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働く現場に「ゆらぎ」と「軸」を求めて―現代のオフィス「Think Lab」井上一鷹さん

WORK MILL編集長の遅野井が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。今回は、2017年12月にオープンした会員制ワークスペース「Think Lab(シンク・ラボ)」の開発者である井上一鷹さんをお迎えしました。

 

日本が国を挙げて「働き方改革」へと動き出し数年が経った今、労働環境や会社組織は大きな変革期を迎えています。これから企業がよりよい未来を切り拓き、生き残るためには、どのような場づくり、チームづくりが必要になってくるのでしょうか。組織内のイノベーションの要として、それぞれの会社での新規事業開発チームのマネジメントに尽力する両者が、日々の悩みや課題意識を共有しつつ、赤裸々に語り合います。

 

前編は、Think Labのコンセプトの背景にある「現代の日本企業が抱える職場の課題」の話題から始まり、「プレイングマネージャー」である中間管理職のマネジメントの在り方と葛藤について、話が盛り上がりました。

 

Think Labが利用者にもたらすのは「ゆとり、ゆらぎ、ゆるし」

遅野井:井上さん、今日は宜しくお願いします。「Think Lab」ですが、評判はいかがでしょうか?

 

ー遅野井宏(おそのい・ひろし)WORK MILL編集長
ペルー共和国育ち、学習院大学法学部卒業。キヤノンに入社し、レーザープリンターの事業企画を経て事業部IT部門で社内変革を担当。日本マイクロソフトにてワークスタイル変革専任のコンサルタントとして活動後、岡村製作所へ。これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、さまざまな情報発信を行う。WORK MILLプロジェクトリーダー、ウェブマガジン・ペーパーマガジン 編集長。

 

井上:おかげさまで上々です。実際の入居者数は堅調に伸びており、取材や見学に来る方はひっきりなしという感じで。そのうち6割くらいが「これから自社オフィスをどう変えていくか」という課題意識を持っている総務やFM(ファシリティマネジメント)の人です。

ー井上一鷹(いのうえ・かずたか)株式会社ジンズ・JINS MEME事業部 事業統括リーダー
慶應義塾大学理工学部卒業後、戦略コンサルティングファームであるアーサー・D・リトルに入社。大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事。2012年に株式会社ジンズに入社。社長室、商品企画グループマネジャー、R&D室マネジャーを経て現職。近著に『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』( 日本能率協会マネジメントセンター)。

 

遅野井:職場づくりの参考として見に来られている方が多いんですね。

 

井上:その場で「うちにThink Labを作ってくれ!」と言ってくださる人も結構います。どのくらい本気で聞けばいいのか測りかねているんですけど(笑)。Think Labは「働きやすい環境づくり」というテーマの中では、決して切り口が斬新なわけではありません。けれども、ここまで「集中」に特化してやりきったことで、高い関心を持っていただけてるのかなと思います。

 

遅野井:Think Labをつくる上で、井上さんが大事にされたことは何ですか?

 

井上:まず、この施設のコンセプトである「LIVE YOUR LIFE 〜自分の人生に集中しよう〜」を具現化するために、利用者へ提供するものをひらがなでまとめようと考えました。

 

遅野井:ひらがなで?

 

井上:誰にでも伝わりやすいことが重要だと思ったので。最終的に3つにまとめたのが「ゆとり、ゆらぎ、ゆるし」です。この3つの「ゆ」が、現代のオフィスに足りていない要素だと定義しました。

 

遅野井:それぞれ、どういった意味を込めているのでしょうか?

 

井上:「ゆとり」は、時間的な余裕ですね。60年前からドラッカーも言っていますが、自分の時間を確保できていないと、新しいことは生み出せない。
「ゆらぎ」は、場の中の流動性です。いつも同じ席で、同じ人とのコミュニケーションしか生まれない環境もまた、新しいアイディアが生まれにくい要因となります。
そして「ゆるし」――これは、社員への信頼とも言える要素です。「会社がわざわざ自分のためにお金を払って、Think Labに行ってよいと言ってくれる」という事実が、「自分は会社から有益だと思われていて、信用されている」という安心感を生む。

 

遅野井:なるほど。

 

井上:Think Labに来れば、この3つの「ゆ」を得られる。そして、いつもとは違う扉が開ける……そんな環境にできればと思っています。

 

遅野井:3つの「ゆ」、とても的を射てますね。

 

現代社会は「コラボ過多」で集中できない?

