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ポジティブなコラボレーションがチームワークを変える ー スウェーデンustwo流「コーチ」とは

ーustwo月曜の全体朝礼の様子

 

スウェーデンにあるデジタルプロダクトスタジオustwoで、専任の「コーチ(Coach)」として働いているPetter Mellanderさんに話を伺った前回。彼は「チームの目的を達成するためのプロセスを設定し、実行する」ために、さまざまなアプローチでチームに働きかけ、コミュニケーションやコラボレーションを促しています。イノベーションを創出するコーチとしての役割は、チーム構築の大きなヒントとなるものでした。また、Petterさんの前職で、その職能を身につけた場所であるクリエイティブビジネススクールHyper Islandのメソッドもまた、「何を学びたいかを知る=自分自身を知る」を追求するというもので、「学校では何かを教わる」という既存の価値観を覆すようなものでした。前編に引き続き、後編ではPetterさんからより具体的なコーチの手法を伺いつつ、日本企業での実践への可能性を探ります。

 

・記事前編_スウェーデンustwo流「コーチ」がチームのイノベーションを促す

 

コーチの役割は定型化できない

ーPetter Mellander(ペッター・メランダー)
ビジネスデザインスクール「The Kaospilots」卒業。マルメ市役所、ストリクスTVでイベントのプロデュースやマネジメントに携わった後、デジタル・クリエイティブ・スクール「Hyper Island」に所属。プログラムマネージャーやチームリーダーを務める。2013年、ustwoに入社。現在は”Team Coach”として価値創造、コラボレーション、学習に重点を置き、個人やチーム、クライアントを指導している。

 

WORK MILL:コーチが非常に大きな役割を果たしているのはわかりました。けれどもそれは当初からうまくいったのでしょうか。

 

Petter:混乱はあったかもしれません。僕自身、これは大きなチャレンジだと思っているんです。なぜなら、実態のない「ふわふわしているもの」ですから。未だに自分で「僕の仕事は何だろうか。どうすればいいのか」と問いかけています。何か定型のものとして捉えるのが難しいんですよね。
スタジオではさまざまなチームに出入りして、誰が何を言っているか、どんなやり取りが行われているか、衝突があるか……場合によっては”におい”を嗅ぎつけて、それらをピックアップして、検討します。そして必要に応じて誰かに「どうしたの? 話そうか」と声をかけているんです。時にはスケジュールが合わなくて、難しいと感じることもありますし、このコーチという役割に奮闘している感じです。

 

それに、僕らはコンサルティング会社でもありますから、このコーチング・システムの存在をクライアントに明かすことには戸惑いがありました。クライアントからすれば、「必要ないじゃないか。そんなことにお金を払うなら、自分たちでやるよ」と言われかねません。けれども、ある一定の予算を最大限使って、もっとも優秀な人を50名雇って、ポンと同じ部屋に入れても、必ずしも成功につながるわけではないんですよ。多くの企業はいかに優秀な人材を雇用するかに重きを置いていますが、「チームで働くこと」に関してはあまり関心を払っていません。けれども僕がもっとも大切だと考えているのは、一緒に働いている人たちとの関係性とコラボレーション。それこそが会社の基盤だと思うんです。極端な話、それ以外には何もいらない。実際、ustwoには何もありません。コンピュータとほんの少しの観葉植物、そして「人」だけ。すべての仕事を1人でできる人なんていないし、みんな互いに頼りあってるんです。

 

感情をさらけ出すことで人との結びつきは強くなる

WORK MILL:コーチの手法について、もっと詳しく聞かせてもらえますか。

 

Petter:優秀な人を雇ったとして、彼らがチームとしてパフォーマンスを発揮するには、時間とお金という限られたリソースの中で、よりよい方法で行わなくてはなりません。それには2種類の方法があります。
ひとつは伝統的な方法。リーダーがプロフェッショナルとして、すべてイニシアチブをとる方法です。けれども僕がより効果的な方法だと思うのは、互いにありのままの自分をさらけ出すこと。つまり、感情的になって、喜びや悲しみをあらわにして、脆さをも互いに打ち明けるのです。感情的な部分こそ、お互いを強く結びつける。知的な部分でも誰かとつながることはできるけど、「人として」つながったほうが、より互いを理解することができるんです。ですから、僕は実際、みんなに対して感情的にどう感じているかを聞いて、それをシェアします。そうやって人と人との距離が近づくことで、よりよい仕事につながっていくのです。

