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編集部がミル ― コワーキングスペース探訪 NY編

WORK MILLメディア編集部が日々の取材で掲載しきれなかった内容や、気になっている場所や物などをコラムとしてこれからお伝えしていきます!

 初回は、9月27日に発売した『WORK MILL with Forbes JAPAN』創刊号 の特集「コワーキングと働き方の未来」にて選出した世界のコワーキングスペースをダイジェストとして紹介します。第1回目は、アメリカのニューヨーク編です。

いつものオフィスでは出会うことのないような多様な人々と空間を共有しながら働き、そのなかで各人の知識が交わり、新たな価値創造へつながる ― コワーキングという、いままでの境界を超えた新しい働き方が世界中で台頭しています。WORK MILLウェブマガジンで以前に取材したアクセンチュアデジタルハブヤフーのLODGEは、まさにコワーキングが体現されている場所です。そして彼らだけでなく、全国で急増している新たなワークプレイスである「コワーキングプレイス」。海外の最新コワーキングプレイスはどのような施設なのか、またコミュニティが生まれているのでしょうか。

ニューヨークで訪問したコワーキングスペースはどれもユニークであり、健康、ホスピタリティー、アート、地域開発など特徴やコンセプトも様々でした。多様な施設が存在する中でニューヨークという地域におけるコワーキングスペースの役割やユーザーの共通する傾向が「ビジネス創出」に注力している点と思いました。自分の理念や考えに合ったり、仲間やパートナーを求めたりすることも、あくまで自らのビジネスの成功を目的とし、各場所が持つ特徴を上手く活用する。そんな働き方をニューヨークのユーザーからは感じ取れました。
 ビジネス創出や成功を目的と言うと、ビジネスライク的なイメージを持ってしまいますが、どの施設も自分たちのスペースに合わなかったメンバーや脱退者に対しては他の施設を紹介するなど、純粋にユーザーのビジネスを応援する文化を持っていました。コワーキングビザなど相互連携の具体的なアライアンスや仕組みはありませんでしたが、それらが具現化され施設間でのネットワーク化ができれば、ニューヨークから生まれる新たなビジネスは活性化され、面白くなるのではないでしょうか。各施設での共感し合えるメンバー間による「知と知の交流」、そして各施設間の人材の流動で生まれる更なる「知と知の交流」の双方がイノベーションへの源泉となり、ニューヨークという街の魅力に新しく加わることでしょう。

 Bond Collective (ボンド・コレクティブ)

「コワーキング」だけでなく「ホスピタリティー」も提供する市内に4か所で運営するコワーキングスペース。空間や設備、運営も押し付けはしないで、コミュニティチームが積極的にメンバーとコミュニケーションを取り、彼らの要望を反映し、メンバーに寄り添いながら運営し、彼らのビジネスをサポートしていることが特徴です。デザインはあくまでメンバーにプライドと自信を感じてもらい、快適に働くための仕掛けであると。そんな彼らの「keep branding minimum」の姿勢からか、メンバーも個室にとどまらず様々な場所で自由にノビノビと働いている様子が伺えました。メンバーと共につくるコワーキングスペースから新たなビジネスが生まれることが期待されます。

※写真は、ブルックリンにあるGowanus店

ーブルックリンの古いタイル工場を改装した施設。活力を感じられる鮮やかな青色を採用し、階段や通路をペインティングしながらつなぐ折り紙を連想した動線の内装デザインが際立っていました。

ー個室スペースは、壁もドアもガラスで個室ながら視線が通り、お互いの活動が見えるオープンな環境。そのガラスのドアや壁に貼られたポストイットや書かれた文字からメンバーの自由さを感じました。

ー2階のオープンな共有スペース。自分たちの個室に閉じこもるより、あえてオープンなソファやカフェカウンターなどでリラックスしたり、他の入居メンバーと交流しながら働くメンバーが多いとのこと。

ー注目されている昆虫食を発見! カフェカウンターでは材料の一部にコオロギ粉を使用したプロテインバーが試供されていました。試食したところ…なかなかイケます。

 NewLab(ニュー・ラボ)

