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「好き」からイノベーションを生む ― ハッカースペースとコミュニティの流儀

「ハッカースペース(Hackerspace)」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。一般的には、コンピュータやプログラミング、電子工学などに造詣が深く、その常識に縛られない行動によってあらゆる課題を解決に導く「ハッカー」たちの開かれた拠点として、世界各地に多く存在しているワーキングスペースです。そこへ集うハッカーのコミュニティは既存の組織が抱えている課題を解決へと導き、イノベーションをもたらす可能性を持っています。海外ではNASAやレゴといった企業や団体、行政、大学などが積極的にハッカーコミュニティとコラボレーションし、さまざまなプロジェクトが進行しています。

 

日本では約10のハッカースペースが全国に点在していますが、一般的な認知度は未だ高いとは言いきれません。ハッカースペースとそのコミュニティが世界で大きな存在感を見せているのには、どんな理由があるのでしょうか。チームラボ・高須正和氏の立ち会いのもと、サンフランシスコにあるハッカースペースの草分け的存在「ノイスブリッジ(Noisebridge)」の共同創立者で、ハッカー文化に深く通じるミッチ・アルトマン氏に話を伺いました。

 

ハッカースペースを構成するものとは

WORK MILL:ハッカースペースやハッカーコミュニティについてお伺いしたいのですが、そもそも「ハッカー」とは、どういう方々なのでしょうか。

 

ー高須正和(たかす・まさかず)チームラボMake部カタリスト
チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部などで活動。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』も行う。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、現在シンガポール在住。MakerFaire 深圳(中国)、Mini MakerFaire シンガポールの実行委員。アジアを中心に世界中のハッカースペースを旅している。

 

高須正和氏(以下、高須):オープンソース※1のエヴァンジェリストとしても有名な伝説的ハッカーのエリック・レイモンドが、有名なオンラインドキュメント『The Cathedral and the Bazaar(伽藍とバザール)』に書き記しているのが、「オープンソースを成功させるためにもっとも効果的な方法のひとつは、遊ぶように働くこと」。そして『How To Become A Hacker(ハッカーになるためには)』では、「ハッカー文化そのものを体現し、伝えていくことが重要だ」と言っています。つまり、遊ぶように働きながら、その成果を広くシェアするということが、ハッカーの要素として重要と言えるでしょう。それに、彼らはその仕事を心から好きでやっていますよね。とてもシンプルで、すべては物事への愛や好奇心から来ているのです。もちろん僕らもそうですが。

※1 オープンソース:コンピュータプログラムのソースコードを一般に広く公開し、誰でも自由に使ってもよいとする考え方

ーMitch Altman(ミッチ・アルトマン)ハッカー。発明家。Noisebridge共同設立者。
どんなTVのスイッチもオフにできるリモコン TV-B-Goneの発明などで知られる。世界中のハッカースペースにネットワークを持ち、その活動をサポートしている。

 

ミッチ・アルトマン氏(以下、ミッチ):「世界にいる大半の人々は、必ずしも自分の仕事が好きではない」というのは、悲しい現実ですね。1日のうち8、9時間、多い時には12時間以上を仕事に費やすこともあるから、人生の多くを「嫌いなこと」に使っているということではありませんか。そのうえ、テレビを何時間も観ているのでは、「本当に好きなこと」に使う時間がなくなってしまいます。
私は「TV-B-gone」という、世界中のテレビを消せるリモコンを発明しました。これは「自分が本当は何を好きなのか、探す時間をつくる」プロジェクトなんです。私は自分の仕事が大好きで、人に時間をどう過ごすのか考えてもらうことに価値を感じ、このプロジェクトをはじめました。自分の好きなことを見つけて、やってみる。他の人もそれに価値を感じて、協力してくれたり、あるいは出資してくれたりすることで、「好きなことを仕事にする人」たちがコミュニティとなり、スペースに集まる……。これが「ハッカースペース」なのです。私は2007年からノイスブリッジを立ち上げ、運営しているのですが、当時世界に40ほどしかなかったハッカースペースは、今や3500を越えるほどになり、増え続けています。
ハッカースペースは、物理的な均衡の保たれたひとつの「街」のようなものであり、ユーザーがクリエイティブに自己表現できる場所です。そこではお互いに助け合いながら、自由に道具を使え、シェアすることができます。現代においてはひとりだけでもクリエイトすることはできますが、コミュニティの中で、さまざまなアイデアをシェアしながらやったほうが、ずっといい結果が得られますし、その結果が周りの人をさらにモチベートすることもあるでしょう。それこそがハッカースペースであり、ハッカーコミュニティなのです。

