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「好奇心にドライブをかける」エバンジェリストの流儀_日本マイクロソフト西脇資哲氏

WORK MILL編集長の遅野井が、気になるテーマについて有識者らと議論を交わす企画『CROSS TALK』。今回は日本マイクロソフト業務執行役員でエバンジェリストの西脇資哲さんをお迎えしました。

前編では、好奇心にドライブをかけ、興味を持ったことに対して一気にアクセルを踏む、西脇さんの「勝負師」としての姿が垣間見えました。後編ではその価値観を深掘りしながら、日本企業の課題、ワークプレイスや働くことに対しての考えも伺います。

 

・記事前編_「どんな人にもチャンスはある」SNS時代の働き方_日本マイクロソフト西脇資哲氏

 

アクセルを踏んでぶっちぎれば、会社への貢献にもつながる

遅野井:対外的な活動にポジティブフィードバックをもらいながら、自分の好奇心の赴くままにどんどんドライブをかけていくと、一方で会社の上司や同僚から「あいつ、何やってるんだろう?」と冷ややかに思われかねない気がします。そういった軋轢への対処方法や根回しというか、どういうふうに折り合いをつけていけばいいのでしょうか。

 

―西脇資哲(にしわき・もとあき)日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員)。1969年岐阜県出身。1996年日本オラクルに入社。マーケティング、エバンジェリストなどで活躍。2009年マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。Microsoftの製品・サービスのみならず、「ドローン×IoT」や『エバンジェリストスクール!』(TOKYO FM)で乃木坂46の若月佑美とパーソナリティを務めるなど、広い範囲にまたがるエバンジェリストとして活動中。

 

西脇:僕の場合、どんなチャレンジであっても、最終的には会社に貢献できると考えています。少なくとも不利ではない、優位に働くはずだと捉えているんですよね。ドローンに関しても、先ほどは2009年に購入してから2015年までは回収できなかったとお話ししましたけど、実は2011年にマイクロソフトのイベントで一度ドローンを飛ばしているんです。イベントの参加者はやはり「すごい!」と好反応をくれたわけです。そこからしばらくして2017年、マイクロソフトがドローンのシミュレータを公開したんですね。マイクロソフト本社ビルをドローンで撮影した様子も公開して。それで、本社ビル近くにあるワシントン大学の人から「『マイクロソフト ドローン』で検索かけたら『西脇資哲』と出てくるんだけど、詳しい話を聞かせてもらえないか」と問い合わせがあって。本社から「西脇さん、ちょっと対応お願いします」と呼び出されてね。結局、突拍子のないものをやらない限りは、何らかの形で貢献できるはずなんですよ。マイナス貢献でない限りは。ただし、「がんばれば」なんですよ。中途半端でやめてしまったり、3番手4番手くらいに留まったりするようでは、望むような貢献は得られない。

ー遅野井宏(おそのい・ひろし)WORK MILL編集長
ペルー共和国育ち、学習院大学法学部卒業。キヤノンに入社し、レーザープリンターの事業企画を経て事業部IT部門で社内変革を担当。日本マイクロソフトにてワークスタイル変革専任のコンサルタントとして活動後、岡村製作所へ。これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、さまざまな情報発信を行う。WORK MILLプロジェクトリーダー、ウェブマガジン・ペーパーマガジン 編集長。

 

遅野井:トップでぶっちぎって、他の追随を許さないぐらいにやりきる、ということですね。

 

西脇:そこまでいけば大丈夫ですよね。ほら、最近もうひとつ、BS TBSで『御朱印ジャパン』という番組がスタートしたじゃないですか。あれも番組MCとして出演しているんですけど。

 

遅野井:そうでしたね。正直、意外でした。

 

西脇:ですよね(笑)「御朱印集めてる」なんてソーシャルでは一言も言ってませんでしたからね。自分の中でゴールがあって、まずは「関東首都圏の神社はほぼすべて回ろう」と。それを達成したら、今度は「全都道府県の護国神社を回ろう」と、実際にすべて行ったんです。御朱印を集めている人は他にもいて、だいたい数百個に到達している人はいるから、「じゃあ1000個」と。そうやって「よし、ここまで到達した人はいないだろう!」と思えて、ようやくアピールできる段階に進むわけです。番組を企画するにしても、「西脇? 誰、それ?」みたいに言われても、「御朱印といえば私の右に出る人はおそらくいないですよ」という前提があるから、晴れて番組の中でも「日本マイクロソフト エバンジェリスト 西脇資哲」として登場できる。そうすれば、会社にも貢献できますよね。

 

遅野井:御朱印に目をつけたのには何か理由があったのですか?

