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ロフトワークが促す日本企業のオープンイノベーション

「オープンコラボレーション」を志向し、Webコンテンツや空間、コミュニティなどさまざまな領域をデザインするクリエイティブエージェンシー・ロフトワーク。クリエイターのポートフォリオが集積するプラットフォーム「Loftwork.com」に始まり、学びのプラットフォーム「OpenCU」、Fabスペース※1を備えたカフェ「FabCafe」やクリエイティブラウンジ「MTRL」など、オンラインとリアルをシームレスにつなげながら、さまざまなコミュニティを生み出しています。

 

ロフトワークはクリエイティブエージェンシーであるにもかかわらず、社内にデザイナーやエンジニアをもちません。外部パートナーとの有機的なつながりから、イノベーションを創出する仕組みがあるのです。

 

前編では、社外のさまざまな人や組織とコラボレーションするロフトワークの特性やその方法論について、代表取締役社長の諏訪光洋さんに伺っていきます。

※1Fabスペース:アナログ・デジタル工作機器が利用可能な施設

 

「クリエイティブの流通」から「場づくり」へ

WORK MILL:会社について伺っていきたいのですが、諏訪さんご自身のキャリアも興味深いですね。

 

—諏訪光洋(すわ・みつひろ)ロフトワーク代表取締役社長。
1971年米国サンディエゴ生まれ。慶応大学総合政策学部(SFC)卒業後、InterFM立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局初のクリエイティブディレクターに就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、ニューヨークでデザイナーとして活動。2000年に共同創業者の林千晶代表取締役とともにロフトワークを起業。

 

諏訪:社内外でこれからの働き方やクリエイターのキャリアについて話すこともありますが、僕自身のキャリアはもっと投機的だし適当です(笑)。InterFMの立ち上げに関わり始めたのは大学生の頃でしたが、当時スタートアップという概念はなく、「Japan Timesが放送局を作るのか」と興味本位で潜り込みました。メディア、特に放送局の立ち上げというのは非常に面白く、人の流れがこんなふうに生じて、仕組み化されて、コンテンツとして派生していくのか……というのを間近に見ることが出来ました。その中で僕は学生上がりでいろんな事をやらされました。よかったのはSFCで簡単なシステムがつくれるようになっていたことで、社内システムや業務システムをつくる一方、放送の編成などコンテンツ作成も行いました。ジングルなどをつくると同時に、フリーペーパーもつくるなど猛烈に忙しかったですが、すごく勉強になりました。

 

その後デザインを学ぶため、あるいはその最前線でやってみようとNYに渡ったんです。NYでは放送局時代のつてを頼りながらデザイナー活動を始めたのですが、苦労したのが仕事の取り方。まだGoogleもなくて、Yahoo!に数千人のリサーチャーがいて、手作業で情報を仕分けているような時代です。自分のサイトを持っているデザイナーも2、3%いるかいないかで、自分でYahoo!に申請して、ようやく掲載されたとしてもディレクトリの奥深くに格納されるから、誰の目にも触れられないんですよ。

 

WORK MILL:そうでしたね。「芸術」のカテゴリから「デザイン」を選んで、それから「デザイナー」……というふうに探して。

 

諏訪:結局、仕事は人づての受注しかありませんでした。人を介してあらゆるものが流通していたわけです。一方でAmazonやeBayなどITとWEBの世界で大型のプレーヤーも現れはじめ、新たな流通の仕組みが生まれていた。それで、クリエイティブがもっとWebで流通できる方法があるんじゃないかと考えたんです。半ば自分のため、という動機もありましたが、林(千晶 代表取締役)とロフトワークを創業しました。クリエイタープラットフォームLoftwork.comは2000年にはじめてもう17年経ちますから、Webサービスとしてはかなり古参の部類に入るかもしれません。今でいうクラウドソーシング的なサービスを志向していましたが、当初はクライアントとクリエイターが直接やり取りするにしても「共通言語」がないので、軋轢が生じることが多くありました。

 

WORK MILL:クライアントは適正予算もどのくらい工数もかかるのかわからないから、クリエイターに対して無理な依頼をしてしまうことも起こりそうですね。

 