井上:特に個人的にも課題だと感じているのは、「ゆとり」のなさです。Googleカレンダーみたいなスケジューラーはすごく便利ですけど、実は「他人が自分の予定を確保すること」に最適化したツールなんですよ。

 

遅野井:その気持ち、よくわかります。プロジェクトを任されるような立場になると、自分だけのための時間はどんどん減っていきますね。

 

井上:最近の社会インフラは、個人の時間が受け身に削られる方向に発達しすぎている気がします。Slackなんかも顕著な例ですよ。あれを眺めてると「ああ、僕に自由な時間はないんだな……」と感傷的になってしまうくらい、いろんなものが投げ込まれてくる。本当に1人で自由だと思えるのは、トイレの個室に入った時くらいだったり(笑)

 

遅野井:もしかしたら今の世の中は“too much collaborative”な状態かもしれません。

 

井上:まさにそうだと思います。昨今、大企業では「社員同士でもっとコミュニケーションを取ろう」という動きが活発ですが、その方法がコワーキングスペースの提供だけに留まっていることが多いです。目的意識が共有されていないから、結局その場で新しいコミュニケーションが起きないし、いたずらに情報が溢れていくだけだったりする。

 

遅野井:どんなタイミングで「1人で集中する時間・場所」が必要で、どんな時に「コミュニケーションする時間・場所」が必要なのか、個々人が理解して使い分けないといけない。場所だけ用意しても効果は上がりにくいと。

 

井上:「集中とコミュニケーション」は、言うなれば「水と油」の関係です。一方で、Think Labでは「逆張りのコミュニケーション」が活発にならないかなとも思っていて。ここにはワークスペースの奥にカフェスペースがあるのですが、「あっち(ワークスペース)にいる時は極力喋っちゃだめ」というルールがあるからこそ、こっち(カフェスペース)では話しかけやすいという意識が生まれるんですよね。

 

遅野井:コミュニケーションを誘発したければ、集中を保持する場づくりも同時に検討するべき、ということでしょうか。

 

Think Labエントランス。集中のスイッチを入れることを目的とし、「鳥居」と称される。

エントランスを抜けると薄暗く足音が響く「参道」。アロマの香りが漂う。

軽度の緊張感を感じる参道から一気に視界が開ける「手水」エリア。

「拝礼」エリアには3種のデスクとチェアが並ぶ。窓際にはオカムラ製品の発散思考(アイデア創出)に特化した製品を設置。

一番奥にはCo-Workエリアがあり、集中(Deep Think)と発散を繰り返すことで「イノベーションを誘発」させることを目的としている。

Think Labのある29Fからの眺望。大きな窓から都内が一望できる。

井上:そうですね。ただ、その場における意識の濃淡は「1か0」という設定ではなくて、「ゆらぎ」を持たせたい。ここがなかなか難しいところではあるんですけど。
日本人はその濃淡というか、ワークタイムの「オンとオフ」を作ろうとすると、大抵飲みに行くんですよ。それ自体は悪くないのですが、飲みは「オンとオフ」がはっきりしすぎている。これから働き方が多様化していく中で、「仕事と仕事以外」の境目は曖昧になってきますから、働く環境に「1か0」ではない「ゆらぎ」を持たせる重要性は、高まってくると思います。

 

遅野井:確かに、Think Labでは本業から離れたインプットやコミュニケーションを取りつつも、皆さん完全に本業から離れているわけではないですよね。ふとした「ゆらぎ」で、意識が本業の方に戻って、新しいアイディアが生まれることもありそうです。
そして、ここに来ることが「ゆるし」になるというのが、僕も大きなポイントだと感じます。

 

井上:人が集中するためには「周りから信頼されている」という、心理的安全性が担保されなければなりません。いくら環境が整っている場所に来ても、社内で「アイツは本業をほったらかして何をしているんだ!」なんて言われていたら、自分のことに集中なんかできませんから(笑)。「Think Lab」に行くことを、社内のチームメンバーが許しているという状態ができると、働く環境として素敵ですね。

 

遅野井:それは極めて性善説であり、僕も大事にしたいと思っている意識です。いまの日本企業の仕組みは、性悪説に寄りすぎているんじゃないかと感じていて。エラーを起こす前提で制度設計がされているあまり、非常に窮屈になってしまっていると。
「ゆるし」があり、お互いの能力や可能性を信頼し合える環境の方が、結果的に業務も安定し、各メンバーが本来のパフォーマンスを発揮できる気がします。

 

イノベーティブなチームには「枠」より「軸」のマネジメント

 