 

WORK MILL:ハッカースペースを構成するものとして重要なものはなんでしょうか。

 

ミッチ:わかりやすいもののひとつは「ツール」が挙げられるでしょう。ただ一般的には電子部品や機械が主なものだと思われがちですが、実は数学、化学、医学、アート、工芸……世界中のあらゆるリソースがツールになりうるのです。「泥」のように、一見無駄に見えるようなものさえも。あらゆるツールを、あらゆる方法で、あらゆるプロジェクトの改善に使うことができ、それをシェアすることができる。それこそが「ハックすること」であり、ハッカーたちの仕事です。もっとも重要なのは、私たちは「ハックすることが大好きだから、ハックしている」ということ。エレクトロニクスや電子工学だけでなく、アートやクラフト、科学、そして自分自身や我々のコミュニティ……地球さえも、あらゆるものをハックすることができる。その試みができるスペースがハッカースペースというわけです。
もうひとつ重要なのが「コミュニティ」です。よく海外でも「どうですか? 素晴らしい環境でしょう!」と行政主導で作られたコワーキングを兼ねたハッカースペースを紹介されるのですが、それは私たちの言うところのハッカースペースではありません。ハッカーコミュニティが機能してハックすることで、はじめてハッカースペースたり得るのです。

 

 

海外で活発化するハッカーコミュニティとのコラボレーション

ーオープンソースのハッカースペースパスポート。様々なハッカースペースを渡り歩くハッカーたちが、スタンプをためていくもの。ミッチ・アルトマンとデザイナーのマシュー・ボルガッティが提唱し、彼らのクレジットのもと、オープンソースでPDFが公開されている。

 

WORK MILL:海外では多くの企業や行政、学校などがハッカーコミュニティやハッカースペースとコラボレートしているとのことですが、具体的にはどのような取り組みが行われているのでしょうか。

 

ミッチ:まず私のプロジェクトからご紹介しましょう。よく「アーティスト・イン・レジデンス」といって、ある拠点を設け、世界のさまざまな地域からアーティストを呼び寄せ、芸術活動を支援する事業が行われていますが、そのハッカー版として「ハッカー・イン・レジデンス」を行っています。中国の大学でいくつかのプロジェクトを手がけていて、はじめは清華大学でした。清華大学は中国の優秀な大学のひとつですが、彼らは変革を必要としていたのです。その手がかりとしてカリキュラムを改革すべく予算を確保し、改革を手助けしました。また、私の事例に限らず、イギリスも経済発展政策のひとつとして、アーツカウンシルに助成金を給付し、ハッカーコミュニティと協働してハッカー・イン・レジデンスを行っています。
メンターがコミュニティを作り出し、コミュニティが価値を生み、地域やその周辺に利益をもたらすことがアーティスト・イン・レジデンスなら、対象をアーティストに限定する必要はありません。数学や科学、コンピュータ、縫い物でもいいかもしれない。ハッカーマインドを持った人がそこを拠点に活動を行い、生計を立て、成果がコミュニティでシェアされ、学んだ人が他のコミュニティにシェアしていく……その循環が続いていくと素晴らしいですよね。

