REPORT

2015.05.25

”SEA DAY 00” 開催レポート 前編

複雑化していく社会環境の中で、オカムラが「はたらく」を描く実践の場として開設した、OPEN INNOVATION BIOTOPE “Sea” 。
幅広いジャンルのスピーカー・イベント参加者と共に、ビオトープ的空間が持つ可能性について迫りました。

Opening Speech

「はたらく」を描く会社へ

オープニングスピーチには、今回のプロジェクトの代表である岡村製作所 大野が登壇。Seaという空間をつくり、このキックオフイベントに参加者が集まるか不安だったそう。「今日この場で、参加者の皆さんのたくさんの顔を拝見することができてほっとしていると共に、感謝感激です」と笑顔で話しました。

株式会社岡村製作所 ソリューション戦略部 大野 嘉人
株式会社岡村製作所 ソリューション戦略部 大野 嘉人

最もイノベーティブと呼ばれる街、  サンフランシスコ

挨拶も程々に、一ヶ月前に滞在したサンフランシスコの話題を、大野は切り出しました。「イノベーションとは何か」「なぜサンフランシスコでイノベーションが起きるのか」についてリサーチするため、急成長する企業や、多くのスタートアップ企業の話やプレゼンテーションを聞く中で、サンフランシスコの人々が多く口にしたのは、「イノベーションは日本では起きない、サンフランシスコだから起きるんだ」という言葉。

現地の人々が使う交通電子マネーや野球観戦、日本では未販売のテスラモーターズの新しい電気自動車にも試乗するなど、彼らがしきりに唱えていたキーワード“behavior”(行動)を実践した大野は、現地の様々なIT企業の先端オフィスも体感。一見すると公園のような緑地で憩いのスペースなのかと思いきや、イベントを行ったり、アイデアを惜しみなく出しあったりする、ワークプレイスとして設計された場であることに驚かされたとのこと。
「日本はすぐ、いくら儲かるのかといったお金の話になる。私たちは夢を追いかけているんだ。楽しいと思うことをやりたいんだ」と話すサンフランシスコの勢いに、大野は思わず納得してしまったそうです。

サンフランシスコでの経験を話す大野

 日本でイノベーションは起きないのか?

「そんなことはないですよね」と大野。「岡村製作所は長年、日本のオフィスづくりのお手伝いをし、日本の高度経済成長期を支えてきた。そのオフィスからイノベーションが生まれづらいということになってきた。新しいものを想像していく上で、我々はオフィス家具屋でありながら、オフィスという概念自体が古いのではないかという議論もしている。そういった意味で、今後のオカムラは、『はたらく』を描く会社になりたい」と、岡村製作所の目指すビジョンについて語りました。「オープンイノベーションビオトープSeaという場を使って、『はたらく』について考え、体験・検証・実践をし、それをもとにまた検討するというサイクルを、皆さんと共に回していきたい」。

TALK01

様々な課題解決のための新たな「循環」の場

「ここに集まった人は、皆働くということ、これからの日本の生産性、グローバル化の中どうなっていくかなどに何かしらの課題意識をもっているのではないか」と遅野井は投げかけました。ここに集まる多様性の中で、どのような関係性がここを起点として生まれていくのかを模索していきたいと、今回のカンファレンスの主旨を改めて説明しました。

株式会社岡村製作所 オフィス研究所 ワークスタイルリサーチャー 遅野井 宏
Seaのコンセプトを語る 遅野井

新たな場の形成に必要なものは、多様性・循環・現在志向

近年社会環境が劇的に変化する中で生じる複雑化した課題は、特定領域のソリューションだけでは解決は難しい。課題解決のためには「つながりを形成する新たな場」が必要であり、以下の3つの要素が求められると説明しました。

1. “INCLUSION”(多様性):様々なステークホルダーを受容し、オープンに対話をすること。企業、職種、立場、部門、これから社会に出て働く学生、性別、人種、国籍、宗教、信条などの多様性を受け入れ、いかに豊かなコミュニケーションを育んでいくのか。

