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未来を担う若者の「はたらく」とは ― ミレニアム起業家 椎木里佳、宮島衣瑛

今や、仕事や起業は「大人だけができること」ではありません。大学生が在学中に起業することは珍しくなく、それが世界的な大企業に成長する事例も存在します。ここ数年では高校生実業家の活躍も注目されるようになりました。

  10代の若者たちはこれからの働き方について、どのような考えや価値観を持っているのでしょうか。共に高校生の頃から自身の事業を切り拓いてきた椎木里佳さん、宮島衣瑛さんをお招きして、「仕事とは、はたらくとは」というテーマの下、対談をしてもらいました。その模様を、前後半にわたってお送りします。

前編では、仕事を始めたきっかけや今後の目標について、おふたりが赤裸々に語ってくれています。未来に向かって突き進む10代の本音の中から、あなたの「はたらく」を見直すためのヒントが見つかるかもしれません。

見返したいヤツらがいたから、踏み出した

ー宮島衣瑛(みやじま・きりえ)
1997年生まれ。地域貢献型イノベーター。2013年5月より、地元である千葉県柏市で小中学生向けのプログラミング道場「CoderDojo Kashiwa」を主催・運営。iOSアプリやWebアプリケーションの開発も行っている。TEDxKids2014スピーカー。現在、学習院大学文学部教育学科1年。

宮島:はじめまして。宮島衣瑛と申します。僕は高校1年の春から、地元の千葉県柏市で「CoderDojo」というプログラミング教室を主催しています。今では県内の他の市や町にも教室が増えました。仕事でアプリを作ったりもすることもありますが、「プログラムを書くこと」よりも「プログラミング教育を広めること」に重心を置いて活動しています。

椎木:じゃあ、あれだ。「Life is Tech !」(中学生、高校生がプログラミング、デザイン、アプリ開発を学ぶITキャンプ・スクール)に近い感じですか?

宮島:そうですね。「Life is Tech !」は中高生を対象としたプログラミング教育を領域としていますが、僕ら「CoderDojo」はもう少し下、小学校の中~高学年を対象としています。

ー椎木里佳(しいき・りか)
1997年生まれ。株式会社「AMF」代表取締役社長。女子中高生向けのプロデュース事業などを手がけ、株式会社TOKYO GIRLS COLLECTIONの顧問、タグピク株式会社の戦略顧問にも就任。現在、慶應義塾大学文学部1年。2016年2月には、Forbes ASIAが選定する「30歳以下の世界が注目すべき30人」に選出される。2016年6月16日に、新著『大人には任せておけない!政治のこと』(マガジンハウス刊)が刊行予定。

椎木:では、私の方も簡単に自己紹介を……はじめまして、椎木里佳です。高校在学中に起業したので、これまでは“女子高生社長”という肩書きでいろいろメディアに出させてもらっていました。事業内容としては、全国から約70人の女子中高生を集めて「JCJK調査隊」を組織し、彼女たちの意見を生かしながらマーケティングリサーチ、ブランドや商品開発などを行なっています。

宮島:存じてます。椎木さんは、僕ら世代のトップランナーですから。

椎木:いやいやいや! そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、“女子高生社長”という肩書きが取れたここからが勝負だと思っていて。女子中高生をフックにしたプロジェクトは続けつつ、今はアジア圏内での事業展開も視野に入れて、ECサイトや自社での商品開発も検討しています。

WORK MILL:宮島さん、椎木さん。お忙しいところお集まりくださって、ありがとうございます。今日は「はたらくことへの価値観」というテーマを軸にして、いろいろとお話を聞かせてもらえたらと思っています。まずは、おふたりが仕事、事業を始めたきっかけを教えていただけますか。

椎木:私の事業を始めたきっかけは……ちょっと子どもっぽくて恥ずかしいんですけど、「見返したいヤツがいたから」です。中学生の頃、当時付き合ってた元カレの友達に、別れた後私の悪口をSNSで書き込まれたことがあって。「お前ら、私の何を知ってんの?」ってすごく腹が立って、それで彼らを見返したいと思ったんですよ。

宮島:そこから、どうして起業に?

