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スウェーデンustwo流「コーチ」がチームのイノベーションを促す

以前、CROSS TALKで取り上げた記事「知的生産を生み出すために、現場に取り戻したい素質」において、上司は言わば「コーチ」であり「伴走者」の役割を果たしていることが明らかにされました。けれども日本に目を向けてみれば、上司の役割はあくまでも「マネージャー」であり、「部下をいかに動かし、成果を挙げるか」という面にばかり光が当たっているように見えます。

 

イノベーションを求められる現代では、プロジェクトチームのあり方にも変革が求められます。研修やセミナーなど一方的に指導するようなコーチではなく、メンバーに寄り添い、よりチームワークを円滑にするような新たなコーチが必要ではないでしょうか。海外事例を挙げると、スウェーデンにあるデジタルプロダクトスタジオustwo(アストゥ)では、専任のコーチが働いています。ustwoは「MONUMENT VALLEY」というパズルアプリがGoogleの「ベストApp&ゲーム2014」や「Apple Design Awards」を受賞するなど、その高いデザイン性とクリエイティブ力が世界的に評価されています。今回はustwoでコーチとして働いているPetter Mellanderさんに、コーチとしての職務内容やその役割、チームにもたらす影響などについて伺いました。

 

何を学びたいかを知ることは、自分自身を知ること

ーPetter Mellander(ペッター・メランダー)
ビジネスデザインスクール「The Kaospilots」卒業。ストリクスTVでイベントのプロデュースやマネジメントに携わった後、デジタル・クリエイティブ・スクール「Hyper Island」に所属。プログラムマネージャーやチームリーダーを務める。2013年、ustwoに入社。現在は”Team Coach”として価値創造、コラボレーション、学習に重点を置き、個人やチーム、クライアントを指導している。

 

WORK MILL:Petterさんがustwoにコーチとして入社した経緯を教えてください。

 

Petter:私がustwoに入社したのは2013年の6月です。それ以前はHyper Islandというデジタル・クリエイティブ・スクールで働いていました。ustwo はHyper Islandの学生たちを多く採用していて、彼らの能力に満足していました。おそらく、デザインやプログラム開発など実務的なスキルだけではなく、他のメンバーとの共同作業に長けていて、ポジティブな考え方ができる点も気に入っていたのでしょう。それで、ustwo はHyper Islandの手法を自社にも取り入れようと、私にオファーをくれました。
私自身、教育業界での経験しかありませんでしたし、現実の職場を知るいい機会でした。どういうふうにHyper Islandのスキルやメソッド、考え方が職場で応用されるのか、興味があったのです。

 

WORK MILL:Hyper Islandでは講師をしていたのですか。

 

Petter:そうですね。けれども実際のところ、Hyper Islandではいわゆる「教育(teach)」は行いません。Hyper Islandでは仕事を得るための実践的な教育が行われているのですが、明確に「先生」という存在はいないんです。実際にクリエイティブ産業で働いている人に「どういう人を採用したいか」などと話を聞き、それをもとに講義内容をデザインして、実際にクリエイティブ産業で働いている人が講師としてコースを受け持っていました。私が行っていたのは、そのコース・デザインとオーガナイズで、学生のメンターとしてコースをサポートしていました。
Hyper Islandというスクールは、はたから見れば「楽勝(easy)」な学校かもしれません。だって、特に規律もなく、自由ですからね。けれどもある意味、ものすごくシビアなんです。講師が逐一何を学ぶかを指示してあげるような、普通の教育を受けてきた学生を「再プログラミング」して、自ら「何を学びたいか」を選びとれるようにならなくてはいけないのですから。私が「何を学びたい?」「これからどうしたい?」と問いかけていくと、学生たち自身の態度や意識に変化が生じます。自分自身の中で起こる変化に対して敏感になることで、「何を学びたいか」が見えてくるんです。つまり、何か特定の学問を学ぶだけでなく、自分自身を学ぶことにもつながる。現代はさまざまな人とともに働くわけですから、それだけ「自分自身について知ること」は重要だと言えるでしょう。それを気づかせるのが私の仕事であり、Hyper Islandの教育でした。