2. “CYCLE”(循環):課題発見・解決だけでなく、成功・失敗含めて蓄積しながら次に活かすこと。イベントを行うだけで終わる揮発性の高い空間ではなく、そこで話された内容が実際の課題解決につながりソリューションになっていくという循環を回す。

3. “ACTUALITY”(現在志向):現在視点から物事を捉え、目指す未来を描きつつ変化のステップを設計すること。絵空事の未来ではなく、今生きている現在の立ち位置を捉え、ステップを踏んでいく。

「新たな場」に求める3つの要素

オープンイノベーションビオトープSeaという  新たな場を豊かに形成していきたい

「この3つの要素がよく当てはまるメタファーがビオトープである」と遅野井は提言します。生物の生息空間であるビオトープ。ここでは多様な生命がそれぞれの役割を果たしながら存在し、生も死も糧となって循環が起きています。そして今そこにある命の営みが場を豊かにしていく。つまり、「オープンイノベーションビオトープ」とは、多様なステークホルダーをオープンに受容し、複雑化した課題を対話を通じて解決しながら、現実的なステップを歩み未来を目指していく空間と定義づけました。
今後は、様々な活動を通じてナレッジを蓄積しながら情報発信を行い、オープンイノベーションビオトープというコンセプトそのものも豊かにしていく予定です。「今ここに集まっている皆さんはSeaというビオトープを形成している生命の一部。ここから未来へつながる豊かな海を共に形成して頂きたいと思います」と語り、締めくくりました。

TALK02

「会社に砂場をつくる」経験を通して

「全く同じカバンを持っている人がいるなんてシナリオは思いつかなかった」とオフィスでカバンがなくなったハプニングからトークを始めた博報堂の岩嵜氏。このできごとを「イノベーションをどう生み出すか」という話に結びつけて「イノベーションは思っても見なかったストーリーをどうつくるか、つながりをどうつくるかということだと思う」と述べました。

株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプラニングディレクター 岩嵜 博論氏
「プロトタイピングの重要性」を熱く語る岩嵜氏

社内イノベーション拠点としてのプロトタイピングラボの解説

岩嵜氏は社内のオープンイノベーションの場として、デジタルファブリケーション機材を備えた「プロトタイピングラボ」を博報堂の赤坂オフィス内の社員共有フロアに開設。岩嵜氏は、この「プロトタイピングラボ」の3つの目的を語りました。

  1. ワークスタイルとしてのプロトタイピングの浸透
  2. ゆるいつながりのイノベーションハブ
  3. 独習や相互学習によるスキル習得

誰でも使える場にすることで生まれる新しい出会いとゆるいつながり。最近ではクロスモーダルの研究をしている社員とソーシャルデザインの活動をしている社員が出会い、視覚・聴覚など複数の感覚を同時に刺激することで新しい体験のできる机「Write More(ライト・モア)」をつくり、先日のミラノサローネに持っていったという事例も生まれているとのこと。
また、「自ら学習したいと思えばいくらでも学習できる環境下にあるのに、大企業にいるとどうしても研修を通じて人から教わるということが身に付いてしまう。それを打破するような意味も含ませた」と「独習」の重要性を語ります。

「砂場」という場のメタファー

“Low Fidelity, Early Failure.”(低い精度でつくって、早い段階で失敗する)

プロトタイピングラボをつくろうと決めた理由として、4年前イリノイ工科大学へ留学した影響が大きいと語る岩嵜氏。何か提案をするときに「必ず形にしてつくってみる」という事が当たり前の環境で、よく言われていたのは“Low Fidelity, Early Failure”という言葉。この「精度を低くつくって早く失敗して、そこからラーニングを得よう」という考え方は、日本の企業の考え方との大きなギャップであり、「段ボールや手書きでささっとつくる」レベル感でプロトタイピング的にものをつくることが重要だと語ります。

社員同士の新しい出会いから生み出された
「Write More(ライト・モア)」

会社に「砂場」をつくることと、
その4つの要件

企業の中でイノベーションを起こすための場の要件として、岩嵜氏は以下の4つを挙げました。

  1. オープン:空間が外部に開いていること
  2. フレキシブル:組織や機能から自由であること
  3. インフォーマル:偶発的な対話を促す仕組み
  4. プロトタイプ:思いついたことをカタチにできる環境