椎木:見返す方法をいろいろと考えたんですけど、最終的にはデカいことを成し遂げて「あの時に椎木と仲良くしておけばよかった」と言わせたいなって(笑)。実業家である父の影響もあって、もともと「早く働きたい」とは考えていたんです。「じゃあ、中学一年生から夢だった起業を、いましちゃえ」って。

宮島:「見返したい」って、結構大きなモチベーションになりますよね。僕は、幼稚園児の頃から「レゴ®スクール」(レゴ教材で遊びながら学び、子どもの能力を伸ばす教室)に通っていました。そこが中学3年で卒業になるから、一緒に通っていた同学年のメンバーたちと「卒業しても何かやろう」って話になったことがあって。でも、話し合いの中でいろいろとゴタゴタがあって、僕は途中で企画から抜けてしまったんです。その時に「どこかであいつらを見返してやりたいな」って思ったんですよ。

椎木:じゃあ、私と同じだ。

宮島:そうなんです。その頃にタイミングよく「CoderDojo」立ち上げに参加しないかと誘いをもらったので、「じゃあ、ちょっとやってみるか」と。正直に言うと、かなり見返せているんじゃないかなって思ってます。子どもっぽいなとは思いつつも。

伝説になりたい/地元の教育に貢献したい

WORK MILL:おふたりは高校生の頃からご活躍されていましたが、いまはどんなことを目標としていますか。

椎木:直近の目標としているのは、最年少での東証マザーズ上場です。今のところ、女性の最年少が37歳で、男性が25歳なんですよ。15歳から上場目指して会社やってるんだから、やっぱり25歳の方を塗り替えたい。それも、24歳ギリギリの更新じゃつまらない。できれば、大学在学中の上場を目指したいですね。その方がキャッチーだし、記憶にも残るかなと。

宮島:「上場したい」という気持ちはどこから来ているんですか?

椎木:伝説になりたいからです。

(一同笑い)

椎木:いや、笑いごとじゃなくて! 私は大真面目に、伝説になりたいんですよ。「最年少上場」目指してるのも、わかりやすいシンボルがあった方が伝説に近づくんじゃないかな、と思ってのことですし。

宮島:いつから「伝説になりたい」って思ってましたか?

椎木:小学校低学年くらいからかな。あの頃から伝記をいっぱい読んでいて、そのうち「ここに載るような人間になりたい」って思うようになり……最近までそう思い込んでいたんです。そしたら、先日母から衝撃の事実を聞かされて。私が伝記を読んでいる時に、母は「里佳もこういうところに載れる人になったらいいね」と何度も私に刷り込んでいたようで……これって一種の洗脳ですよね?(笑)

宮島:お母さん、策士ですね。でも、そのおかげもあって今の椎木さんがいるんだから、素晴らしい教育効果だったんじゃないかな。

椎木:でも、なんかまんまと乗せられたみたいで悔しいんですよ!

宮島:椎木さんは僕らの世代で、グローバルに評価されている方の代表格と言ってもいい存在だと思います。一方で、僕はどちらかというとローカル思考で。「地元で何ができるか、何を変えられるか」ってことをずっと考えています。だから、椎木さんみたいなデカい目標はないんですよね。

椎木:直近で目指しているラインはあります?

宮島:ちょっと先のビジョンになりますが……教育業界やプログラミング業界に対して、「こうなったらもっといい世界になるな」と思ってることはたくさんあるんです。それらを自分がコミットすることで、すっきりと解決に導けたらいいなと思っています。そのために、これから数年間は勉強と研究に力を入れていきたいですね。

大学は何のために行っている?

WORK MILL:今年の4月に、おふたりとも大学に進学されましたね。すでに社会で立派にお仕事をされているおふたりですから、周りから「大学行く必要ある?」と言われることはありませんか。

椎木・宮島:よく言われます(笑)

椎木:私は小さい頃から付属の学校に入れてもらっているので「大学まで卒業しなかったら申し訳ない」って想いがあります。大学に進学したのは、私にとってのケジメなんです。なんですけど……つまんないんですよね。

宮島:何がつまらないんですか?

椎木:「何が」と言うか、全体的に面白いものがなくて(笑)。入学する前、YouTubeでスタンフォードとか海外の大学の授業の様子とか見てて「大学めっちゃ楽しそう、早く行きたい!」ってワクワクしてたんですけど……いざ行ってみたら、思っていたものと全然違くて。

宮島:どういった部分に、違いを感じてます?