諏訪:もっとタスクごとに切り分けて流通させれば、完全にオンラインで完結できたかもしれない。けれども作業レベルではなくもっと大きなやりがいのあるプロジェクト単位で流通させたかった。
そこで我々がプロジェクトマネジメントの機能を持っていればいいのではないのかと考えたのです。2002年に国際標準のプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK(ピンボック)=A Guide to the Project Management Body of knowledge 」を導入したのですが、Webはおろか書店に行ってもまだほとんど情報がなくて、ようやくITの世界にもその考え方を取り入れようとするところが出てきた頃でした。
そもそも建築や製造、宇宙開発などに活用されてきた知識体系で、ようやくシステム会社が取り入れ始めたPMBOKを、クリエイティブの世界に落とし込んでいくのには、なかなかすんなりとはいきませんでした。社内のシステムや体制を4年くらいかけて整えていき、徐々に大きなプロジェクトが実行できるようになってきたんです。数万ページ規模のサイト全面リニューアルとか、制作業界の中では「巨大すぎてどうしたらいいかわからないものはロフトワークに頼もう」みたいな(笑)

 

そうやって大きなプロジェクトを回して、クリエイターのコミュニティが1万人規模にまで広がってくると、だんだん求められることが変わってきたんです。制作に限らず、より根源的なことから考える必要が出てきた。2008年くらいからオンラインと並行して、外部の有識者を呼んで社内で勉強会を開くようになったのですが、それをオープンな形で発展させ、2010年から正式運用しはじめたのが学びのプラットフォーム「OpenCU」でした。デザイナーやアートディレクターといったクリエイターだけでなく、研究者、あるいはダンサーのような他分野のクラスタが集まって、学びを共有するようになったんです。もともとオンラインで完結することを志向していた僕らが、オフラインで人と人とが会うことの価値、そこで生まれるコミュニケーションの深さに気づいたことで、「場づくり」という方向に向かっていったのだと思います。

 

WORK MILL:オンラインのサービスに立脚していたからこそ、リアルの価値が高まったのかもしれませんね。

—2017年6月8日に開催された松本理寿輝さん(ナチュラルスマイルジャパン株式会社 代表取締役)を迎えてのOpenCU イベント「解体新所#04」の様子

 

諏訪:2011年には、日本初のFabLab(ファブラボ)を作った田中浩也さん(現・慶應義塾大学環境情報学部教授)を迎えて、FabLab合宿を開催しました。今では考えられないことですが、レーザーカッターや3Dプリンターがクリエイティブとうまくつながっておらず、建築家以外のクリエイターたちにとっては「何ができるのかよくわからない謎のツール」でした。合宿も今はMake-a-thonと言われているものですが、当時はその言葉もありませんでした。
合宿で生まれた成果やクリエイティビティは驚くべきものでした。FabLabが世界に100程度に広がっている時代でしたが、僕らはより間口が広くクリエイターが参加できるカフェにしてみたかった。FABの概念を生みFabLabをつくったMITのNeil Gershenfeld教授にも「面白い!」と賛成してもらい「FabCafe」が誕生しました。これは今、日本と台湾、タイ、フランスなど世界6カ国9都市に拠点を置いていて、メキシコやアメリカにも開設予定です。2012年からデジタルファブリケーション領域のアワード「YouFab Global Creative Awards」を始めて、2016年は31カ国から約200作品が集まっています

 

オープンさと透明性が生み出す有機的なフロー

WORK MILL:サイト制作だけでなく、場づくりやコミュニティづくりへと事業を移行してきたのは、意識的なものでしょうか。

 

諏訪:半分はイエスで半分は偶然です。2008年には大型のプロジェクトで意思決定をスムーズにするためにワークショップを積極的に取り入れていました。また視覚化の重要性やプロトタイピングなども取り入れ、それらはデザイン思考と言われているものと繋がっていました。WEBやデジタルがイノベーションに果たす役割もまた重要でした。既存のサービスや製品とデジタル、そして新しい才能を掛け合わせてイノベーションの可能性を探るという形になったのは必然とも言えるし、意図せず生まれた偶然でもあります。
企業と一緒に考えて、外へと手を伸ばす、その一連の作業を行うのが僕らの役割だと言えます。社内にはクリエイターを置かず、常に新しい才能を探し続けているので、僕ら自身が外部性を持っていますし、プロセスをデザインすることで、デベロッパー(開発者)などさまざまなコミュニティを作り続けてきました。「天才的なデザイナーを擁するクリエイティブスタジオ」という方向性もあって、それらが果たす役割も大きいと思いますが、僕らは「企業と併走して考えるクリエイティブエージェンシー」という道を選んだ。それが、結果として企業の思いに応えられているんだと思います。

 

WORK MILL:なぜ「社内にクリエイターを置かない」と決めたのですか。

 