これらを満たす場として「砂場」に例えた岩嵜氏。「プロトタイピングラボにおける僕の気持ちは砂場にいるお母さんのような気持ち。横にいて大丈夫かな、と見守っている」と締めくくりました。

TALK03

未来志向の対話の重要性

教員・職員・学生・卒業生の有志が集まるボランティア組織である、上智大学フューチャーセンタープロジェクト。代表を務める経済学部教授の川西氏は、大学の未来を考える場、どういう大学にしたいかを話し合う場として、上智大学の中にフューチャーセンターをつくりたいという思いを語りました。

上智大学 フューチャーセンタープロジェクト代表 川西 諭氏

単発で終わらせないワークショップ、不信から信頼へ

内外に抱える課題を、立場を越えて未来志向で話し合うことで解決方法を見つけていくという、学びながらのワークショップデザインを目標としたフューチャーセッションの活動を行っている川西氏。これまで3年間で7回ほど活動を行う中で、「アイデアを出すだけで終わらせない」ことにこだわり、実現に向けたセッションを繰り返したそうです。中でも、多数の賛同があった「業者頼みにならない、自分たちのカフェ作り」。約1年の準備を経て、2014年11月に「ぼくらのカフェ」のイベントを開催。飲食物を売るだけでなく、国際交流・ジョブ・哲学・読書の4つのカフェが同時並行し、それぞれの会話を楽しむコミュニケーションカフェの開催を実現しました。
「大学の究極の目標は教育機関で・研究機関であるため、学生たちが大学でいかに成長できるかというものであるが、教員・職員・学生の間に不信感が生じており、何となくの誤解や対立する部分があると感じる」と川西氏。その一番の原因は対話の不足からくる不信感であると指摘。「その不信感を信頼感に変えるために、フューチャーセッションによる未来志向の対話こそが信頼を生み、そこからお互いを理解して協力できるような関係性ができる」と語りました。

自身が感じた大学の空気

課題を乗り越える方法

今、大学側が直面している取り組むべき課題は、以下であると川西氏は語ります。

  • センターオブコミュニティ(COC)として地域課題を解決 していく役割を担っている
  • 学生たちが社会課題や企業の課題を解決する課題学習なども大学が行っていくべきだ
  • 大学はキャリア形成支援をしていくべきだ
  • 大学は学部や学科を越えた研究をしていくべきだ
  • 教育内容をもっとイノベーティブにしていくべきだ

これらの課題には共通点があり、「我々の力ではどうにもならず、解決できない事である。課題解決策は多様性のつながりの中から生まれるものであり、大学内でできることは限られている」と語りました。そのため、多様性やあらゆるつながりを生み出すフューチャーセッションを行うことは大事であり、そこにSeaのひとつの可能性があると川西氏は考えています。
「自分たちの中だけではできないつながりができたり、ここ(Sea)だからできる新しい場が、ひとつの課題解決の場になったり、また学生たちにとっての成長・出会い・経験の場となり、社会人になる活躍できる場になることを期待している」と締めくくりました。

TALK04

ビジネスの価値を高めるコミュニティづくりとは

株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪 光洋氏
2000年にクリエイティブのコミュニティとして始まったロフトワークがクリエイティブエージェンシーとして活動する中で、 最近増えてきているのが、「モノ」に関わる仕事。様々な企業とのコラボレーションが生まれているようです。そして、ロフトワークが開設した「Fab Café」は、モノづくりとカフェを組み合わせた形として、2012年にオープン。
「今では信じられないですが、当時はデジタルファブリケーションとクリエイティブはまだ結びついていない概念で、実験的な空間でした」と諏訪氏は語ります。
クリエイティブのコミュニティネットワークとして始まったロフトワーク