教育という視点で見ていくと、世界各地のハッカースペースで顕著なのは、「子どもたちにも開かれている」ということです。日本において学校は「テストでいい点数をとる人を作る場所」となっていますが、果たしてそれは教育なのでしょうか。子どもたちはハッカースペースに集まって、自分の好きなプロジェクトを選び、プロジェクトを改善するために必要なことや新たな知識を遊びながら学び、シェアします。いわゆる「Project based learning(プロジェクトに基づく教育)」や「hands-on play-based learning(実践的な遊びに基づく教育)」と呼ばれるもので、これこそが教育だと思います。「STEM教育」という科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の学問領域を一括して扱う教育も注目されていますが、そこに創造的なアート(Art)を入れた「STEAM教育」が私たちハッカー流の方法論です。
企業の事例では、創造力をつけ、労働環境をもっと楽しくするため、社内にハッカースペースをつくる企業が増えています。アメリカのとある自動車メーカーでは、従業員は十数万人にのぼるにもかかわらず、車のデザインを行うデザイナーはほんの一握り。大半の従業員がデザインに関して専門外でした。そこでその会社は社内の一角にあらゆる従業員が訪れることのできるハッカースペースを作り、デザインのアイデアを出し合うことにしたのです。多くの従業員が直接的や間接的に自社製品のデザインに協力する機会を得たことで、より会社への帰属意識が高まりました。またそれは、従業員の創造力を高めることにもつながるのです。

 

カオス、それともオーガナイズド? ハッカースペースの数だけ文化がある

29C3 (29th Chaos Communications Congress), Hamburg, Germany / Arduino For Total Newbies workshop / December-2012 (photo:by Mitch Altman)

Pumping Station: One, Chicago, IL, USA / Learn To Solder workshop / August-2010 (photo:by Mitch Altman)

Noisebridge, San Francisco, CA, USA / Arduino For Total Newbies workshop / March-2015 (photo:by Mitch Altman)

Noisebridge, San Francisco, CA, USA / People hanging out in the library / October-2011 (photo:by Mitch Altman)

Noisebridge, San Francisco, CA, USA / Circuit Hacking Monday / October-2008 (photo:by Brian Ferrell)

 

WORK MILL:ハッカーコミュニティの特徴にはどんなことが挙げられるのでしょうか。

 

ミッチ:あらゆるツールを、あらゆる方法で、あらゆるプロジェクトの改善に使い、それをシェアすることがハッカーの仕事ですが、私たちには唯一のルールがあります。それは「DO-OCRACY」。「さあ、やろう!」ということです。「メリトクラシー(Meritocracy、秀才教育制度)」のように、なにかに長けている必要はありませんし、「デモクラシー(democracy、民主主義)」のように、必ずしもなにかを行う前に合議形成する必要もありません。それを行うことでお互いが高め合い、卓越していけるのなら、やるべきなのです。

 

WORK MILL:そういった状態は、ある種のカオスのようにも感じます。日本では秩序が重んじられるため、「どんなことでもいいから、さあ、やろう!」となると、戸惑ってしまう人も多そうです。日本でハッカースペースを成功させるには、どんなことに留意すればいいのでしょうか。

 

ミッチ:世界各国にはさまざまなハッカースペースがありますが、それぞれの特色があります。ノイスブリッジのようにカオスなところもあれば、FabCafeのようにとてもオーガナイズされているところもありますよね。それぞれのコミュニティが、自分たちにとって心地よいと思える文化を作りだせばいいのです。
ノイスブリッジは「アナーキー(無秩序)」という非常に面白いバランスを保っているのですが、私たちのコミュニティにとってそれはパーフェクトなんです。私たちにとってのアナーキーとは、「何かを実現するための自己組織」。ノイスブリッジにリーダーはいないんです。ですから、たとえば半年間、誰も使っていない道具があって、捨てたい人がいるとします。そういう時は話し合って、結論を出す。売ると決まれば、売ったお金で何かを買う。そうやってノイスブリッジではアナーキーが機能しているんです。
一方で、同じサンフランシスコにある別のハッカースペースは、伝統的な非営利組織であり、エグゼクティブディレクターがすべての決断を下します。緻密に組織化されていますし、会議で多くのことが決められ、たくさんのルールがあります。しかしコミュニティのメンバーは受け入れ、理解しているのです。
サンフランシスコの中でさえ、そういった文化の違いが生じるのですから、シカゴやアラバマ、ましてやアメリカと日本ではもっと文化も違う。だからこそ、それぞれのコミュニティは、自分たちのために文化を作り出すこと。「日本ではいつもこうだから」という言い訳は通用しません。自らが、自らの望むほうに機能するべきなのです。

 