 

西脇:2020年の東京五輪に向けて、やはり海外からの観光客がますます増えますよね。そう考えたときに、やはり「日本にはこんな伝統文化がありますよ」といろいろと語れたらいいじゃないですか。それで御朱印を入口に、若い世代の方にも神社仏閣、歴史、文化、作法などに興味を持ってもらえたらいいなと思ったんです。2016年の時点ではまだ新宿の紀伊國屋書店に「御朱印本コーナー」はなかったんですよ。けれども2017年1月に突如設置されていて、「あ、今年だな」と思って一気にドライブかけたんです。

 

遅野井:やはりリサーチを欠かさないんですね。

 

西脇:かなりアンテナは張っていますよ。エバンジェリストとして、アンテナと投網は欠かしません。本屋さんに行って、何も買わないときでも書籍の陳列や売れ行き状況を見ます。メルカリとかヤフオク! とかも買わずに何がエントリーされているかを見ますね。ZOZOTOWNとかファッション系を見るだけでもトレンドがすごくよくわかります。ガジェット系やIT系なら、やはり海外の情報がメインになりますが。

 

遅野井:個人売買って、まさに今の消費者のニーズがストレートに出ていますからね。ビビッと来たものに、ある程度の市場性を加味して判断するわけですね。ただ、西脇さんご自身は、興味を持ったものに対してアクセルを踏み込んだことで、さまざまなものを得てこられたと思うのですが、やはり、なかなかアクセルを踏むのには勇気がいります。どうしても環境的にそれが許されない人もいるかもしれません。

 

西脇:おそらくアクセルを踏めない人は車の場合と同じで、運転に自信がないからなんですよ。ハンドルを握ったとき、30km/hなら運転できるし、制御できるけど、100km/hでは手が震える。それはつまり制御できない……知識不足なんです。ただ、今の時代は投資をしなくても、勉強はできるんですよね。ドローンを例に挙げると、ドローンを買わなくてもインターネットでマニュアルは読めるし、ドローンに関する論文も読める。ソフトウェアのコードも公開されているし、YouTubeで飛行動画も観られます。やはり、何も勉強しないで無知なまま、自信もつけずにアクセル踏むのは危険ですよね。私だってドローンに関しては、当時公開されている動画はほぼすべて観たし、ドローンの仕組みや原理、挙動、メーカーマニュアルなどもすべて読みあさりました。これはあくまでアクセルじゃなくて、その前の段階に知識として吸収すべき内容なんです。乃木坂46もそうだし、御朱印もそう。おもいきりアクセルを踏めるようになるまで、めちゃくちゃ勉強するんです。

 

本業のマイクロソフトでもそうですよ。自社のプロダクトやサービスは、会社からの支給があってもなくても、まずは自分で予約して、発売と同時に購入して、しっかり勉強して自信を持って伝えられるようにするんです。そうすると、おもいきりアクセルを踏んだときにしっかり制御されて、ハンドルがブレることはありません。基本的なことですけど、知識武装は重要だなと感じています。

 

遅野井:しかもその知識量は生半可なものではないですよね。

 

西脇:やっぱりなんか、負けたくないんですよね。マイクロソフトでもそうだし、新しい領域でもそう。でも、中途半端で終わったものもあるんですよ、途中であきらめてしまって。

 

遅野井:飽きてしまうこともあるんですか?

 

西脇:モチベーションをどう維持していくかどうか、ですよね。自分の傾向としては、みんながやりはじめると飽きるんですよ。メジャーになって、自分がエバンジェリストとして、いてもいなくても関係なくなると、僕じゃなくてもいいかな、って。

 

遅野井:なるほど。あくまで先駆者であれ、ということですね。

 

日本企業に必要なのはストーリーテリング

 

遅野井:先ほどドローンを飛ばしてくださったのもそうですし、御朱印もそうだと思うんですけど、西脇さんが表現されているのはまさに体験、エクスペリエンスですよね。みんなが「わぁ!」と驚いたり、「すごい!」と思わせたりするような「体験によるワクワク感」が、おそらくエバンジェリストとしての活動の中核にあるのではないでしょうか。

 

西脇:そうですね。楽しさや魅力、ワクワク感、「それ、やってみたい!」という気持ちを相手に与えなければ、エバンジェリストではないと思っています。ですから何事も具体的に見せるようにしているんですよ。いちばんそれに近いなと思うのは、YouTuberのヒカキンさんですよね。なんでも自分でやってみせているじゃないですか。自分でいろんなことをやって、失敗したり転んだり爆発したり、大変なことになったりするけど、それが「楽しい!」「やってみたい!」と思わせている。これからは特に体験的なインフルエンスを意識しなければならないと考えています。

 