広告戦略は、クローズドからオープンへ

 モノづくりに関わる上で、製品やサービスを周知させる広告戦略。1990年代には、広告として伝えるべき商品についての要素を意図して明らかにせず、隠して期待をあおる「ティザー広告」によるクローズド戦略が主流で、Appleもクローズド戦略のリーダー的存在と言われてきました。しかし、Appleは、新製品である「Apple Watch」について、販売する7ヶ月前から商品の詳細を公表し始めました。広告のオープン戦略への大きな方向転換をしたのです。一体なぜなのでしょうか。
ビジネスにおけるオープン戦略のメリットとして諏訪氏は、「ユーザーの声が反映される」、「販売する前からファンが生まれる」、「企業とのコラボレーションがスムーズになる」という3点を挙げます。商品の情報をオープンにしていくことで、その商品を中心としてディベロッパーが集まり、そこでのコミュニティを盛り上げることで、商品に関わる新たなビジネスが生まれていくさまを語りました。

TALK05

メディアは離れているもの同士の境界を重ね、 新たな空間を作り出すものへと変化している

実践女子大学 人間社会学部 准教授 松下 慶太氏
これまでの研究内容を実際の写真を用いて説明

メディア論から見た空間と場の変化は「境界の曖昧化」と「場のメディア化」

 5人目の登壇者は実践女子大学の松下氏。メディア論、若者論を中心に研究をする松下氏は、メディア論の確認からトークを広げていきました。
メディアは媒介するもの、時間と空間を越えてコミュニケーションができるもの、つまり離れているところから離れているところへつなぐものであると社会的に理解されています。近年では、コミュニケーションがスマートフォンなどのモバイルと組み合わさり、離れているものと離れているものをなるべく時間と距離をゼロにして「つなげていく世界観」から、「重ねていく世界観」へと変化してきており、それに伴っていくつかの変化がおきています。松下氏は変化のひとつとして「境界の曖昧化」が起きていると述べました。パブリックとプライベートの曖昧化、フォーマルとインフォーマルの曖昧化、バーチャルとリアルの曖昧化。それに伴い“space”と“place”、つまり「空間」と「場」を今までのような形で捉えるのではなく、新しく考え直してもいいのではないでしょうか。「場のメディア化が起きているのではないか」と松下氏は続けていきます。

大学を飛び出し、境界に留まって活動する

曖昧化した空間では“crossing border”(越境)だけではなく“staying border”(留境)からも学びを得る

 こうしたメディア論の変化の中で松下氏は2つの考えを提示。まずは“crossing border”(越境)から“staying border”(留境)へという考えです。「自分の境界を越えて新しいところへ行けば、新しく新鮮な経験が得られ、それが自分の学びや成長につながるということは言われてきました。しかし越えるだけではなく、その境界に留まって活動することからも新たに見えてくるものがあるのではないでしょうか」と松下氏は述べます。複数の大学の学生がひとつの自由で開放的な空間に集まり、そこへ様々な人を招いて様々な人がしゃべり、話を聞くというワークショップ、大学ではなくテレビ局で、さらに学生同士だけでなく子供達も交え映像を作るワークショップ、また、今回のカンファレンスが行われているこのSeaに複数の大学の学生が集まりゼミを行うなど、大学や社会、企業、そして場そのものの境界を曖昧化していくという活動を松下氏はここ1年ほど行ってきた。「こうした境界を曖昧化した空間のなかでどういった活動ができるのか、そこからどういった学びが得られるのかということを実験的に行っています」と松下氏は現状を語ります。

身振り手振りで自身の取り組みについて語る松下氏

空間の境界をあえて崩すことは新たな場の空間化を生み出す

 2つ目は「舞台としての舞台裏、舞台裏としての舞台」という考え。松下氏は「舞台と舞台裏の境界も曖昧になってきています。むしろ舞台裏も見せた方がよいのではないかと思います」と語りました。活動した成果だけを見せるのではなく、打ち合わせなどの舞台裏そのものを見せ、舞台裏を見せていることが舞台であると考えます。あえて、空間を見せることで周りからの話を聞くことができ、自分も見られつつ活動ができる。このように舞台裏と舞台の境界をあえて崩していくことが、空間をメディア化する、あるいはつなげるメディアから重ねるメディア、また、ある場を空間化するということの実験になるのではないか。「Seaを使いながらこうしたことをいろいろな形で展開していき、様々な知見を得て、皆さんとフィードバックしシェアできればいいと思っています」とSeaの活用と展望を語っていただきました。

REPORTイベントレポート

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