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コワーキングスペースを維持発展するために不可欠な3つの要素

 

前編の記事ではコワーキングスペース誕生までの経緯について、歴史をひも解くヒントが隠されている書籍を元に考察を行い、歴史的に見ても理想的な常設のネットワーキングの場としてコワーキングスペースが次々と生まれるまでを解説しました。順調に会員数を伸ばして安定的に発展するコワーキングスペースもあれば、その一方で豊かなネットワーキングの場としてなかなか活用されず、閑散として発展せずクローズに至るような淘汰もおき始めています。

 

実際に筆者がいくつかのコワーキングスペースをフィールドワークする中で、コワーキングスペースが豊かなネットワーキングの場として維持発展するためには、以下の3つの要素が重要であることがわかってきました。

 

・記事前編_社会背景と歴史から紐解くコワーキングスペースの変遷

 

ー31 VENTURES KOIL

 

 

1. 関心のエネルギー

コワーキングスペースで働くコワーカーの中心は、フリーエージェントとして定義されるひとりもしくは少人数で起業する人々です。大きな組織に属さず独立して働くにあたり、他者と交流することによって寂寥感を解消すると同時に自らのプロジェクトやビジネスの励みや弾みを得ています。

 

その際に大きな意味を持つのが、お互いに対する「関心のエネルギー」です。自分が進めているプロジェクトを周りの人がなんとなく知っていて、次のアクションを言葉にしてくれる。「君のやっていることに価値があるよ」という励ましはもちろんのこと、「難しいね」という意見でも、関心をもってくれるだけで事業立ち上げの大きな力を得られるといいます。もちろん関心を得るためには自身の事業についてしっかりと説明できることが重要であり、決して単純なプロセスではありません。

 

実際に筆者自身もコワーキングスペースを定期的に利用しながら、周囲のコワーカーたちにヒアリングを行い、コワーキングスペースを利用する主だった理由がいくつか見えてきました。そこには、独りで仕事をしているとだらけてしまうため緊張感を求めている、迷った時の先延ばしを防ぐための相談相手を求めている、といったように「お互いに対して関心を持ちながら、自分たちの領域でそれぞれ頑張っている」姿があります。

 

このことを促進するために、定期的に利用者のビジネスの内容を共有するビジネスミーティングを開催するコワーキングスペースもあります。数名のコワーカーが自身の事業についてプレゼンテーションを行い、聴衆として参加しているほかのコワーカーとの意見交換やアドバイスを得ることを目的とするもの、見本市のような形式で一度に多くのコワーカーたちが出展して事業を紹介しあうものなど。月次、年次といった定期的な頻度で開催されることが多くみられます。
これはまさに前編で紹介したボストンの企業者たちによるフォーラム型のネットワーキングそのものであり、事業や人脈の幅を広げるために現在もなお価値のある交流の場であるといえます。

 

普段の対話はもちろん、このようなイベントなどを通じてコワーカーたちがお互いの事業や人となりについて知り、「関心のエネルギー」で日常的に場を満たせるか。このことがコワーキングスペースの成否を分ける大きなポイントであると考えます。

 

 

ーお互いのビジネスを知ることで、メンバー相互の認識と親交を深め、場における関心のエネルギーが高まっていく

 

 

2. 互恵意識

お互いへの関心に加え、コワーキングスペースが豊かな場になるためには、互恵的な行動を通して信頼関係を構築できる人、また自分で場づくりに積極的に関与できる「投資家的な利用者」が常態的に必要です。投資家的利用者は利用料金を払いながらも、その場のつながりから生まれるコミュニケーションやコラボレーションの可能性を積極的に広げる行動をとります。

 

一方、利用料金を払ったのだから「何をしてくれるのか」または「使うのは当然の権利だ」と個人の使い勝手だけを主張する「消費者的な利用者」が大勢を占める場合、同一の場を共有しながらも利用者間での情報の流通は極端に落ち、コワーキングスペースの価値が大きく損なわれます。

 

実際にとあるコワーキングスペースで私が目にした光景があります。一部の利用者が特定のスペースを毎日常に占拠していました。その場所はコワーキングスペースの中央付近で、もっともくつろげるソファーがある場所。共有スペースであるこの場所を、まるで自分たちのオフィスであるかのように我が物顔で振る舞っていました。威圧的な雰囲気を醸し出す彼らに対し、他のコワーカーたちは距離を置き、彼らと交流しているシーンはほとんど生じません。しばらく経った後で最終的には運営側から注意が入り状況は解消に向かいましたが、コワーキングスペースの雰囲気と価値を一時的に損なうこととなりました。

 