 

とある実験の話を例に出しましょうか。教室から無作為に選んだ6人に目隠しをして、外で待ってもらいます。そしてクラスに残った学生で2つの円を作ります。次に、6人を教室に入れて、2つの円の中にそれぞれ入ってもらいます。ひとつの円ではネガティブな感情の念を、もうひとつの円ではポジティブな感情の念を彼らに送ってもらうのです。それから、目隠しをしていた6人に、「どちらの円に入りたいか」を尋ねると、みんな「ポジティブな感情を送っていた円」のほうを選んだのです。3クラス、計18人で試しましたが、結果はみんな同じでした。

 

これはマジックでもなんでもなくて、実際に言語化されなくても、感情が人に影響を与えることの証拠なのです。システマチックな考え方からすれば、こんなの考慮する価値のないことかもしれない。けれども、チームワークの世界では、こういう些細なことさえ仕事に影響を与えるということなんです。ですから、よりよく共に働くためには、お互いにコミュニケーションを取る必要があるし、「みんなを愛する」まではいかなくとも、物事を明確にして、オープンである必要があるんです。

 

WORK MILL:とはいえ、特に日本では、社内で感情をさらけ出したり、考えをオープンにしてシェアしたりすることは難しいように感じます。

 

Petter:スウェーデンもさほど変わりませんよ(笑)。でも、オープンにすることでメンバーが変わってくれば、それをやる意義を理解してもらえるかと思います。効率化が優先された社会の中ではある種、企業は僕ら働く人のことを「リソース」としか考えなくなっている節があります。人としての複雑さを無視して、まるで機械のように。けれども、最低限……これが果たしてユニバーサルなのか、日本にも当てはまるかどうかはわからないけど、「人が幸せに働く」ためには3つの条件があるんです。
ひとつは、「学びと成長」。それを得ることで、仕事を円滑に進めることができます。もうひとつは、「有意義であること」。仕事によって、何らかの価値を生み出しているということです。最後に、これは個人的にもっとも重要だと思っているのですが、「居場所」。その人が必要とされている場所があることですね。

 

常に相手にリスペクトを置くこと。関係する人がどこにいても、どんな人でも、いつも親切に、優しくある必要があると思います。ここで大切なのは、会社の内外問わず、さまざまな人に接するなかで、「心理的な安全地帯」があれば、お互いに遠慮なく話し合うことができる、ということ。つまり、僕たちコーチがその「安全地帯」を担っているわけです。僕たちはプロジェクトやチームの動向に直接的には関与せず、利害関係はありません。ですから、遠慮なく思いを打ち明けることができるのです。そしてコーチがその役割を認識し、ミーティングや対話の場をファシリテートすることが求められています。
人間関係がどれほど重要か、おそらくおわかりいただけると思いますが、僕にとっても大きなチャレンジです。ミシェル・オバマ夫人の”Great leaders lift people up, and bring people together.”(偉大なリーダーは人びとを引き上げ、結びつけるもの)という言葉が心に残っているのですが、まさに僕の仕事を言い表してくれているように感じます。

 

壮大な問いかけが成長への手がかりになる

ークライアントとのワークショップで指示を出すPetterさん

WORK MILL:私たちが実際にコーチの手法を取り入れる場合、どういったことから始めればいいのでしょうか。

 

Petter:形式的なものと、そうでないものと、いくつかの次元があるでしょう。カジュアルなもので言えば、プロジェクトメンバーと一緒に座って、とにかくよく質問して話しかけています。何をやっているのか、どう感じているのかを引き出す「会話役」みたいな感じです。あと、たとえば机の座り方ひとつ取っても、向かい合って座るより、背面を合わせて座ったほうが喋りやすいですよね。ディスプレイで会話が邪魔されませんし。

 

ワークショップは形式的なものと言えそうですね。週次ミーティングで互いにフィードバックをする際は、あくまでも好意的な意見を述べるようにする。信頼と良好な関係を築くことで、タフな状況に陥りづらくなりますから。チームメンバーの1人を後ろ向かせて、3分間その人の良いところを話し合う。その人は聞くだけ……とかね。これが、信頼とモチベーションを生むための具体的な方法です。詳しくはHyper Islandのツールボックスも参考になるでしょう。

 

