REPORT

2016.01.29

”SEA DAY 01” 開催レポート 中編

様々な企業が新しい試みに挑戦するケースが増えている中で、誰もが直面するのが「0→1(ゼロからイチを生み出す)」という課題。
実際に「0→1」に取り組んできたスピーカーから、実践のために、私たちが「今」できることを伺いました。

Special Talk01

CSR事業で得た「気づき」

「『自分は価値のある人間だと思うか?』という問いに、『そう思う』と答えた高校生は、日本ではたったの7.5%だそうです。いまの社会は、若者にとって自分自身の価値を見出せるような希望のある社会ではない」と、話したのはアクセンチュア株式会社の市川博久氏。

アクセンチュア株式会社 市川博久氏
CSRの取り組みから得た3つの気づき

多彩なCSR事業

市川氏は、もっと社会のことを見渡したいという課題意識から、以下のCSR事業を社内で取り組み始めたそうです。

1、若者のニートや引きこもりの就労支援・就労教育

2、東北における若手企業家の支援

3、課題の可視化の仕組みとしての「LOCAL GOOD」プロジェクト

若者のスキルアップを促進してIT企業とのマッチングをしたり、高校生のキャリア教育の一環であるインターンシッププログラムを通して、早い段階から「働くとはなにか、生きるとはなにか」というマインドを醸成させたそうです。そして、「ニートや引きこもりの支援をしながら感じたことは、社会的弱者という側面に対して接していたが、この人たちの一部は社会を変えうる変革者となるのではないか」と感じたと言います。「こういった若者は膠着的な組織に対しても新しい風を吹かせてくれる」と述べました。

また、東北の若手企業家支援として、一般社団法人MAKOTONPO法人 TATAKIAGE Japanと共に、企業家の資金調達支援や事業計画のブラッシュアップに関わったそうです。

そして、もっと地域に根差した市民の人々を、こういった社会課題の解決に参加させるようにできないかと考え、取り組み始めたのが3つめの「LOCAL GOOD」プロジェクト。現在は横浜市などで実施されていますが、市民はスマホやウェブから、位置情報がセットとなったいろいろな地域の課題を、地図空間上に投じ、可視化することができるサービスを提供しています。資金的な支援のみならず、自分のスキルを市民に登録してもらい、地域課題の解決に向けたプロジェクトとマッチングできる仕組みも生み出しました。

こういった取り組みの中から、多様性の中からこそイノベーションは生まれることに気づき、本業にも取り込んでみたいと考え、「オープンイノベーションイニシアティブ」というチームを昨年の12月に、自社内に立ち上げたそうです。「日本企業の新規事業をオープンイノベーションで、多様なセクター、多様な企業と有機結合させて、新しいイノベイティブな事業を起こすお手伝いをするために立ち上げた」と述べ、横浜市とのオープンイノベーションに関わる協定など、すでに具体的に動き始めているうえを語って頂きました。

 

大切な仲間、そしてよき理解者

白い眼に耐えうるコアチームづくり

このように様々なCSR事業を通して気づきを得てきた市川氏ですが、組織内では「白い眼」で見られていたそうです。「会社には硬直化した縦割り組織があり、社内にも予告して通さないことにはイノベイティブな取り組みはできない」、「一人で新しいことをやるのは怖いものです。愚痴を言い合える仲間を身近に作り、周りの白い眼に耐えうるコアチームを作ること、社内にシニア(経営陣)のファン、つまり良き理解者を作ることが大事。また、社内に足りないなら、外に志をともにする仲間を作る。そして目先のビジネスでも成果を上げ続ける」ということを、自らの「気づき」として語りました。

そして、「目先のビジネスにきちんと取り組みながら「0→1」を生み出してきたが、「1→100」はまた別のフェーズ。目先の本業にきちんと取り組みながら、新しいことを100にするということをどうやって実現するか」、それが今直面している壁だと締めくくりました。

Special Talk02

シリコンバレーから学んだ「モノを売らない営業」!!

二人目の登壇者となった角野賢一氏は、「0→1」について、自身は「まだまだできていない、これからどんどん取り組んでいきたい」と述べた上で、自身の経験を通して「0→1」を生み出す際に大事なことを2つ、挙げました。「明確な1枚の画を持つこと」、「考えずに一歩踏み出す」ということ。そして、角野氏がこうした考えを持つようになったエピソードを紹介しました。

株式会社伊藤園 角野賢一氏
Google社のオフィスに「お~いお茶」を並べたい

シリコンバレーで見えた「明確な1枚の画」

14年前の入社当時、担当であった自動販売機の営業になかなか馴染めず、会社を辞めようかと思うこともあったそうです。そんな中、社内の海外研修制度が設けられることとなり、立候補した角野氏は、研修の審査に合格。「お茶の会社に入って、海外に行こうという人が少なかったんだと思う」と当時を振り返ります。