遅野井:先ほど井上さんも「自分の時間が取れない」と仰っていましたが、僕らくらいの年代やポジション――中間管理職の人たちが、社内で最も「集中」を十分に確保しにくいのかもしれませんね。プレイヤーでもあり、マネージャーとしての手腕も期待されている。そのバランスを保つのは、なかなか骨が折れます。

 

井上:ホント、そこは悩みますよね。組織マネジメントについては定期的にインプットをしているんですけど、『0秒リーダーシップ』などの著者であるピョートル・フェリークス・グジバチさんが「今後のマネジメントは、枠ではなく軸だ」と言っていて。これはいい言葉だなと、最近のチームづくりで意識するようにしています。

 

遅野井:枠ではなく、軸と。もう少し詳しく聞かせてください。

 

井上:プレイングマネージャーの立場で、自分のチームメンバーに対して「枠(≒ルール)を作ったから、この中で皆やってね」と振ると、ほぼほぼマネジメントしきれないんですよ。枠内か枠外かの判断を都度しなきゃいけないし、その一方で自分もプレイヤーでいようとすると、どこかで矛盾が生まれてくるし……正直に言ってしんどすぎる(笑)

 

遅野井:もうね、共感しかないです(笑)

 

井上:軸のマネジメントというのは「俺はこれが好きで、こういう思考でやってくから、軸(≒背中)だけ見ておいて! まあ、良いトコと悪いトコがあるから、各自の判断で良いトコだけ踏襲して頑張って!!」みたいなイメージです。こういう風に表現すると雑に思われるかもしれませんが、実践してみるとマネジメントの形として最適な気がしています。

 

遅野井:これもまた、性善説的な考え方ですね。マネジメントとプレイを分けるのではなく、ついてきてくれることを信じて、プレイでチームを引っ張っていくと。

 

井上:その意味で言うと、プレイングマネージャーとしての勝負所は「自分の軸をどれだけ背中で語れるか」だと思っています。自分もまだ、十分にできていないですけど。

 

遅野井:背中で語るのも大事ですし、実際にメンバーとコミュニケーションを取って、軸について自分から語ることも必要になりそうです。

 

井上:中間管理職は周りから受け取るコミュニケーションが多いから、意識しないと自分からの発信がどんどん減っていくんですよね。だから、メンバーからの「こう思うんですけど」を受け取る前に、「俺はこう思ってるんだけど」という軸を先に見せておく。そうすれば、そこに対して建設的な意見なり行動が集まってくるはず……と最近は考えていますが、少しエゴが強いかもしれません。難しいですね、マネジメントのさじ加減は。

 

遅野井:仰っていることはよくわかります。とりわけ、新規事業をつくるチームともなれば、メンバーもそれぞれに「will」を持っていて。それを束ねられるのは、上意下達的なルールではなく、ビジョンやミッションに繋がる「軸」なんだろうなと感じます。

 

井上:「皆それぞれ別々のwillがあるけど、チームで動く時にこれだけは共通だよね」というものが、軸になるんでしょうね。マネージャーとしては、それを上手く言語化しなければいけない。

 

遅野井:一方で、会社組織には「決められたことを効率よくこなす」という機能が必要ですから、従来的な上意下達のマネジメントの「枠」を保持し、効率的に洗練させていく必要性もあって。これから働き方が多様化していく中では、ケースごとの「枠」か「軸」かのマネジメントの使い分けやバランス調整が、より求められるようになりそうです。
JINSは会社全体として、やはりイノベーティブな「軸」のマネジメントが強いんでしょうか?

 

井上:おかげさまで、最近ではイノベーティブな会社と捉えていただけることの多い弊社ですが……実は、「オペレーションエクセレンス」の会社なんですよ。創業からずっと製造小売業に携わってきた背景もあり、どうしても「業務をいかに定型・効率化していくか」という視点を、企業として強く持つ必要があります。
しかし、定型・効率化を突き詰めたからこそ、今は「非定型のものをどう作っていくか」というイノベーティブな課題に、意識的に目を向けられているのだと思います。

 

遅野井:ここにも「ゆらぎ」があるわけですね。定型と非定型、枠と軸との間でのゆらぎが。
どちらか一方に傾倒するのではなく、相反する二択の間でゆらぎながら最適解を見つけるのが、変化の激しい現代に適したチームビルディングであり、マネジメントの舵の取り方なのかもしれません。

 

***
前編はここまで。後編は「集中すること」の価値の本質や、自分の軸を育てるためのセルフマネジメントについて、さらに示唆に富んだ会話が繰り広げられます。

 

・記事後編_自由に負けないため、私たちに必要なのは「集中」

 

2018年4月3日更新
取材月:2018年2月

テキスト:西山 武志
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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