 

デジタルテクノロジーに特化したコンサルティング部門を持つクリエイティブ・ビジネス・スクール。1996年スウェーデンに創立され、現在はイギリス、アメリカ、シンガポール、ブラジルにも姉妹校がある。

 

価値のあるものを生み出すことに専念するために

ーソーシャルエリア(朝食、ランチ、全体ミーティング、卓球など)

 

WORK MILL:ustwoでは皆さん、どのように働いているのでしょうか。

 

Petter:ごく一般的ですよ。フレックスで10:00から15:00までのコアタイム以外は、自分でコントロールできます。基本的には8時間の勤務時間ですが、子育て中の社員には時短勤務のオプションがあります。家族との生活が大切にされていて、男女ともに育児休業や6週間の有給休暇が取れます。作業環境としては、スタッフによって設計されたフレキシブルでオープンなスペースで、担当しているプロジェクトによって自由にスタジオを移動して、さまざまな人と作業します。フーズボール(テーブル・フットボール)や、アーケードゲーム、プレイステーションや卓球台を備えたプレイルームもありますよ。キッチンと冷蔵庫もあるので、いくらでもコーヒーが飲めますし。

 

WORK MILL:Petterさんが入社するまでustwoには「コーチ」という役職はなかったのでしょうか。

 

Petter:私を採用したのはNYスタジオのマネージングディレクターでした。会社の人員構成が変わり、より効果的にチームパフォーマンスを上げる方法を探していたようです。けれども教科書に書いてあるような既存のスキームではフィットしなかった。そこで新たな方法を検討することになったんです。そこで取り入れられたのが、アジャイル開発やスクラムなどといった手法。私が入社する前にもアジャイルコーチやスクラムマスターとして働く人はいましたし、それがプロジェクトチームの基本となっていたわけです。ちょうどそのころ、私の元同僚がustwoに入社して「もっと『人に長けた人材』が必要だ」と気づきました。よりチームワークにフォーカスしたほうがいいのではないかと考えたんです。そこで私に白羽の矢が立ったようです。
コーチとして入社したのは私が初めてでしたが、今では他に数名がこの役職として、ロンドンやNYなどほかのスタジオでも働いています。それぞれのスタジオにはプロジェクトマネージャーがいますが、彼らの意識をよりコーチングに重点を置いたマインドセットにしようと取り組んでいます。つまり、上司のためではなく、チームとして機能させることを目指すということです。

 

WORK MILL:コーチはどういった職務内容なのでしょうか。

Petter:一言でいえば、「チームの目的を達成するためのプロセスを設定し、実行すること」でしょうか。チームの目的とはあくまで、「ユーザーに価値を提供すること」。チームの仕事としてはプログラミングやテスト、フィードバックなどさまざまなフェーズがありますが、本来的にはソフトウェアがユーザーに届くまでは、私たちの仕事には価値がありません。ですから、できるだけ早くソフトウェアを完成させるために、それを妨げる要因を取り除いていく必要があります。
その要因として挙げられるのは「無駄なこと」です。無駄というものは、本質的に価値を損ねるだけです。たとえば、ユーザーから要望が寄せられていたとしても、そのニーズに優先順位がつけられていなければ、チームはさほどビジネス的な優先順位の高くないものから取り組むことになり、本来やるべきことが後回しにされます。ですから、プロジェクトマネージャーがきちんと優先順位づけを行っているかどうか、サポートすることも私たちの仕事です。「やる必要のない会議」なども無駄なことのひとつでしょう。そうやってすべてのプロジェクトの無駄をなくしていくことで、数週間分の作業を節約し、本当に価値のあるものを生み出すことに専念できるのです。

 

WORK MILL:コーチと聞くと、「教える」というイメージがあるのですが。

 

