• HOME
  • 生産性を高める変革はスマートな対話と意思決定の環境づくりから

生産性を高める変革はスマートな対話と意思決定の環境づくりから

前編で述べたとおり、ワークスタイルは流行性を持った言葉です。またスマートでお洒落な事例として報道・紹介されることによって目新しさが印象づけられるため、 個別施策がどうしても注目を集めてしまいがちです。後編では現場の仕事にもう少し目を向けて、変革の意味について議論を進めていきたいと思います。

・記事前編_本質を置き去りに一人歩きするワークスタイル変革

 

チャレンジ業務を達成できない職場の現状

そもそも現場においては何が起きているのでしょうか。

 

一般的に企業組織は数年先を見据えた中期計画や将来の経営ビジョンを作成し、新規事業創出や利益率の大幅向上といった経営的なチャレンジを掲げています。この企業全体としてのチャレンジは、各事業組織の目標を経由して現場で働く一人ひとりのミッションに落とし込まれていきます。 

 

しかし現場では、このチャレンジ業務にあたる時間を思うように捻出できていないケースが少なくないようです。これにはいくつかの要因があります。議論の前提として、直接的に利益を生むための価値を創出する業務を「コア業務」と呼び、直接的には利益を生むための価値を創出していないそれ以外の業務のことを「ノンコア業務」と呼びます。この2つの業務類型それぞれにおいて、以下のような問題を抱えています。

 

コア業務:生産性の低さが見直されていない日常業務

日本のホワイトカラーの生産性の低さについては、各方面でさまざまなデータと共に語られています。この問題の大きな原因として、固定観念が存在すると捉えています。

 

例えば、ひとり1台のPCが当たり前になる前に設計された業務プロセスが、依然として維持されていること。従来の紙ベースの業務プロセスをそのまま電子化しただけの業務プロセスが存在していて、紙文書をきれいに再現したExcelファイルが印刷され、承認印を押すだけの儀礼的な稟議プロセスに回される。紙でないと正式でないというデジタルに対する一抹の不信感・不安感が後押ししていると思われるこの慣習は、リレーで押されるスタンプの数だけ意思決定と責任が分散されていきます。

 

また、長年使ってきたフォーマットが唯一無二の正であり、それ以外のやり方は存在しないという固定観念の存在。かつて在籍した社員が作成したExcelファイルが、重要な情報のやり取りや意思決定で伝統的に使われているケースもあります。

 

これらに代表されるような業務上の「こうでなくてはならない」プロセスが、生産性を妨げる無駄を生んでいます。

 

ノンコア業務:年々複雑化するルールの存在

これに加えて厄介なのは、年々増える制度・ルールでがんじがらめになっていることです。特に前編でも触れたコンプライアンスは、2000年代後半に「内部統制」と翻訳されて多くの企業に導入されました。社内処理における申請・手続きのプロセスが膨大になったり、適切に遂行されているかを監査するプロセスが増えたりといった、多くの管理業務が生まれました。このことで意思決定の遅れを招いている企業も多く、一層スピード感が求められるビジネスの競争力を阻害する要因になっています。内部統制以外にも個人情報保護法の順守、営業秘密保持のための管理業務など、多くのルールへの対応のために現場では多大な工数を割いています。

 

ノンコア業務:業務遂行基本能力の低下

人や情報にアクセスできること、対話と意思決定ができること。このように仕事を進めるうえで基本的に必要になる能力を、業務遂行基本能力として定義しています。この業務遂行基本能力は多くの企業において相当危機的な状況にあります。

 

  • 電話や訪問したら不在で、折り返しを受けた時には自分が不在…を繰り返す折り返し電話・訪問のラリー
  • 適切なコミュニケーション手段がないためとりあえずメールが生むメールの洪水
  • 情報共有を会議に頼っているため、参加するだけの会議が多く、定時後にようやく自分の時間
  • 会議室が確保できないので会議開催が先送りになり、意思決定が遅れる会議室至上主義
  • 場所が離れると打ち合わせのために物理的に集結しないといけない集合と移動のロス
  • 外出だけでなく、自席を離れると社内の情報から断絶されてしまう情報の孤島化 など

 

このように書くとあまりにも次元の低い話のように見えますが、実際に企業の現場では頻繁に起きていることです。それだけではなく、ワーカーの自覚している以上に多くの時間の無駄を生んでいて、現場の生産性を大いに損ねています。業務遂行基本能力の低下は極めて看過できない要素です。 

 

