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「活きた」共創空間をつくる

―タイ・バンコクにあるコミュニティモール「The Commons」。エリアに根付くコミュニティを生むためにつくられたこの空間には、アクセスしやすいオープンさと心地の良い温かさを感じる

いま、「共創」や「オープンイノベーション」という言葉が世間を賑わせています。ひとつの企業や組織、あるいは個人が、自分たちの限られたリソースだけで価値創造を行うのではなく、他者とリソースを共有し、より大きなリソースを駆使すること、あるいはその相乗効果によって1+1を3にも4にもする活動がさまざまな現場で求められ始めています。程度はさまざまなれど、実際にそのような共創の活動が数多く立ち上がり、大きな話題を呼ぶようになってきているのです。

 

最終回では、共創空間をつくるうえでさらに考えたい設計指針と、共創空間を運営するうえで重要な課題、そして共創空間と共創そのものの今後の方向性について考察します。

 

・記事前編_なぜいま共創空間が注目されるのか?
・記事中編_共創をドライブする空間のつくり方

 

「多目的」でなく、「複合用途」

共創空間は、多様な人たちや情報との出会い、パートナーとの密な打ち合わせ、プロジェクトチームでのプロトタイピング、多くの人を集めたワークショップや勉強会、関係性を強化する交流会など「ともにつくる」プロセスにおけるさまざまな工程をサポートし、促進し、円滑に実行させる機能を持つ必要があります。そのためには、中編でも述べたように、さまざまな活動にフレキシブルに対応できるための「可変性」と、その空間に集まる理由となる「特設性」の2つがとくに重要となります。その場で「なんでもできる」フレキシビリティを備えること、人が集まりたいと思えるような設備や内装を備えることをいかにうまく両立させるかを考えて空間を設計しなければなりません。

 

「多目的スペース」と呼ばれる空間があります。キャスター付きの移動しやすい家具が並び、活動目的に応じてレイアウト変更が可能な空間ですが、無味乾燥とした内装になりがちで利用率が低く、遊休時間が長いというケースもしばしば見られます。「多目的」とは言い換えれば「主たる目的がない」とも言えるわけで、主たる目的がなく、何をするためのスペースなのかよくわからないという認知が広がると、結果的にあまり利用されなくなってしまいます。前述の通り、共創とはいくつかの工程が交わってなされるものであるため、「共創する」という言葉を漠然と目的化して共創空間をつくろうと考えると、この「多目的スペース」と同じように「何をするためのスペースなのかよくわからない」空間となってしまう危険があるのです。

 

それよりもむしろ、目的を持った既存の空間に「用途を足す」ことできちんと利用される共創空間となるケースが多く見られます。例えば、エントランスだった空間、展示スペースだった空間、カフェだった空間などに対して、打ち合わせやグループワークのしやすい家具・ツール・設備を導入する、交流を促進するための飲食物を保管するパントリーや情報受発信しやすいツールを持たせた内装に設え直す、活動に集中できる程度に空間を仕切る機能を追加する、あるいは空間を拡張するなどによって、共創空間を作り上げるのです。

 

例えばカフェでは、一部の空間をワーキングスペースとして提供できるように設え、そのように提供することをビジネス化するケースが増えている

空間の利用されていない時間を有効活用するために「用途を足す」という方法を取り、多角的な価値提供を行うスペースづくりは共創空間づくりにも応用できる

 

 

ゼロからではなく「用途を足す」という手段によって共創空間をつくる場合、何のためのスペースかわからないということがなくなり、かつこれまで利用されていなかった時間も他の用途に利用することができます。また、はっきりとした主目的や新たに追加した用途が「この空間は共創のためにこのアクションを促進する場所なんだ」という特設性にもつながるのです。カフェ空間に用途を足した共創空間であれば、飲食によって交流を最大限に促進するという特設性を持つ空間だと認知してもらえるわけです。

 

私はこれを空間の「複合用途」化と呼んでいますが、新築の場合にもこうした考えを前提に空間設計するというやり方が有効に働くのではないでしょうか。

 

「私」の空間に、「共」の空間を取り戻す

また、共創空間へのアクセスをよくすることも重要なポイントです。どんなに素晴らしい共創空間であっても、利用者がたどり着きづらいところ、活動が伝わりにくいところ、入りづらいところでは、共創プロセスの妨げとなってしまいます。人がたどり着きやすいように建物の外側に面したところに構える、人の目に届きやすいように空間の中を外から覗けるようにする、人に伝わりやすいように空間の中から外に向けて情報発信する、人が入りやすいような雰囲気が外へと伝わるといったことが求められるのです。

 

現在の日本社会における空間の多くは、「公(パブリック)」か「私(プライベート)」か、はっきりと分けられ、その間にはセキュリティによる境が設けられています。安心安全を守るためにとても重要で、かつ必要なことではありますが、それによって妨げられてしまったこともまた、少なくありません。組織化された企業にとってはそのひとつが共創であり、自分たちのリソースを守るのではなく、他者と共有することで価値創造を促したいという共創の考えが広がる中では、相反する状況となってしまっているのです。

 

安心安全のためのセキュリティを担保したうえで共創を促す環境を用意するためにはどうしたらよいのでしょうか?難しい課題ですが、ひとつの試みとして、自分たちの「私」の空間の戸口や軒先にセキュリティの境を緩めたやり方を取るケースが増えてきています。「公」と「私」の間に緩衝空間を設けて接点をつくる。それはまさに「公」と「私」の間の「共(コモン)」の空間と言えます。

 