Petter:もちろん、学習も重要な仕事です。プロジェクトをはじめるとき、新たにチーム内で取り組む作業は往々にして完璧ではなく、幾度となく調整や改善を余儀なくされます。私たちはそれらを振り返り、事例として定期的に共有することで、次回以降の作業に生かしていきます。仕事や作業そのものに焦点を当てるより、一人ひとりに質問して、その人自身に焦点を合わせて何らかの答えを出しているのです。

優れた個人を集めることが優れたチーム構築とは限らない

ークライアントとのプロジェクトキックオフの様子

 

WORK MILL:コーチとして、とにかく「人」を重視しているのですね。

 

Petter:ソフトウェア開発における最大の障害のひとつは、「人と人とのコラボレーション不足」と言えます。私たちはコラボレーションの障壁をすべて取り除いて、できるだけ最良の方法でチームとしてともに働けるようにします。もしチーム内に透明性が欠けていて、コミュニケーションがうまくいっていないところがあれば、そこからプロセスが崩れていくのです。「チーム・ダイナミクス(=チームで動くこと)」こそが、今までの伝統的なやり方から私たちを解き放ち、一線を画すものを生み出せる方法のひとつでしょう。

 

WORK MILL:「チーム・ダイナミクス」とは、具体的にどのようなものでしょうか。

 

Petter:たとえば、スキルの高い優秀な人を集めて、同じチームにまとめるとします。けれども、一人ひとりのパフォーマンスが高くても、そのチームがとりわけパフォーマンスが高いとは限りません。多くのチームが、パフォーマンスを発揮できるまでに、同じようなフェーズをたどります。そのため、私たちは一人ひとりにフォーカスし、彼らがそのフェーズをなるべく早く乗り越えられるようにサポートします。
チームを形成するとき、コーチとしての役割は、確固たる基盤が作られているかどうか、チームは何をすべきで、そのため何に投資すべきかきちんと共通認識を持って、それを明確にすることです。そして、もっとも重要なのは、本当にその仕事をやりたいと熱狂しているかどうかなのです。
私たちが実際に行うプランニングとオーガナイズ手法としては、互いを理解し合い、信頼を築くための「チーム・キックオフ・ワークショップ」が挙げられます。たとえば「アイスブレーカー」というメソッドがあって、お互いにポートレートを描くようなものなのですが、単なる自己紹介よりもずっと個人的なものです。車のデザインに関わる人だったら「今まで記憶に残っている中で、いちばんかっこいい車はどれだと思う?」とかね。
チームというものは、お互いを信頼して初めて、実際にコラボレーションが起こるのです。それに、プロジェクト内で衝突や誤解が生じることも減るため、多くの時間が節約されます。「信頼」というものがどれほど私たちに影響を与えているかわかるでしょう。もちろん、衝突や誤解はいつでも起こりうることですが、それを事前に察知し、健全で建設的な方法で対応することも可能になります。
チーム・ダイナミクスは一見して「融通のきくスキル」で、他の領域ほど重要ではないと考えられがちですが、私たちが経験と根拠から知っていることは、チーム・ダイナミクスでの取り組みが、そのチームのフェーズを加速させ、プロセスの遂行を円滑にしてくれるということです。そして私たちコーチがその役割を担っているということ。チームはそれを歓迎しているのです。

 

WORK MILL:コーチはチームに何をもたらすのでしょうか。

 

Petter:コミュニケーションやコラボレーションを促進することで、より高いモチベーションやより強固な関係性をもたらします。プロダクトにフォーカスするのではなく、イノベーションにフォーカスするようなチームを構築し、動かしていくのです。

 

***
後編ではPetterさんからコーチとしての役割や、より具体的なメソッドを伺いつつ、日本企業での実践への可能性を探ります。

 

・後編_ポジティブなコラボレーションがチームワークを変える ー スウェーデンustwo流「コーチ」とは

日常的に多くのUstwoで働く人がサッカーゲームを楽しんでいる

カジュアルなミーティング、またはリラックスして作業ができるソーシャルエリア

芝生が敷かれたミーティングルーム兼ワークショップルーム

2017年1月10日更新
取材月:2016年12月

 

テキスト: 大矢 幸世
イラスト:野中 聡紀
写真:Petter Mellander

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