その海外研修の経験が評価され、6年前にサンフランシスコへ。海外での販路を確保するために、大手の流通ルートを押さえようと奔走するものの、そのままでは成果を出すことが難しいと感じ、従来の営業方法を変える必要性を意識するように。「無糖のお茶を飲む文化がないシリコンバレーで、お茶のブームを巻き起こす、なにかぶっとんだことをやりたい」と考えたそうです。

知人の紹介からGoogle社のオフィスに訪問した際、オフィスにあるフリードリンクの冷蔵庫を見た角野氏、そのとき、「明確な1枚の画」が頭に浮かびました。当時、冷蔵庫に並んでいるのは、アメリカの製品のみ、「ここに伊藤園の『お~いお茶』を並べたい」と、直感的に思ったそうです。「シリコンバレーで、企業のオフィスの冷蔵庫に伊藤園の製品を置くことで得られるメリットは3つ。売り上げが上がる、広告宣伝効果が期待できる、そして、『かっこいい』」。角野氏のモチベーションを高めたのは、この「かっこよさ」だったと言います。

「0→1」のために大事なこと

夢を語ること、一歩踏み出すこと

当時、IT企業に関わる知人が少なかったため、企業リストを作成し、片っ端から飛び込み営業を実施。しかし、どこの企業でも門前払いにあうことに。どうしたら受け入れてもらえるのかと、Evernote日本法人会長の外村氏に相談したところ、「プッシュ型の営業ではダメ。プルのマーケティングがある」と、日本型の営業スタイルがシリコンバレーには合わないことを指摘されました。そして、そこでアドバイスされたのが、「エンジニアと仲良くなれ」ということでした。シリコンバレーはエンジニアの街であり、エンジニアに認めてもらえれば、企業に受け入れてもらえる可能性が高い。

そこで角野氏は、エンジニアが集う、あらゆるネットワーキングイベントに参加し、ブースを作って、「お~いお茶」の試飲を提供してまわりました。試飲の提供を続けて、3ヶ月経った頃、「お~いお茶」に興味を持ってくれたエンジニアに、「このお茶は売れると思うけど、もっと製品を売りたいなら、こんな小さいイベントじゃダメだ。もっと大きいイベントを紹介してやる」と言われました。しかし、角野氏は「ノー」と答えました。そして、「大きなイベントでばら撒くのではなくて、あなたたちの会社の冷蔵庫に入れたいんだ。皆さんのオフィスで、『伊藤園』や『お~いお茶』という言葉が飛び交うようになってほしいんだ。そうしてブランドを根付かせたいんだ。」と、角野氏は自身の夢を強く語りました。これをきっかけに、エンジニアが協力してくれるようになり、シリコンバレーのオフィスに「お~いお茶」が並び始めることとなったのです。

その後、角野氏は、シリコンバレーで得た経験をもとに、プログラマーたちが短時間で技術とアイデアを競い合う開発イベントである「ハッカソン」から着想を得た、「茶ッカソン」というイベントのプロジェクトを社内で立ち上げています。

「できるだけ速く、世の中に良いインパクトを」というシリコンバレーの人々のファーストプライオリティが、いまの角野氏を突き動かす大きなキーワードとなっています。「不安やリスクを恐れてしまうと、なにもできない。『0→1』にとって大事なのは、とりあえずやってみること」と、新たな「0→1」への意欲を語りました。

Special Talk03

ローソンの健康事業

「私自身としてはあまり『0→1』を意識してやっているわけではないが、もともといた部署にずっと在籍していたら『0→1』ということは考えつかなかっただろう」。株式会社ローソンの鈴木一十三氏はそう話し始め、自らの異動経歴を語りました。

株式会社ローソン 鈴木一十三氏
ローソンの新ターゲットは「生活習慣病の予防」

異動の16年

「最初は店舗にいて棚をつくり、売り上げをいかに上げるかを考えていた。お客さんを見ていて、『コンビニでこういう買い方もできるのか』と気づかされた」と述べ、その後は本社での人事部を経験、そして、立候補してナチュラルローソン事業の商品担当になったそうです。さらに、中国・四国エリアの商品担当、震災時の救援物資の手続き役、内閣官房の国家戦略室に赴くなど様々な経験を経て、現在はホームコンビニエンス事業本部に所属しています。

ホームコンビニエンス事業本部では、コンビニの商品をお客様のもとに「持って行った」り、昼食の取れない工場に向けて「コンビニを」持って行ったり、老人ホームの「お菓子がない」というニーズを満たしたり、「コンビニエンスストア『に』行く」という概念を壊し、「コンビニエンス『が』行く」ことを実践しているそうです。

