• HOME
  • 編集部がミル ― コワーキングスペース探訪 ヨーロッパ編

編集部がミル ― コワーキングスペース探訪 ヨーロッパ編

9月27日に発売した『WORK MILL with Forbes JAPAN』創刊号の特集「コワーキングと働き方の未来」にて選出した世界のコワーキングスペースをダイジェストで紹介するコラム。前回のニューヨーク編に続き、第2回目は、フランス・オランダ・イギリスと渡ったヨーロッパ編です。

 

フランス・パリ

フランス革命時に掲げられた、フランスの国民的標語である「自由・平等・友愛」。コミュニティの同胞に対して自らの持っている物や知識を惜しみなく共有し、分かち合おうとする「友愛」の気質が、パリのコワーキングにおける協力関係をとても豊かなものにしていました。バカンスの時期であったため、ほとんどの施設で利用者があまり多い状態ではなかったのが残念でしたが。

 

Station F(ステーション エフ)

今回の取材の最大の目的が、7月にオープンしたばかりのフレンチテックの一大拠点を訪れることでした。Stationの名の通り駅舎を改装してできた34000㎡の巨大なスペースに、多国籍な2000人を超える利用者が集積。新しく何かが生まれそうな空間という印象を一目で見て与える、圧倒的なスケール感。26領域にマイクロソフトやフェイスブックといったスポンサーカンパニーが付き、独自にスタートアップをセレクションし、アクセラレーションプログラムを展開。Station Fとして選出したスタートアップも含め、大きなエコシステムが始動しました。マクロン大統領がローンチパーティに参加していたことからも期待の高さが窺えます。

 

ー現在立ち入れる建物内もっとも奥から、入口方向を振り返る。

 

ー2階部分にも広大に展開するワークプレイス。ミーティングスペースは各所さまざまなテーマでデザインされていて、こんなオリエンタルな場所も。障子に鎧は日本風なものの、像は兵馬俑のような…?

 

ICI Montreuil(イシ モントルイユ)

職人の街Montreuil地区で工場の跡地に5年前にオープンした、アーティスト・職人が集積するクリエイティブなスペース。職人・アーティストが自らの専門工具・設備を持ち込んで、面談を経て部屋を割り当てられて入居するというスタイルが特徴の共同アトリエです。一人で作業しがちな職人たちが仲間と出会い、違った領域の専門家に出会うことで、自らの才能を開花させる。自分の持っているノウハウを何倍にもできるし、意見交換することで領域を広げられる。惜しみなく意見を出しあって生まれる新しいコラボレーションから、今までにないアートや職業が生まれているとのこと。
面白いのは、自分が持ち込んだ工具はメンバーで使えるように共有することが定められていること。ただし、使い方を知らない時は知っている人に教わってから使うというルールになっています。この運用はとてもうまくいっているようで、「誰かに貸すということは、誰かに借りるということでもあるんだよ」とメンバーも語っていました。

ーチリ人の帽子職人の工房。本業のWEBデザイナーとして生計を立てながら、夢である帽子職人としてのキャリアを花開かせようとチャレンジを続けています。

 

ーバカンスを利用して改装中のカフェの壁には子どもたちがイベントで描いたゴッホの絵が。これらの絵がゴッホ財団の目に留まり、間もなく美術館に移設されて企画展示されることになったとか。

 

Kwerk(クウォーク)

ここはおそらくフランス発で最も成功したコワーキングのビジネスモデルではないかと感じます。2年前に創業して以来順調に拠点とメンバーを増やし、取材したのは7月にできたばかりの真新しいスペース。8000冊の蔵書で彩られただまし絵のような奇抜なエントランスに圧倒されました。Kwerkの語源が「奇妙な、エキセントリックな」という意味のquirkyであることも納得。
しかし、ここで目指しているのは働くことと、自分らしくあることの一体化。Well-beingにあたるフランス語として解釈することが妥当なBien-etreをベースに、満足感・充足感・安らぎをもって働き方を変えたいというのがkwerkのコンセプト。ジムやシャワールームなどの施設が充実しているほか、上下昇降デスクなどのオリジナル家具も開発しているのが特徴。