諏訪:誘惑や社内からの要求は常にあります。「つくるスピード」やコストを考えると合理的です。けれども創業時の目的は「クリエイティブを流通させる」です。社内にデザイナーを置いてしまったらそれが果たせませんから。「Webを通じて新しい働き方や自由をクリエイターは手に入れられるはずである」と。僕自身、1999年頃に「これがうまくいったら、40歳くらいにはハワイでMac片手に、のんびり生きられるんじゃないかなぁ」と思っていました(笑)。現在では年間500くらいのプロジェクトが動いていて、少なくとも2000人くらいのクリエイターと一緒に仕事ができている。ある意味で当初の目的は実現できているし、僕らはそのために「トランザクション(情報処理)をいかに最大化・最適化するか」ということを常に考えているんです。

 

WORK MILL:500ものプロジェクトが動いていると、それだけさまざまなやり取りが生まれて、世の中のニーズもキャッチアップしやすいのではないかと感じます。それを踏まえて、トランザクションを最大化するために意識されていることはなんですか。

 

諏訪:意識して仕組み化しているのは、徹底的にオープンにして、透明性を確保していく、ということ。そうすることでフローが生まれやすくなって、その勢いを維持しやすくなります。あらゆることを可視化して、俯瞰できるようにして「こういうことを考えているのか」「このアイデアをどう活かそうか」と俎上に載せたほうが、クローズドにするよりも圧倒的にメリットも価値も大きい。
たとえばFabCafeの場合、独立したLLPなので、通常どう利益を確保するかにフォーカスされがちですが、僕らはKPIを売り上げでなく「どれだけ人が訪れたか」に置きました。来店目標を700名に設定したら、それを達成するために必要なイベントやワークショップ、あるいはメニュー開発など、人に集まってもらえるようなあらゆる方法を考えるわけです。コミュニティをいかに大きくできるかが重要で、ビジネスはその後から結果としてついてくるし、デザインができると思います。

 

 

グローバルなイノベーションを生むロフトワークのコミュニティ

WORK MILL:それにしても、ロフトワークの変遷自体が社会の変化と連動してきているようです。これからどのような事業体が考えられるのでしょうか。

 

諏訪:企業からイノベーションに関連した相談を受けるようになったのはここ数年のことですが、最初は「イノベーション」なんて大それたことだと思っていたんです。僕らのように外部性の高い会社が、それを実現できるのだろうか、と。けれども企業から求められているのは、イノベーションそのものというよりはその起爆剤なんですよね。たとえば、オリンパスと共同で立ち上げた「OPC Hack & Make Project」は、オリンパスが開発したインターフェースのないオープンプラットフォームカメラ(OPC)「OLYMPUS AIR A01」が発端でした。同社は新しいカメラを開発したものの、まったく新しい製品だからこそ、どんな市場価値があるのか彼ら自身にもわからなかった。そのため、アプリを開発するデベロッパーや活用法を提案するクリエイターのコミュニティを作ることが、その製品にとってのイノベーションだったわけです。こういった事例はますます増えていて、パターンも変わっていくだろうけど、企業における新規事業部やアクセラレーションプログラムの「新しい形」を提供する、というのは事業の柱になっていくと思っています。

FabCafeが単なる「場」の機能を超えて、グローバルなネットワークになっているところも面白いと感じています。そこに紐づいているコミュニティもそれぞれ育っていて、エキサイティングな活動をしているんです。まだローカル企業やもう少し大きな組織単位での結びつきが少し弱いことを課題に捉えながらも、活用策を考えながらビジネスにおけるソリューションを出そうとしているところです。グローバルマーケティングに取り組んでいる企業は多いけど、グローバルイノベーションにチャレンジする企業はそう多くない。そこに切り込んでいきたいですね。

 

***
後編では、ロフトワークが志向する「オープンさと透明性」についてさらに深掘りしていきながら、新たな価値を生むために必要な要素やアクションなどを考えていきます。

 

・記事後編_ロフトワークがデザインするコラボレーションとワークスタイル

 

編集部コメント

「イノベーションへの伴走者」。諏訪さんの取材を経て、ロフトワークに対して改めてその言葉が頭に浮かびました。与えるのでなく、企業と一緒に考え、つくるパートナーでありキャディーのような存在である。そして、社内にクリエイターやデザイナーを置かないスタイルが自動的に外部の「知」を巻き込み、新たなコミュニティを企業やプロジェクトにもたらす。それを実行するため「オープンさと透明性」を確保する働き方と環境はイノベーションを生み出すためのひとつのキーではないだろうか。そんなロフトワークの働き方に触れ、「オープンさと透明性」を体験できるがことが、彼らと一緒に仕事をする企業にとって一番の価値になるのでは、と感じました。(山田

・記事後編_ロフトワークがデザインするコラボレーションとワークスタイル

2017年8月22日更新
取材月:2017年6月

テキスト: 大矢 幸世
写真:中込 涼
イラスト:野中 聡紀

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