高須:ひとりにつき3、4つの異なるコミュニティに所属してみるのもいいのではないでしょうか。空手や剣道を習うとしたら、やはり厳しいルールの道場に通ったほうがいいだろうし、何か新しいものを生み出したいなら、なるべく自由なコミュニティに加わったほうがいいですよね。
たとえば、チームラボの場合、もし大きなチームを編成するときは、しっかりとルールを作り、チャートを綿密に予測し、きちんと計画を立てる必要があります。主観で結果が決まるような、予測しづらいものを小さなチームでやる場合は、「まずはやってみよう」となります。けれどもそのどちらが良い方法かどうかは、比べようがないですよね。それぞれの良さがありますし、どちらもうまく機能している。

 

ミッチ:本当に作りたいものがあれば、そのために最適化された構造のコミュニティを作れば良いんです。

 

高須:どういうルールでコミュニティを作ればいいのか迷ったら、その判断基準は「好きかどうか」ですね。自分が好きになれるのを選んだほうがいい気がします。順番的には、まず「とにかくやってみる」というのが最初で、次に「好きかどうか」。最初のうちは何も知らないじゃないですか。それを何回かやるうちに馴染んできて、だんだん好きになって、その周辺に関連するさまざまなことも好きになる。そういう理屈がハッカースペースにも適用できると思います。

 

ハッカースペースは理想的な「教育」の場所

 

WORK MILL:まだ国内のハッカースペースは数えるほどで、なかなか理解が広がっていないように思えます。日本での可能性についてはどのようにお考えでしょうか。

 

ミッチ:日本の現状を考えると、もっとハッカースペースが必要なのではないでしょうか。ハッカースペースは好きなことを探求し、挑戦し、成功よりむしろ失敗のほうが多くを学べることを学び、知っていることを教えあうところ。つまりは教育なんです。そしてそこからはとてつもなく「クールなモノ」が生み出される。だからこそ、ハッカースペースは行政や企業がトップダウンでも作るべきだし、コミュニティはハッカーたちがボトムアップで作り上げていくべきだと思います。

 

高須:都内にある「TOKYO Hackerspace」を例に挙げると、設立当初の渋谷、白金台から現在の中板橋に移転したことが今後の成功にも繋がっていくのではないでしょうか。僕は世界中のハッカースペースを訪れていますが、そのほとんどが「ダウンタウン(下町)」と呼ばれるようなエリアにあります。中心街ではないから家賃や物価も比較的安く、貧乏な学生やアーティスト、外国人や移民も多くて、文化が多様なんです。ノイスブリッジもサンフランシスコのダウンタウン寄りですよね。もしハッカースペースがタイムズスクエアにあったら、問題が起きるんじゃないかな(笑)

 

ミッチ:実際には、とあるハッカースペースがタイムズスクエアにはあるんだけど、確かにノイスブリッジとはずいぶん違うね。

 

高須:中央線沿線の高円寺や阿佐ヶ谷なんかもそうだけど、そこにいる住民たちはハッカー文化と似たようなものを持っている気がします。多様な住民がいて、厳格なルールの代わりに新たな方法をとっている。

 

ミッチ:ビジネス街にあるハッカースペースはかなり組織化されていて、既存のコミュニティをよりよくするために働きかけていますね。いずれにせよ、ハッカーコミュニティは場所がどこであれ、よりよくしようと周りに働きかけるものなんです。

 

WORK MILL:ところで、ミッチさんはずっと笑顔で、優しそうに話されますね。そういった人間性こそがコミュニティを形成するのにとても重要なのではないかと感じています。

 

高須:まさにそうですね。『伽藍とバザール』にも「オープンソースプロジェクトを作りたいなら、みんなからコイツと一緒に何かしたいと思われるような人でいるべきだ」と書いてあるんです。オープンソースに関するもっとも古い書籍にも、「オープンソースの成功には、『オープンかどうか』と同様、『リーダーがいいやつかどうか』が重要。みんなが『この人と何か一緒にやりたいと思わせる』ことが大事」と書いてあります。ミッチさんみたいな人がコミュニティにいるのは大切ですよ。

 

ミッチ:ありがとう。笑顔は万国共通ですからね。

 

テキスト: 大矢 幸世
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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