ーなかなか写真では伝えられない圧倒的なインパクトがある遊び心満載なエントランス。壁のソファーや照明などの演出で、どこが床かわからなくなるような、そんなだまし絵のような空間。

 

ー家具メーカーと開発した、ハンドル操作で天板の高さを変更できる上下昇降デスク。窓際の柱にはバリ島の黒い石を使った彫刻がワーカーを見守っています。

 

オランダ・アムステルダム

貿易の国オランダ。誰とでも気軽に声をかけて対話する風土があり、Dutch Directnessと言われる直情的な国民気質も相まって積極的なコミュニケーションが交わされ、これもコワーキングにおける豊かな協力関係を間違いなく支えているといえそうです。

 

Meet Berlage(ミート・ベルラーヘ)

ユトレヒトで始まったオランダのコワーキングプラットフォームSeats2Meetはオランダ国内に広範に拠点を持ち、10年間で7万人のメンバーネットワークを構築。そのアムステルダムの代表的な拠点が、このMeet Berlageです。アムステルダム駅前にある運河の上に立つ証券取引所・海洋裁判所だった建物の中に所在していて、この建物自体がオランダの重要建築物50選に入るくらい著名な建造物であり、この中に存在していること自体がとても価値のあること。ランチの時間の交流がまさにコワーキングの交流のベストプラクティス。食を媒体にして多くの交流が生まれている。ゲストの私たちも歓迎されていました。

 

ーもともとはオーケストラの楽屋だった場所をオープンラウンジにとして利用。窓から見えるアムステルダムの風景がとても素晴らしく、素敵な場所でした。

 

ーパンにチーズとハムを挟むシンプルなオランダ流のランチ。スタッフが手際よく用意し、メンバーが自然に集って笑顔あふれる対話の時間のはじまり。楽しい対話でした。

 

KANTOOR KARAVAAN(カントゥーン・キャラバン)

アムステルダム郊外の、のどかな田園地帯。この民家の庭先にポツンと置いてある一台のキャラバン。創業者のTomさんは現代の都市の生き方があまりに自然から離れすぎていることに警鐘を鳴らし、森の中にコミュニティを作って、村のようなつながりを作りたいという構想からスタート。さまざまな規制をクリアしやすい移動式のキャラバンという発想に至りました。さまざまな企業とコラボレーションしてソーラーパネルやWi-Fi環境を整備。スポット利用だけではなく、映画の撮影クルーが撮影時のオフィスとして使ったり、コーチがクライアントを連れてきてコーチングの場として使ったり。自然の中で働くことで、ストレスの軽減にもなりバーンアウトが防げる、サステナブルなワークプレイスの一提案と感じました。

ーとにかく圧倒的な自然。自然。自然。古城も見える眺望と、ゆったりとした時の流れを象徴するような家畜たちの振舞い。おそらくここで打ち合わせをしたり仕事をしたりするだけで、人生観が変わりそう。

 

ーとにかく圧倒的な自然。自然。自然。古城も見える眺望と、ゆったりとした時の流れを象徴するような家畜たちの振舞い。おそらくここで打ち合わせをしたり仕事をしたりするだけで、人生観が変わりそう。

 

イギリス・ロンドン

金融の街ロンドンらしく、Fintechにかかわるコワーキングスペースが多く存在していたのが特徴的でした。また政府・公共サービスに特化したコワーキングもあり、コワーキングスペースという新しい空間・働き方から生まれるビジネスに対し、省庁や金融機関が大きな期待を寄せています。

 

rise London(ライズ ロンドン)

イギリスの金融機関バークレイズが運営する、Fintechの企業が集積するコワーキングスペース。グローバルに展開していて、ロンドンのこの場所はもともと工場だった7階建ての建物を改築。近隣にはFintechのコミュニティがあったり、またバークレイズのアクセラレータープログラムも存在したりするなど、Fintechを手掛けるスタートアップには魅力的な場所です。そしてカフェが素晴らしく、心地よい場所でした。