前編で紹介した『ツイッターノミクス』著者のタラ・ハント氏は、SNS上のソーシャルキャピタルのありかたを、ウッフィーという仮想通貨を用いて表現しています。質問に対して親切に答えたり、周囲が喜ぶ情報やアイデアを提供したりすると、それらを受け取った人々のそれを受け取った人々は提供者に恩義を感じ、「彼/彼女の言うことなら」とその願いや提案を受け入れやすくなる、というものです。
このことは『フリーエージェント社会の到来』著者のダニエル・ピンク氏も、同書の中で「あなたがいつか力になってくれると思うから、いまあなたの力になろう」とこのような行動様式を表現したうえで、以下のよう記述しています。

 

「本当の力は、独り占めすることではなく、分かち合うことから生まれる。情報を欲しがるだけで、自分は何も提供しようとしない人間は、相手にされなくなる。対等の人間同士の関係とは、そういうもの。他人の血を吸っているだけだとわかれば、その人間は追放される。」

 

こういった意味でも、コワーキングスペースはSNSが現実の場に現れた場所とも表現できると考えられます。

 

 

ー筆者(写真右)も発起人の一人となり、会員として利用しているコワーキングスペースのメンバー交流会を運営

 

 

3. 場の秩序と秩序を保つ役割

利用者によってさまざまな価値が交換される過程で、コワーキングスペースに「場の秩序」とも表現できる価値基準が蓄積されていきます。どんな多様性をもったコワーキングスペースなのか、また利用者にはどのような行動が奨励されるのか、などといった無形の情報が日々蓄積されていき、コワーキングスペースの個性を形成していきます。

 

また、その秩序が保たれていることを見守る役割が必要になります。利用者の交流を促したり、多様性を把握してマッチングの中継役になったりするだけではなく、新規利用者がスムーズにコミュニティに入れるような気配りをするような役割です。

 

この役割はコワーカーひとりひとりが少なからず果たしていくことになりますが、あまり利用者に過度の負担がかからないように配慮することが大切です。とあるコワーキングスペースでは創業者がこの役割を積極的に果たしていたのですが、多くの時間を新規利用者との価値基準の共有に費やした結果、本人の仕事が回らなくなってしまったというケースがありました。創業者本人が理想的な職場を得るために開設したにも関わらず、そのコワーキングスペースは最終的には閉鎖してしまいました。

 

このため、利用者のほかに場の秩序を守るための専任のスタッフがいることが望ましいといえます。受付スタッフがその役割を担うケースや、主宰者・創業者から委託を受けてこの役割を果たすケースなどさまざまですが、秩序を守りながら利用者のネットワークをつなぐハブとしての機能を果たす人がその場にいることが、コワーキングスペースにとって極めて大切な要素です。

 

ー場に蓄積された秩序を維持することに加え、コワーキングスペースに集うメンバーの多様性を把握してマッチングの中継役になる存在が重要

 

 

まとめ

コワーキングスペースのフィールドワークから以上の3つの要素を見いだしました。まだまだ限られた数のコワーキングスペースしか訪れていませんが、この3要素は国内外問わず共通した傾向であると実感しています。

 

一般的な組織人の感覚では、フリーエージェントの働き方への誤解や先入観が作用して、コワーキングスペースを「組織の秩序から外れた人が集まる混沌とした場所」のような見方で捉えられても不思議ではありません。しかし、独立して働く事業者だからこそ、むしろお互いへの関心や互恵意識が重要であり、信頼や秩序がそのネットワークをつないでいると言えます。

 

そういう意味でもこれらの論点は、いずれも一般的な企業組織においても極めて有益な示唆となるものばかりです。企業における組織人は、自身の仕事についてしっかりと説明する機会がない場合も少なくありませんし、お互いの仕事や個性についてそれほど強い関心を持たないこともあるのではないでしょうか。またセクショナリズムや部門間セキュリティなどで社内においても情報を出し合わず、部門同士が反目することも頻繁に起こります。また、企業理念や行動指針などが風化して時代に合わず、場の秩序が旧態依然としたままのケースもありますし、場づくりについて妙に冷めた対応がとられるケースも多く目にしてきました。

 

コワーキングスペースでは、それぞれが全く別の仕事をしているにも関わらず、ひとりひとりが当事者になって場づくりに貢献し、お互いの仕事を高めあいながらそれぞれの仕事を遂行する姿があります。経済が停滞し閉塞感のある職場環境を打破する重要なヒントが、コワーキングスペースにはあるという確信のもと、今後もコワーキングスペースの研究を継続していきたいと考えています。

 

 

テキスト:遅野井 宏
写真:loftwork、大須賀 芳宏
イラスト:野中 聡紀

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