「新たな実験室」と名が表わすように、ロボティクスやAIなど最先端のハードウェア産業(企業)をNYで発展すべくブルクッリン・ネイビーヤードにできたコワーキングスペース。溶接機や3Dプリンターなど最先端機器を備えるこの施設には、現在100の企業、450人が入居しています。そして彼らは技術力と成長が見込まれ、選抜されたスタートアップであり、その入居倍率は応募に対して2割との狭き門。一番興味深かったのが、NewLabの目指すゴールが「NY発のビジネスをつくり、そしてNYに根付く企業を育てること」でした。シリコンバレーに根付くグーグルやフェイスブックなどのソフトウェア産業への対抗ではないが、州政府や多くの民間企業も支援し、未来のハードテックシーンをNYという地域につくる壮大なビジョンが施設や入居審査からその本気度を伺えました。

ー1900年代築の造船所を改装した約8,000㎡の広大な施設。造船所時代のクレーンや建物の梁が過去のハードウェアのアイコンとして大きな存在感を空間、そして入居者に与えています。

ー通路に何気なく置かれているデスクやテーブル。こちらも立派な入居スペースです。しかし、あまりにも巨大な空間なため人も家具も少なく感じてしまいます。

ー建物中央のカフェスペースには食べ物やワインを提供する「Chefs club 」が入っていました。会議やイベントなどへのケータリングも行っているみたいです。

ー巨大な空間の1階には個室と屋上にあるメゾネットのオープンスペースの箱が並びます。個室は、イベントスペース、会議室やデジタルファブリケーションなどの共有の機能空間で、メゾネットのオープンスペースは入居企業のオフィスとなっています。

ー左:テーブルが円形なのでオープンな会議スペースかな、と思っていたらこちらのメゾネットスペースもイチ企業の入居スペースでした。「PCが映らないように撮影してね」と軽く注意されました…
ー右:入居企業の製品が並ぶ展示スペース。小型火星探知機や太陽光電池を備えたリュックなどがあり、手前は、sobiという自転車シェアサービスで、スポーツメーカーのナイキ本社キャンパス内(ポートランド)の移動に使用されている自転車が展示されていました。

PRIMARY(プライマリー)

Health & wellness(健康)を価値においているコワーキングスペース。健康に対する直接的な事業をしている企業だけでなく、「健康」を重視した働き方や思想に共感するメンバーが多く入居しており、オープンして1年強で約320名のメンバーが利用しています。白を基調とした洗練された内装や自然光を取り込むなど空間デザインだけでなく、オーガニック素材の飲食物の販売やヨガクラスの開催などソフト面にも「健康」という価値観を反映しているところが特徴でした。個人的には、ニューヨークの超ビジネス街であるウォールストリートのビルの1フロアに開設したことが、「競争」を重視した働き方に対するアンチテーゼ的な意思を強く感じました。

ー白と木目を基調とした内装デザイン。植栽も至る所に飾られており、緑を感じる心地よい環境です。65室ある個室で57室が窓側に並んでおり、自然光が豊かに入る明るく健康的な空間でした。

ーポートランド発祥のスタンプタウン・コーヒーが入っており、美味しいカフェラテをいただきました(取材に集中?しており写真撮るの忘れる…)。奥のスタジオではヨガクラスが定期的に開催されており、人気のクラスには20人以上参加するとのこと。

ー木材を使用した壁面のエントランスサインから植物が施された受付へと続き、まさにPRIMARYのコンセプトが体現されたお出迎えです。

第1回目のニューヨーク編はここまで。次回は、フランス・オランダ・イギリスと3都市を巡る豪華なヨーロッパ編です。お楽しみに!

※販売中の「WORK MILL with Forbes JAPAN」創刊号では様々な視点でコワーキングの可能性を議論していますので、是非ご購読ください。

 

2017年10月3日更新

テキスト:山田 雄介
写真:山田 雄介
リサーチ協力:小嶌久美子

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