これらの結果、低下する業務遂行基本能力と日増しに増える各種ルールへの対応が多い労働環境の中で、定時内は生産性の低いルーチン業務に時間を費やしている。時間外勤務を充当することでなんとかチャレンジ業務にわずかな時間を充てている。少し乱暴な表現かもしれませんが、実際に目にした職場のほとんどがこういう現状にありました。 

 

企業における変革のふたつの方向性

いうなればコア業務は「働いて価値を創出すること」であり、ノンコア業務が「働き方」です。今企業の現場では、この価値創出のあり方と働き方の両方に問題を抱えています。このような現状を打破するため、以下のふたつの方向性が重要になります。

 

 

 

コア業務:BPRでルーチン業務を効率的・抜本的に極小化

まず、BPR(Business Process Reengineering: 業務プロセス改革)を推進することで、ルーチン業務を極小化していきます。既存の業務プロセスを抜本的に見直し、デジタルな情報共有が可能になったことを前提とした情報と業務プロセスの再構築が必要です。

 

たとえばCADデータ。今は各部門が独自でCAD図面を作成して業務に当たっていることが多く、そもそも図面作成の時間が無駄になっているだけでなく設計部門の図面変更が他の部門の業務に反映されないといった事象も起きています。紙図面の名残とも言えるこういった業務は、設計部門が作成したCADデータを流用し、生産部門は工程図面を作成し、調達部門は部品発注を行い、マニュアル作成部門はマニュアルの図版に落とし込むことで情報共有の頻度と精度が向上します。生産部門が上流の設計段階に参画して工場側の意向を早期に図面に反映できたり、コストダウンの検討を早期に開始できたりといった業務改革を進める原動力にもなり得るでしょう。

 

また、事業部門が作成する売上・原価・利益といった経営的な数値情報。営業部門が作成・管理する販売の数字と、企画部門が作成する商品の投資採算性情報が連携してなかったり、ほぼ同じ資料を別の目的で作成したりといった無駄が発生します。また、各部門で1から資料を作成するために膨大な手間が発生し、意思決定に十分な時間を割けないといった問題や、場合によっては鮮度の落ちた不正確な情報で意思決定せざるを得ない状況も発生しています。このようなことを防ぐためにも数値情報は統合データベースで一元管理・共有し、各部門がそのデータベースにアクセスしながら必要に応じた資料を作成する。会議の中で発生する状況の変化や検討バリエーションの発生に柔軟に応じて、常に最新情報に更新されていく。こうしたデータを戦略的に活用した意思決定が、スピーディな経営の現場には求められています。

 

ノンコア業務:ワークスタイル変革で業務遂行基本能力をスマートに極小化

上述の通りこの領域が「働き方」にあたりますので、ワークスタイル変革は業務遂行基本能力をスマートにすること、と捉えると分かりやすくなります。

 

  • 必要に応じて必要な人や情報に素早くアクセスできる
  • 相手と自分の状況に応じた適切なコミュニケーション手段を選択できる
  • 質の高い会議・打ち合わせができる
  • 時間と場所にとらわれない機動力の高い働き方を選択できる など

 

こういったスマートな業務遂行基本能力を一人ひとりが獲得していくことがワークスタイル変革の実践的な意味そのものです。スマートになった業務遂行基本能力をフル活用し、洗練されたワークスタイルがコア業務のスマート化を一層促進することになりますから、業務プロセス改革の効果を最大化するためにも、ワークスタイル変革を推進していかなくてはなりません。そのうえで各部門が本来チャレンジする業務への対応時間を増やしていき、付加価値の高い業務に集中しながら時間当たりの生産性を向上させ、長時間労働を解消していく。単なる流行の追求ではない経営戦略としてのワークスタイル変革の意義がここにあります。

 

チャレンジ業務に当てる時間を増やすために必要な環境とは

前に述べたルールの領域は法規制への対応もあるため、おそらく短期的な視点で減らすことは困難だと感じます。しかし、ワークスタイル変革と業務プロセス改革を行うことで、固定観念を外した本質的な対応が見えてくるのではないでしょうか。

 

働いて価値を創出するコア業務と、働き方そのものであるノンコア業務の遂行能力。今企業の現場では、このふたつの変革を推進して、生産性を高めチャレンジ業務に充てる時間を増やす環境づくりが求められています。そこには、前編で述べた経営と社員の本来的な信頼関係と、それに基づいて私たち働く一人ひとりが主体的に意識・行動を変え、新たなスタイルを身につけていくことが求められていると考えています。

 

テキスト:遅野井 宏
写真:遅野井 宏
イラスト:野中 聡紀

関連記事