ワークショップを行うにあたって重要なのは、「みんなが目的をわかっている」と確認することです。少なくとも、その目的が提示されただけでワークショップをはじめることはできます。もうひとつは、ワークショップに期待される結果を認識し、同意すること。そして明確にアジェンダを設定することです。目的、結果、アジェンダの3つをホワイトボードや大きな紙に書いて、いつでも誰でも見られるように掲げます。そしてそれをチーム全体と共有するのです。僕はいつも最初の数分間、参加者すべてに考える時間を与えて、ワークショップへの期待を表明してもらいます。そして先ほど話した「アイスブレーカー」のような簡単なメソッドを行います。そうすれば、ワークショップの本編をはじめるに十分なベースが整ったと言えます。参加者はなぜここに集まったのか、どんなことが期待されているのか、ワークショップのアジェンダと結果、成果、目標を確認すれば、より素晴らしいワークショップになるでしょう。

 

そして、もうひとつ形式的なものでいえば、僕は1対1のコミュニケーションを心がけています。メンバーをコントロールするのではなく、よりよいモチベーションのために、もっと壮大な質問を投げかけるようにしています。「幸せとはどんなもの?」といった哲学的な質問や、「もし仕事がなかったら、明日は何をする?」とかね。典型的なプロジェクトマネージャーのようにはならないようにしています。普通、職場では仕事以外のことは話しませんよね。より大きなイメージを描こうとすることが、彼ら自身の成長への次のステップになるかもしれません。

 

※Hyper Islandによってまとめられたツール・メソッド集。「イノベーション」「セルフリーダーシップ」「チーム」などカテゴリー別にその方法が紹介されている。

 

上司は歩きまわり、話し、耳を傾ける「奉仕的なリーダー」であるべき

ーUstwoのエントランス

WORK MILL:今からすぐ社内にコーチを置く……ということは、多くの企業にとって難しいかもしれません。けれどもある種、マネージャーがその役割を担うことで補えることもありそうです。コーチから見て、理想的なマネージャー、上司とはどんな人でしょうか。

 

Petter:企業活動であるからには、何かを生み出すことが課題とされます。その中で、確かにマネージャーにはプランニングとかコントロールなど、さまざまな役割があると思いますが、ひとつのチャレンジとして、いったんそこから離れて、「人」を中心に置いてみてはいかがでしょうか。もっと仕事を任せ、人と話す機会を持つのです。けれどもそれは決して、「ミーティングでカレンダーをいっぱいにする」ということではありません。もっと対話を重視するのです。たくさん歩きまわって、話して、耳を傾けるということ。「偉大なリーダー」ではなく、「奉仕するリーダー」に徹して、チームメンバーをよりよくすることに励むべきなのです。そのためには、面白い人やことを、歩きまわって探し回らなくてはいけません。部下が100名規模の組織では難しいかもしれませんが、何か方法を模索するべきです。

つまり、ワークプレイスが単なる職場ではなく、よりよい関係性とコラボレーションを築く場となることが大切なんです。上司には難しい決定を余儀なくされる場面がありますが、よりよい関係が築けていれば、その決定も格段に容易になるはず。その決定について、率直に部下に尋ねることができますからね。上司はメンバーとの理解を図ろうとするような「共感的な人間」であるべきだと思います。

 

WORK MILL:では、Petterさんが考えるコーチとはどんな存在でしょうか。

 

Petter:昔ながらのやり方なら、上司は部下よりもその仕事に秀でてないといけませんでしたが、今のご時世、それでは時代遅れです。何より、部下は何を成し、何をすべきかを既に知っているんです。ですから、僕らはそこで「パワフルな仲介者(powerful neutral)」として振る舞うのです。僕らコーチは彼らが向かう方向性や職務内容について、強い意見を持っていません。そういった権限は持っていませんからね。それに彼らにはスキルがあると信頼していますから、上から指図することもありません。実際、彼らが取り組んでいる分野について、専門知識を持っていないことで、サポートが難しく思えることもありますが、わからなければ尋ねればいい。対話を重ねて信頼を築くほうがよっぽど重要なのではないでしょうか。

 

ワークショップ中の風景

リーダーたちが2017年の戦略をプレゼンテーションし、全員からのフィードバックを受けている様子

クライアントとのキックオフワークショップ

2017年1月17日更新
取材月:2016年12月

 

テキスト: 大矢 幸世
イラスト:野中 聡紀
写真:Petter Mellander

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