椎木:授業が型にはまっていて「毎日これをやっていればいい」って感じが伝わってくる。でも中国語の授業は楽しいですね。これから必要そうな、新しい知識を吸収できる場なので。宮島さんは、大学楽しいですか?

宮島:なんか申し訳ないですが、僕はすごく楽しくて。大学への進学理由も明確で、「教育学、プログラミング教育についての知見を深めたい」と思っていたからです。高校の3年間は理論より実践のフェーズで、現場で60回以上のワークショップをやってきました。大学に入って、初めて教育学的な視点から自分の活動を振り返ってみると、「このやり方は間違っていた」「この考え方は正しかった」って、理論的な答え合わせができるんです。それが、すごく楽しいし、充実しています。経験則が学問によって洗練されていく感覚がありますね。

椎木:うらやましいなぁ。

宮島:でも、つまらない授業もたくさんありますよ。中でも、必修で取らなきゃいけない情報処理の授業がホントにひどくて。1人1台ノートパソコンを与えられて、「まずはパソコンを開きましょう」「次に電源ボタンを探しましょう」みたいなレベルから授業がスタートするんです。

椎木:それはあり得ない! 

宮島:先生は「シフトキーを押しながら文字を打つと大文字になる」「TABキーで次のフォームに移動するのは上級者向け」なんて教えていて、僕は常時「ハァ?」って顔をしてます(笑)。時代遅れも甚だしいと言うか「大学でこんなレベルのIT教育をやってたんじゃ、そりゃ日本でIT人材なんか育たないよな」って痛感しましたね。ただ、同級生たちのなかにはほぼはじめてちゃんとパソコンと向き合う子たちがいるのも事実です。そういう子たちにとっては発見の連続なんでしょうが、それを必修でやられるとちょっと困りますね。

「今が楽しければいい」じゃ、もったいない

WORK MILL:同年代の友人たちは、将来の仕事のことや「はたらく」ということについて、どんな風に考えているように感じますか。

椎木:うーん…周りはまだ、真剣に考えてない気がします。なんとなくですけど、「今の感じが一生続けばいいな」と思っている人が多い。将来について考えるのを避けているのか、とりあえず「今が楽しければそれでいい」って空気が濃くて。私は「私立の大学まで行かせてもらって、何にでも挑戦しやすい恵まれた環境下にいるのに、なんかもったいないな」と感じます。

宮島:「もったいない」って感覚、すごく共感します。椎木さんもそうだと思うんですけど、周りから漠然と「すごいことをやってる人」って見られることが多くて。別に、僕自身はそんなにすごいことをやっているつもりはないし、「キミもやろうと思えばできることだよ」って言うんですけどね。やればできることがたくさんあるのに、やる前から「それは違う世界の人たちのこと」って決めつけてる人が結構いて、それがすごく「もったいないな」と。

WORKMILL:学校の同級生と、自分の仕事の話をすることはありますか。

宮島:あまりしなかったですね。

椎木:私も、学校で仕事の話をすることはほとんどありませんでした。聞かれないし、あんまり興味も持たれないですね。

WORKMILL:同世代と仕事を一緒にすることはありますか。

宮島:僕は地元で同世代のクリエイターを集めたチームを作っていて、そこで仕事をすることがあります。僕以外にプログラミングできる子が2人くらいと、他にはDJや3DCGデザイナー、動画の撮影や編集の技術に長けてるカメラマンがいて。たまたま同じ時期に同じ地域に、価値観が共有できる仲間がいたことは、本当に運がよかったなと感じています。1人では実現できなくても、チームでならできることって、たくさんあるんですよね。

椎木:私の方は、会社に同世代のインターンシップ生が10人ほどいます。タイプとしては、いわゆる「意識高い系」の子が多いかな。彼女たちとは真面目に仕事の話をすることもありますし、応援してくれます。


前編はここまで。後編は「大人との接し方」「ロールモデル」「就職について」など話題に広がり、さらに盛り上がった内容になっております。更新をご期待ください。

テキスト: 西山 武志
写真:岩本 良介
   ※宮島衣瑛さんの仕事風景のみご本人提供