 

ー本誌に掲載した写真のオープンラウンジに続く通路のファミレス席。午前中から活発に対話が交わされていました。

 

ー入口すぐのカフェ。天窓からの採光も良く明るい場所にあり、清々しい気持ちで利用できるカフェでしたね。

 

Impact HUB Kings Cross(インパクトハブ キングスクロス)

ロンドン発祥で今や世界中に展開するコワーキングスペースImpact Hub。交通アクセスのよいKings Cross駅近くにあるここは180年前の元々倉庫だった建物で、壁の煉瓦がとても趣深い拠点でした。会員になれば世界中どこの拠点も使える利便性や、ロンドンの豊かな国際性もあり利用者の国籍も多様。会員同士の専門性が接続して立ち上がった食のイベントが盛り上がりを見せるなど、交流も活発。それを支えるコミュニティマネージャーの高い魅力が印象的でした。

ー天井まで吹き抜けた開放感の高いコワーキングスペース。カフェカウンターも本格的で、スタッフもフレンドリー。

 

ー最上階の一角にあるQUIET AREA。集中して作業を行いたいときにここを使用。

 

The Rain Cloud Victoria(ザ・レイン・クラウド・ビクトリア)

近くに省庁も多く所在するエリアにあり、行政・公共サービスを手掛けるスタートアップが集積するコワーキングスペース。元々劇場だった場所を最小限の建築で仕上げていて、家具はビクトリア時代100年前のものが今も使われていました。創業者のTimさんは「たくさんこのような場所がこの6年くらいでできているけれど、働く人が何を欲ししているか忘れた設計が多い。過度な見栄えでスタートアップを脅している空間がなんと多いことか。」と、働く人が「何が必要か」ということに直結するものを置いているとのこと。コワーキングの一般的な空間デザインのあり方へ一石を投じる考え方だなと感じました。

ー劇場らしく、奥にはステージがそのまま残る。会議室として使われていました。

 

ーステージ上の会議室にはビクトリア時代のアンティークな家具がアクセントに。会議室の予約は扉に貼ってある紙に手書きで書いて確保。このアナログな手続きを大事にしているようです。

 

Level39(レベル39)

ロンドンの大規模ウォーターフロント開発地区であるカナリーワーフに建つビルの39Fにあるコワーキングスペースで、2013年にオープン。4つの事業領域(Fintech、サイバーセキュリティ、リテールテクノロジー、スマートシティ)のスタートアップベンチャーが入居しています。再開発された新しい金融街におけるインキュベーション施設として、大きなエコシステムを構築していました。金融機関が集積する地区であることに加えて、金融庁やロンドン大学も同じビルに入居していることもあり、メンバーが右肩上がりに増えているのもうなずける空間。省庁との連携も強く、規制緩和につながるアイデアもここからたくさん発信されています。

ー窓からテムズ川を臨む最高のロケーション。世界のサイバーセキュリティの技術がここに集積しています。

 

ーエントランスは未来感あふれる空間。新しいことがここから生まれる、そんな可能性を感じられるような非日常の演出が印象的でした。

 

2回にわたりアメリカとヨーロッパのコワーキングをダイジェストでご紹介しました。日本としては、こういう具体的な場の事例やネットワーキングのあり方から何を学び、どんな日本型のスタイルを構築していったらいいのかを、そろそろ真剣に考える時期に来ているのではないかと思います。もちろん日本にもたくさんのコワーキングスペースがありますが、やはりまだまだ日本は黎明期という印象。スタートアップやベンチャーだけではなく、組織人が活用していくことこそが、日本における活用のスタイルを形成していくのではないかと考えています。これらも含め、販売中の「WORK MILL with Forbes JAPAN」創刊号では様々な視点でコワーキングの可能性を議論していますので、是非ご確認ください。

 

2017年10月10日更新

 

テキスト:遅野井 宏
写真:遅野井 宏

関連記事