コンビニから実現する「バランス食生活」

「コンビニ行こう、ローソン行こう」をつくりたい

そして、次に鈴木氏が語り始めたのは生活習慣病の話。「生活習慣病の根元は食生活と運動。生活習慣をコントロールして肥満にならないようにする、ということをコンビニなら実現できるのではないか」と考えたそうです。そこで、「少し太ったなと思ったときに、『コンビニ行こう、ローソン行こう』となる世の中をつくりたい」と考え、最初に起こしたことが社内での定義付けだと言います。

ローソンの中にはたくさんの舞台があるが、自分たちが目指す形は何なのか。そして何を、誰を相手にするのか、といったことを整理しながら、「12000店舗あるローソンでできることって何だろう」と考え、たどり着いた形が「ミールソリューション」でした。「ちょっと食生活を改善したいな、ローソン行こう」となるような環境をつくるための新しい取り組みを行っていると述べました。

健康経営に向けて、はたらくうえでローソンができること

腹落ちして、健康に向かう

そして、それを具体的に実施した例が、600台のタクシーを所有する日の丸交通株式会社との取組み。日の丸交通の社長から「タクシードライバーは食生活が不規則になりがちで生活習慣病の方も多い。そうした方向けのヘルシーなお弁当をつくってほしい」と依頼されたのがきっかけだったと言います。当初はお弁当の開発を検討したそうですが、特別な1商品を開発しても取組みが一過性に終わってしまうため、コンビニで食事を買うことも多いタクシードライバーが継続して食生活を改善できる取組みを提案したそうです。

まずは糖尿病専門医を招き、メタボに有効とされる「糖質制限食」についての講義を受けてもらい、必要な知識をきちんと得て、食生活を見直そうという気持ちに「腹落ち」していただきます。

その上で、メタボに有効なローソンの低糖質パン(ブランパン)を買うとPontaポイントをプレゼントし、日々の食事の糖質を抑えていく、という取組みです。

ポイントをプレゼントする代わりに「勤務中に食べたものを報告する」ことをお願いし、「緩やかな強制」も働かせた、と語りました。

※日の丸交通株式会社の実践事例の詳細は、Meet up A-2レポートに掲載してあります。

「これからやっていきたいことは、まずは社員自身に健康になってもらうこと。そして、6000名のフランチャイズのオーナーさんにも健康になってもらうことで、店が健康になる。そうしてやっとお客様に健康を発信する。住民の方々に健康になってもらい、街ぐるみで健康になる、という世の中をつくりたい」と締めくくりました。

 

Special Talk04

CMFで世の中をより豊かに

Special Talk最後の登壇者は、岡村製作所の細谷。冒頭、細谷は「CMFをご存じでない方?」と問いかけました。半数以上の参加者が手を挙げた様子を見て、「CMFの認知度はまだまだ低いようですね」と、細谷はトークを始めました。

株式会社岡村製作所 細谷らら
イスのデザインからもわかる再生意識の高まり

デザインの現場で注目度が高まりつつあるCMF

「CMFとは、“Color”、“Material”、“Finish”の頭文字をとった言葉で、モノの表面材、そのテクスチャーに着目したデザイン用語です。このCMFという言葉が近年、デザイン業界で注目されてきている」と言います。

細谷はなぜいまCMFが重要になってきたと考えているのかを、事例を挙げて説明しました。まずは、携帯電話。以前は様々な形がありましたが、現在はスマートフォンという洗練された形に限られてきています。そんな中で、「私達がスマートフォンを選ぶ基準としているのは、カラーや手触り感といった表面のデザインではないでしょうか」と細谷は投げかけ、人の意識が「かたち(形)からかんじ(感じ)」へと変化してきていることがCMFと関係しているという考えを示しました。次にイス、車、カメラを例に挙げます。最近は、これらのパーツや色などをお客様それぞれの要望に合わせる必要が出てきたそうで、そのために、「CMFの考えをもってバリエーションを補うことで、多様化した需要に応えることができると考えている」と話しました。

多様化した需要によりCMFの必要性がみえてきている。細谷が最後に取り上げたのは、名作のイスたち。このイスのCMFを変えることによって、イスはリニューアルされ、同じイスから新しい価値が生み出されるというマーケティングが生まれていると言います。再生意識の高まりも、効果的に価値をよみがえらせる手法として、業界内でCMFが注目されてきた理由だと細谷は語りました。

さらに、「近年は機能だけではなく、五感をすべて使った感性価値に注目が集まっている」と話し、これを「機能+五感総動員の時代」と表現しました。気分転換したい時には、例えば空間の色という機能面だけではなく、手触り感、におい、味など、五感すべてを使いリフレッシュをすることが効果的であると考えられ始めたようです。

