(以下、鈴木さん)です。

  

  
鈴与株式会社は、1801(享和元)年に清水湊で創業した廻船問屋に端を発する総合物流事業会社で、物流をコア事業とするほか、商流、建設、食品、情報、航空、地域開発の7事業を約140社のグループで展開しています。サッカー・Jリーグの清水エスパルスや静岡空港を拠点とするフジドリームエアラインズもグループ会社で、日本初のツナ缶やチューブ入りマヨネーズを製品化したり、セルフ式のガソリンスタンドを手がけたりと、時代の先を見据えた積極的な事業多角化を行なってきました。そしてその根底にあるのが、企業理念である「共生(ともいき)」。地方創生を念頭に置き、社会や顧客、社員とともに生きるあり方をさまざまな事業として実現してきたのです。

 

鈴木さんは創業家の9代目として清水で生まれ育ち、2000年に早稲田大学を卒業後、日本郵船に勤務。2015年から鈴与の代表取締役社長に就任しました。高校卒業後に地元を離れ、東京で暮らした経験から、地方にも都市部に匹敵するくらいの物質的な豊かさが必要と感じたといいます。「私自身もそうでしたが、地元で生まれ育った若者が一度故郷を離れると、なかなか戻ってこない。もちろん、地方創生を考えるうえで、その地域らしさや観光資源は大切だけど、丸の内や六本木にあるような場所も清水にあっていいじゃないか、と。そしてそういった場所でいろんな人と関わり合いながら、面白いプロジェクトをたくさんやることで磁力が生まれ、いろんな人を清水に引き寄せられるのではと考えたのです」

 

 そしてそのパートナーとして白羽の矢が立ったのが、数多くの空間・コミュニティ設計を手がけるロフトワークだったのです。ロフトワークでLayout Unit. CLOを務める松井創さん(以下、松井さん)は、鈴与の事業規模とその多様性に驚きながらも、その根幹には自社と通じる部分があると感じたといいます。「僕らが志向しているのは、“クリエイティブの流通”なんです。人が交流し、モノが動いていくなかでビジネスが生まれるダイナミズムはとても面白い。クリエイティビティはアーティストに限らず、誰しもが発揮できるもの。みんながクリエイティブな働き方をすることで新しい価値観が生まれ、課題解決できるのではないかと思うんです」

 

日本IBMをパートナーに、デザイン・ファームTakramの田川欣哉代表などをメンターに迎えたアイデアソン「SHIMIZU S-PULSE INNOVATION Lab.」を開始するなど、さまざまなプロジェクトに取り組むなか、鈴与の一大プロジェクトとしてはじまったのが、本社社屋のリノベーションと別館新築、および戦略的な採用施策改革でした。

 

鈴木さんも「物流事業にはクリエイティビティが必要」という課題感を持っていました。「これまでは物流をインフラとして維持するのが社会的なミッションだったけれど、昨今はコスト上昇や人手不足の影響で、既存の枠組みの延長線上では成り立たなくなってきた。社員一人ひとりがクリエイティビティを発揮し、仕組みそのものを変えていかなくてはならないんです」

 

本社は社員にとっての「ホームグラウンド」

ロフトワークとの共創がはじまったのは、2018年7月頃。既に本社社屋のリノベーションと別館新築増床のプランが大枠で決まり、着工に進もうとしていたところでした。当初、内装設計のみ担当する予定だったロフトワークでしたが、既存のプランを一部見直し、本社と別館の連携を含めた包括的なプランを考えることになりました。「変革を促すうえで、空間を変えるのか、働き方を変えるのか、どちらが先かという議論はあるけど、僕らとしては空間を変えることで働き方やマインドを変えようとしている。それと並行して採用施策も別のプロジェクトチームを立てて、ソフトとハード両面からアプローチするチャレンジを行なっているのです」(松井さん)

 

鈴木さんの思いをくみ取ったうえで、アンケートなどで社員たちの普段の働き方や既存のオフィス環境をリサーチし、これからどんな働き方を実現させ、どんな空間が必要なのか……。空間をデザインするうえで指針となったのは、「HOME GROUND」というキーワードでした。「共生(ともいき)という言葉にも意志を感じましたし、何回も清水に通っていると、目の前には海が広がり、すぐそこには勇壮な富士山が見える。やはり、ここが『本拠地』なんだ、と。サッカーでも、アウェーよりホームのほうが力を発揮できるじゃないですか。社員にとって、ここへ来るたびにあらためて考えられるような場所にしたいと思ったんです」(松井さん)
 

 
社員にとって拠り所となる「HOME GROUND」を、実際にどのような空間デザインに落とし込むのか。その具体的なコンセプトとして松井さんが提案したのは、次の6つのキーワードから成るプランです。

  1. 豊かな表情
  2. 集中と発散
  3. 安心感
  4. 時代との共生
  5. 可変性 可動性
  6. 寛容さ

本社5階をメインスペースとして設定。あるときは300名規模のイベントホール、あるときは小規模セミナー、あるときは食品の新製品発表会など、用途に応じて自由に場所を使えるマルチファンクション(多機能)型に。家具や植栽などに車輪をつけ、レイアウト変更も自由にできるようにするなど、可変性・可動性の高い空間にしました。自らの仕事を固定化するのではなく、時代に応じて柔軟に変化し、自ら変化を起こそうとするマインドの醸成も狙いのひとつです。

 