遅野井:そう考えると、日本企業やトラディショナルな業界は特にそういうことは苦手ですよね。機能の良し悪しは語れるけど、体験を語れる企業はなかなか出てこない。

 

西脇:日本は「ものづくり」は得意だけど、「ものがたり」は下手なんですよね。モノは精巧・精密にできていて安全だけど、それを使った物語は作れていない。物語作りからはじめないといけないんですよね。それによって私たちのライフスタイルやワークスタイルがどう変わっていくのか……とイメージできるようなものでないと。

 

遅野井:私も今、エバンジェリストとして、「これからのワークスタイルやワークプレイスはこうなるんだ」とさまざまな場面で語る機会があるのですが、もっと体験をデザインしていかなくてはいけないんだな、と気が引き締まりました。つまり、ストーリーテリングですよね。

 

西脇:そう、物語はひとつじゃないんですよね。一人ひとりに異なる背景があって、楽しいと思えるポイントも違う。それを踏まえて、語り方やストーリーを変えて、そこにいる人たちがスッとその中に入り込めるような物語を提供していきたいと考えています。

 

オフィスには予期せぬ出会いがある

 

遅野井:西脇さんにとって、オフィスとはどんな場所でしょうか。

 

西脇:まず、マイクロソフトの文化としても「会議室にみんなが集まる」というのは前提としてありません。社員全員がデフォルトでリモートワークですから、決まった時間に満員電車に揺られて、みんな一斉に出勤して……というものはないんです。ですから正直な話、何か物理的にモノや郵便物が届くところ。書類処理をしなければいけないときに来るところ、と言ってしまうことも可能なんです。ただ、一方でオフィスというのは、普段会えない人と会える場所なんですよ。皮肉なことに、会社の外で活躍するようになればなるほど、会える人としか会わなくなるんです。

 

遅野井:あぁ、確かに。わかります。

 

西脇:アポイントベースで動くことになりますからね。ところがオフィスに来ると、カフェで「こんにちは」「おぉ、ひさしぶり」「はじめまして、先日入社した〇〇です」「おぉ、君が新入社員か!」なんて、別に用件があって行ってるわけじゃないけど、出会いがあるんですよね。あらかじめ予定された機会にはない人との交流ができるのはやはり毎回新鮮ですし、会社という組織にいるんだな、と安心感があるんです。ですから、オフィスがなくなることはありえないですよ。だからこそ、オフィスには居心地の良い空間であってほしい。インテリアも高級感があって、ゆったりしていて、ミーティングスペースも会話が弾むような雰囲気で、空調も効いていて……。

 

遅野井:つまり、ベースですよね。外で活躍する人にとっても、基地としての役割を果たしていく。そしてそこにはセレンディピティがある、と。

 

西脇:ほんとそう思うんですよね。これが、みすぼらしいカフェテリアで、空調も効いていなくて、薄暗いオフィスだったら、やっぱり会社にも行きたくなくなりますもん。「居場所ないし、ずっと外にいよう」って思っちゃいますから(笑)

 

遅野井:最後にもうひとつ質問です。西脇さんにとって、「働く」とはどういうことでしょうか。

 

西脇:あ、いい質問ですね。答え、用意してなかったな。うーん……働くと、めちゃくちゃ楽しいんだよなぁ。

 

遅野井:ずっと楽しいんですか?

 

西脇:前職のオラクルのときからずっとそうですね。どの仕事をしていても楽しい。

 

遅野井:「つらい」と思ったこともないのですか?

 

西脇:あんまりないですね……。大変だったことはあるし、苦難だったことはある。それこそ、「昔のIT企業」だった時代ですから、お客さんからガンガン詰められて、血尿出るまで仕事して……みたいなのはありましたよ(笑)。確かに、それは苦労しました。でも、楽しかったんですよね、極論から言えば。今の私の働き方で考えても、新しい人にどんどん会えるし、フィードバックを手にすることができるし、変化を起こすことができるので、めちゃくちゃ楽しいんですよね。仕事って、やっぱり目に見えると楽しいんですよ。今はもう、なんでも可視化できるじゃないですか。楽しすぎますよね(笑)そうだ、仕事って「自分を見えるようにすること」ですよね。

 

遅野井:なるほど。

 

西脇:自分のやりたいことや、自分の感情、思い、長所、魅力……なんかそういうものを形にしてくれているのかもしれない。自分自身ではなく、その仕事を通して、自分が何たるかを表してくれている。それが私にとって「働く」ということなんですね。

 

遅野井:その仕事を通じて、私たちも心を動かされているわけですね。いや、今日は本当にありがとうございました。

2017年8月8日更新
取材月:2017年5月

 

 

テキスト: 大矢 幸世
写真:岩本 良介
イラスト:野中 聡紀

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