自身の行動を分析し「0→1」のための要素を説明

なぜCMFを社内に生み出すことができたのか

このように注目度が高まってきたCMFに率先して取り組むことで、「0→1」を生み出してきた細谷だが、「最初からイチを作り出そうと意気込んでいた訳ではありませんでした」と話しました。ではなぜ細谷がイチを生み出したのか。自身のこれまでの行動を振り返り、考えた理由は4つ。1つめは、「自分が丸裸だった」ということ。すぐに人に聞き、そのためにオフィス内を歩き回ることが多いという細谷。この行動により、自分の取り組んでいることが筒抜けであった、つまり自然とオフィス内に情報が発信されていたと言います。情報が発信されていたことで、おのずと情報も集まってきたのではないかと自身を分析しました。

2つめは、「今までやってきたことを捨てる勇気があった」こと。それまで取り組んできた様々な課題に手を出すことをやめ、CMFに集中するようにしていたそうです。3つめは「没入した」こと。それ以外のことをそぎ落とし、CMFだけに没頭していたことが重要だったと、当初の自身を振り返っていました。そして、4つめは「突き進むしかない」と考えていること。社内において、CMFに関して一番理解が深いのは自分だということに気付いてからは、自らが取り組み続けていくしかないと思っていると、細谷は話しました。

オカムラとしても、まだまだ取り組み途中であるCMF。これからもCMFに関する取り組みを突き進めていくことになりそうです。

 

 

Panel Discussion

「0→1」を実践するために必要なものとは

Special Talkの後は、遅野井をモデレーターに、パネルディスカッションを実施。「0→1」を実践する上でのポイントや、パネラーの皆さんが普段意識していることを伺いました。

パネラー同士の質問が飛び交う
大人の閉塞感を指摘する遅野井

「0→1」の妨げとなる閉塞感を打破するには?

市川氏:日本の現状として、「自己肯定感」をもって日々を過ごしていない大人が結構いる。それが子供にも影響する。大人の建前などではなく、自己肯定感を持って働いている姿勢を大人が子供に見せていくことが必要。

角野氏:閉塞感は、日本人の「謙虚さ」が原因の一つとしてあるのでは。アメリカで働いていたときは、とにかく褒めまくられた。一度肯定される経験を持つと、その「自信」がずっと続いて、堂々と主張ができるようになる。これからの日本でも、謙虚さといった日本独特の美徳は持ちつつ、ビジネスの場面など、必要に応じてモードを切り替えられれば、もっと良くなっていくのでは。

鈴木氏:私の場合は、基本的には「亜流」。企業としての大きな目標である集客に、自分のやりたいことを結びつけることで、自分の主張を通してきた。一人ずつ味方につけていく形。

 

CMFをやり始めた頃、具体的なビジョンはなかったと細谷

仲間を作っていく上でのポイントは?

市川氏:「丸裸」になることがキーワード。毎日、自分が何をしたいかを語り合う。ご飯に行く、といったベタなコミュニケーションの取り方でもチームビルディングにつながっていく。

細谷:明確な目標がなくても、「なんかやっているな」ということを周りに知ってもらって、徐々に浸透させていくこと。

鈴木氏:相手の熱い思いを聞き、私たちも熱い思いをもって、協力したいと思うこと。アイデアを提供したいという気持ちになること。

角野氏:「ノリ」を重要視している。私は、「こういうの、かっこいいよね」という思いが合う人と一緒に取り組むようにしている。

 

社内からの白い眼は常にあったと話す鈴木氏

これから「0→1」に取り組む方へメッセージを

細谷:自分が何者かを見つめてみてほしい。趣味など、これまで没頭してきたことを磨く。磨いた上で発信する。それが周りに伝われば、情報が勝手に集まってきて、次に進めるようになる。発信し続けることが大事だと考えている。

鈴木氏:私は日頃、面と向かった人と、常に何ができるかを考えている。打ち合わせやミーティングで、何ができるかを、面と向かってちゃんと言う人。そういった人が「0→1」を生み出せる。

角野氏:「やっちゃえ!」という気持ちを持って、ちょっと不真面目になることと、信じ続けること。日本人は真面目とよく言われるが、それでは「0→1」は生み出せない。社員が関わっていない人と関わりをもってみる、ご飯に行ってみる、周りを巻き込む。そして、反対されても信じてやり続ける。そういった取り組みが大切。

市川氏:「0→1」を生み出しやすい社会は、「失敗を許容していく社会」だと考えている。その社会の実現への1番の近道は、みんなで失敗をして、1つの失敗を小さく、目立たなくすること。みんなで小さなチャレンジから始めて、世の中を変えていきたい。

 

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