また、デザイン思考における集中と発散のプロセスやマインドフルネスの考え方に則り、集中できるエリアや活発にコミュニケーションできるエリアを設定。人の行動原理に基づいて最大限に生産性を高められる設計を行いました。そして、オフィスでは見過ごされがちな、安心感や寛容さを醸成するため、自然光や緑のある空間、横になれるスペースやパウダールーム、二酸化炭素濃度のモニタリングなど、さまざまな仕掛けが施されています。

 

 

「さまざまな海外事例を見ていますが、個人的にワークプレイスで今もっとも注目しているのが、いかに『安心感』をつくるか。企業はどうしても生産性を求めて、集中できるような空間だけにフォーカスしてしまうけど、それは総合的にサスティナブルではないと思います。狭いところが落ち着く人もいれば、開放感のある空間のほうがリラックスできる人もいる。それぞれに合わせた空間設計をして、心理的安全性を高めることで、結果的に生産性やクリエイティビティが上がるのが理想的ですよね」と解説するのは、WORK MILL編集長の山田雄介(以下、山田)。

 

「トライアンドエラーも何かにチャレンジしようとするマインドも、可変性が高い空間によって引き出される面があります。また、高低差を利用し、バーティカルに空間の変化をつけているのも、注目すべきところ。高さが変わると人の目線が変わるので、思考の視点・視座や人の関係性も変わって、アイデアにも変化が生まれるんです。それに、自らの手で居心地のいい空間をつくり出すことは、『ホーム』をつくることにもつながります」(山田)

 

鈴木さんも、新社屋のプランにはコア事業たる「物流」の考え方がそこかしこに感じられると語ります。「倉庫もこんなふうに天井が高いんですよ。顧客によってマルチユースで空間を変化させて、いかに稼働率高く活用するかが事業成功のカギになってくる。まだまだ物流には無駄も多く、テクノロジーによって解決できる課題がたくさんあります。社員たちもまさにこの過渡期のなか、海外や社外などさまざまな部署と連携し、プロジェクト型でどんどんチームも変わっていく。オフィスがその障壁になってしまわないように、時を経るにつれて変わっていってほしい。リモートワークも少しずつ増えていくかもしれないけど、自ら進んで来たくなるような、外部の人にも語って、連れてきたくなるようなオフィスにしていきたいですよね」(鈴木さん)

 
これからはじまるワークスタイル変革への第一歩

本社5階のメインスペースから段階的に進んでいくリノベーションプロジェクトですが、あくまでこれは暫定的なプランだと鈴木さんは打ち明けます。「別館をプレハブにしているのも実はそういう意図で、何年先かはわからないけど、本社建て替えも視野に入れている。やはり重要なのはコアとなる本社。ここでしっかりと軸となるワークスタイル・ワークプレイスを形成して、国内外の各拠点に展開していきたい。これからがスタートなんです」

 

松井さんはプランに込めた意図をこう語ります。「『この場所ではこういう働き方をしてほしい』という設計意図はあるけど、仮にそれが人によって異なっても構わない。社員一人ひとりが働きやすい環境を勝ちとって、空間が発するメッセージと社員の意志、その両軸があればいいと思います」

 

東京などの大都市ではなく、清水という地方都市で新たなワークプレイスを作ろうとしている鈴与の取り組みについて山田は、以前当マガジンでも取材した福井市の日華化学と重なるところもあるといいます。「日華化学は国内外に拠点のあるグローバル企業ですが、創業地で本社のある福井にイノベーションセンターをつくり、他の場所から多くの人に『わざわざ来てもらう』ことで、世界と戦える新しい製品を生み出そうとしています。その土地固有のものと外部のものが合わさることで、他にない革新性が生まれるかもしれませんね」

 

実は、今回公開されたプランはイベントのわずか1週間前にできたばかりのもの。まさにこれからワークスタイル・ワークプレイスが変わるプロセスの真っ只なかという鈴与のプロジェクトに、これからも目が離せません。

 

ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

 
イベントの後半では、会場となったロフトワークのオフィスの各フロアに参加者たちが分かれ、「今の仕事/職種のまま、このオフィスに4時間いるとしたら何をするか?」を議題に、空間に対する気づきや仕事をするために必要なことなど、意見交換するワークショップが行われました。各フロアによって異なる機能性や特徴が見えてきただけでなく、一人ひとりが「今の業務のなかで、場所にとらわれずにできることはなんだろう」と、自らの働き方を見直す機会になったようです。

 

ある参加者は、鈴与やロフトワークのようなワークプレイスに憧れているといい、「今や人が会社を選ぶ時代になってきている。選ばれる会社になるためには、社員が働きやすい環境づくりに取り組むことが必要なのでは」と指摘。また、既にフリーアドレスを導入している会社に勤める人は、「業務に集中できるのはメリットだが、出社してすぐに居場所を見つけられないこともある。『安心感』というキーワードはとても気になったし、チャットやランチミーティングなど、オン/オフラインでのソーシャライズは促進していくべきだと思う」と話していました。

 

まさに、今回のイベントでも語られたように、企業は意図を持って働きやすい環境を整備し、社員はそれを「勝ちとる」もの。企業と社員が互いに心地よいワークスタイル・ワークプレイスを模索し、時代に合わせてしなやかに変わりつづけていくことが、理想的なあり方といえるのかもしれません。

   
  

2019年1月8日更新
取材月:2018年11月

テキスト写真:大矢 幸世
写真:加藤 甫

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