現代社会では、「共」の空間が失われつつある。「カレーキャラバン」という活動では、仮設的に「共」の空間をつくることで、コミュニケーションの場を生み出す試みを行っている

建物の軒先など、「私」の空間の戸口に外の中を緩衝させるゆとりのある空間を設けることで、共創空間はその機能性をいっそう高めることができる(写真は、東京・蒲田にある工房併設型のシェアオフィス「カマタ_ブリッヂ」)

 

日本社会には「共」を大事にしてきた過去があります。経済成長期には、他者との互助互恵関係から価値創造を急進し、同時にリスクヘッジも行ってきました。住まいにも土間や縁側といった、外と中を緩衝させるゆとりのある空間が存在し、多用途に機能していました。そうした要素を現代社会に適応させる形で再構築することが求められているのではないでしょうか。

 

 

共創空間をつくってから、どう使うのか

以上のように、共創空間をつくるうえで考慮する点は多くありますが、共創空間にとってもっと重要なことは、その空間を「使う」こと、そこで行われる活動が円滑にまわるように運営することです。共創プロセスには突発的な成果を期待しづらく、豊富で密なコミュニケーション量とともに継続性が求められます。継続的な活動や運営をするために重要なことを考えてみましょう。

 

「何を目指すのか」「何を行うのか」「何をつくりあげていくのか」、そういった利用の目的や目標のないままに共創空間をつくりあげても、そこに人は集まりません。また、運営側の人たちにとって関心のない目的や目標を無理やり掲げてしまうことも問題があります。中編で「関心」という要素を上げましたが、周囲から興味関心を集めるにはまず自分たちの興味関心ごとを他者にきちんと伝えることが重要となります。そのために重要なことは「こういうことをやりたいんだ!」「こういうことをやってみた!」という熱意そのものです。運営者自身の持つ内発的動機は、人の興味関心を惹きつける大きな要因になります。

 

一方で、社会背景や時事情報、未来洞察、周囲のニーズなどといった外部要因ももちろん重要です。さまざまな情報、人、技術などを客観的に捉え、冷静に分析しまとめあげる編集者のようなスキルが求められると言えます。

 

内発的動機をしっかりと持つリーダーシップ、冷静に分析しまとめあげる編集スキル、そして「共」の空間としてのゆとり、それらの要素が運営上では必要となります。そしてそれらはひとりのリーダーが抱え込む必要はなく、むしろ複数人のチームによって共有化されてこそ、共創は回っていくのではないでしょうか。

 

ーチームをいかに結成し、継続的に活動を行っていく基盤をいかにつくるか。「Fablab Amsterdam」では、インターンシップの仕組みを有効に活用し、運営に必要なスキルやマインドを教え学びあいながら、チームワークを醸成している

 

「ともにつくる」ことで社会はどう変わるのか?

共創という考え方がさまざまなセクターで盛り上がりを見せ、社会に徐々に浸透する中で、これまでの市場経済社会における「提供者と利用者」、「生産者と消費者」といった明確な二項対立関係に少しずつ変化が現れはじめています。だからこそ、変化する新しい関係性に適応する空間として、「共」の空間を見直す必要があるという見方もできるかもしれません。

 

いま現在の共創ムーブメントには一過性の要素が大きく含まれていると感じますが、その恩恵を被る人が増えている以上はゆるやかに社会に浸透していくのではないでしょうか。そのゆるやかな浸透に比例して、さまざまなセクターにおいて働き方と働く場の変化が求められていくことでしょう。

 

また、共創が巻き起こる大きな要因となったICTやテクノロジーの世界は日々進歩しています。AI(人工知能)、ロボット、自動運転、ドローン、デジタルファブリケーションなど、新たなパラダイムシフトを起こす可能性を持つ先進技術はすでに偏在しており、共創の形もまたいっそう進化していくことでしょう。前編では、ICTのツールはFace to Faceに勝るコミュニケーションの質を生み出せていないと述べましたが、それもこれからの技術革新によって、いつ取って代わられてもおかしくはありません。また、移動コストの課題も技術革新によって解消されていくでしょう。そんな中で、物理的に空間に集まる意味は低くなっていくかもしれません。

 

そうであっても、物理的に距離が近いこと、周囲に集約・集積していることの価値が大きいことに変わりはありません。移動コストが小さいほどメリットはいっそう大きくなる可能性があります。 より小さいスケールにおいては、そのエリアにはどんな特徴があるのか、どんな人や組織がいるのか、どんなリソースがあるのかが重要となります。その中で互恵互助の関係性や地産地消のエコシステムが強化されていくことは価値の発揮につながるでしょう。 

 

これからの共創は時間と距離を越えたグローバルレベルのより大きな結びつきと、より小さいスケールの特性を活かした結びつきと、それに適した空間が求められるのではないでしょうか。 

 

2016年12月20日更新

 

【参考】
・恩田 守雄(2008) 『共助の地域づくり―「公共会社学」の視点』 学文社
カレーキャラバン ー グローブ犬は考える「もっともらしい話」
カマタ_ブリッヂ
FabLab AmsterdamWaag Society

 

【プロフィール】
ー庵原悠(いはら・ゆう) 株式会社岡村製作所 ソリューション戦略部 未来企画室
既存のデザイン領域を越えて、デジタルメディアや先端技術がもたらす新しい協働のスタイルとその場づくりに従事。Future Work Studio “Sew”Open Innovation Biotope “Sea” ディレクター。慶應義塾大学SFC研究所 所員(訪問)。

 

テキスト:庵原 悠
写真:岡村製作所、カレーキャラバン、ryo yoshida(カマタ_ブリッヂ)
イラスト:野中 聡紀

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